ねらわれたルーベンカイザー
翌日、ゆうたが学校から帰ろうと校門を出た時、後ろから呼び止められました。
「ねえ、君」
ゆうたが振り返ると、そこには、「ルミナス」にいたひげを生やした小太りの男の人が立っていました。
ルーベンカイザーのことだ。
男の人の顔を見た瞬間、ゆうたは直感しました。ゆうたは、昨日のように逃げようと思いましたが、足がすくんで全く動けません。このままじゃだめだ、何か言わなくちゃ・・・・。
「どうして・・・ここに?」
「もうあきらめかけてたとこさ。あの店に一番近い小学校だから、もしかして君が出てこないかとずっと見張っていたんだ。帰らなくてよかった」
男の人は、作り笑いを浮かべました。
「この間の話だけど、君の持っているルーベンカイザーの製造番号、確認してみたかい?」
男の人がニヤニヤしながら聞いてきます。
ゆうたは、本当のことを言うべきか迷いました。もし、18066だったと言えば、男の人はゆずってくれと言うにきまっています。、それは絶対いやでした。
男の人はしばらくゆうたの表情を見ていましたが、
「じゃ、おじさんに君のルーベンカイザーを見せてくれないか?」
ゆうたは何と答えていいか必死に考えました。
どうしたら、この男の人からルーベンカイザーを守れるのか。
「もう番号を見ているんじゃないか?イッパゼロロクロクだったんじゃないか?」
ニヤニヤしていた男の人の顔から急に笑顔が消えました。
ゆうたの口は固く結ばれて何も言えません。おもちゃ戦争を止める前の、何も言えない、お兄さんやお姉さんの言いなりだったころのゆうたに逆戻りしてしまったかのようです。
「ゆうた!」
威勢のいい声が、ゆうたをハッと我に返らせました。
まことが、ゆうたの肩を抱くように飛びついてきました。
「おじさん!校門のところで立ち止まられるとみんなの邪魔だよ!」
男の人はまことの威勢に気押されています。
そこに、しんぺいとその取り巻きもやってきました。
「よう、しんぺい、いっしょに帰ろうぜ!」
しんぺいは、いつもはめったに話しかけてこないまことに話しかけられ、目を白黒させています。
まわりを小学生たちに取り囲まれ、男の人は、少し後ずさりして、決まり悪そうに振り返って足早に去って行きました。
「行っちゃったな」
まことが言います。
ゆうたがまことの方を見ると、まことが笑いかけます。
そう、ゆうたは今はおもちゃ戦争の時とは違います。まことという親友が味方についてくれているのです。ああ、そう、しんぺいたちも・・・ときどきね。
◆
「イッパゼロロクロクだったのか」
家への帰り道の途中、しんぺいたちと別れたあと、ゆうたはまことにルーベンカイザーの番号のことを話しました。
「すごいな。何千万円てするんだぜ?何千万円もあったら、いったいどのくらいおもちゃが買えるんだろ?」
「僕は売る気なんてないよ」
ゆうたは少し怒ったように言います。
「ごめん。ゆうたは何千万円もするからルーベンカイザーを大事にしているわけじゃないもんな。でも、あの店員にこのことがばれたら、絶対ゆずってくれって言うにきまってる。もしかしたら、お金で買い取るっていうかも。ぜったいばれないようにしなくちゃな」
ゆうたはまことの言葉にうなづきました。
「じゃ、また明日」
ゆうたは、まことと別れ、アパートの方に駆けだしました。
家は鍵がしまっていました。ゆうたは、郵便受けの中から鍵を取り出すと、鍵を開けて家に入りました。
その様子を、ひげを生やした小太りの男の人が電柱の陰からじっと見ていました。
◆
「俺は、ゆうたから離れることはない。ゆうたが俺を必要とする限り」
ルーベンカイザーのよく通る力強い声は、それでもゆうたの心から不安の影を完全に追い払うことはできませんでした。
「しかし、その男、ルーベンカイザーだけでなく、ゆうたやその友達に危害を加えるつもりはないだろうか。わたしはむしろそれが心配だ」
ビュートルグラスが言います。
「いいか、ゆうた。たとえその男が俺をどこかに連れ去っても心配するな。おれは王国を監視する一匹オオカミの放浪者。どこにいようと必ずゆうたの元に帰ってくる」
「でも、どこか遠い外国にでも売り払われたらここに戻ってくることなんてできないよ。保育園から家に帰ってくるのとは全然違う」
ゆうたの不安そうな顔を見て、アンジェリエッタがやさしい声で問いかけます。
「ゆうた、あなたはわたしたちを必要としていますか?」
「ここにあるおもちゃはみんな、お母さんやお兄ちゃんたちと同じ。ぼくにはなくてはならない大事なものだよ」
ゆうたの力強い言葉に、アンジェリエッタは笑顔になりました。
「わたしたちは、あなたが必要とする心を捨てない限り永遠に王国の住人です。外国は遠いかもしれませんが、それは人間の世界の話。おもちゃの世界では、地球の裏側にいるのもこの家の庭にいるのも同じこと。わたしたちに遠い近いは関係ありません。子供たちがわたしたちを必要とする心、それがすべてなのです」
「だからゆうた、我々のことは気にしてはいけない。もしその男がゆうたを傷つけようとしたら、全力で逃げるのだ」
ビュートルグラスの響く声は、ゆうたの心の奥底にしまってある何かにズキリと突き刺さりました。アンジェリエッタはそのゆうたの痛みを感じ取っていました。
「・・・ゆうたには、わたしたちを見捨てて逃げることなんてできないと思います。ゆうたは今、ルーベンカイザーが連れ去られたら、そのまま永遠に会えなくなるのではという不安でいっぱいですね。ゆうたは、わたしが王国の住人を守るために持つ力を信じますか?」
ゆうたは、アンジェリエッタを見ました。そして、ゆっくりとうなづきました。
「では、この力をルーベンカイザーに授けます」
アンジェリエッタが手をかざすと、手のひらが明るく輝き始めました。そして、その手をルーベンカイザーの額にあてると、光はルーベンカイザーの模様に移り、模様の線に沿って全身が一瞬輝いて消えました。
「この力は、悪い力から王国の住人を救うために、たった一度だけ発揮されます。たった一度しか使えませんから、いつその力を使うか、それはあなた自身が決めるのです。ルーベンカイザー」
「うるわしき君、アンジェリエッタ。この力は王国とゆうた、そしてゆうたの友人たちのために使うことを誓う」