伝説のおもちゃ
「みかのことなんて気にするなよ」
まことが言います。
「みかのことも頭にくるけど、クラスのみんなだって、小さい時のおもちゃで遊んでる子いるはずなんだ」
「そうだな。おれもバージルカナルとルーベンカイザーがあれば間違いなく遊んじゃうぜ。俺もゆうたの言うとおりだと思う」
「クラスのみんなに、僕だけじゃないだろ!って言いたかったのに、言えなかった。だめだな、僕」
「何言ってるんだ。そこがゆうたのいいとこじゃないか。もし、そんなこと言ってたら、クラスのみんなと大ゲンカだぜ。クラスのみんながイヤな気持ちにならないように、ゆうたが一人でがまんしたんじゃないか。そういうとこ、ゆうたすげえなと思うよ」
「でも、自分が笑われたのに言い返せなかったなんて、なんだか恥ずかしいや」
「何言ってるんだい。先生だって、物を大事にするゆうたの心が大切だって言ってくれたんだろ?正しいのは、みかや笑ったクラスの連中じゃなくてゆうたなんだから、何も恥ずかしがることなんてないよ」
まことのことばは、魔法のようにゆうたの怒りをしずめてしまいました。
「そうだ、この先に古くなったおもちゃを売ってる店ができたんだってさ。ゆうたは知ってる?」
「知らない。すぐそこなの?」
「うん。学校に行くとき、場所見てきたんだ。行ってみようぜ」
うなづいて走り出したゆうたの頭の中から、今日のイヤなできごとは消し飛んでしまいました。
◆
そこは、半年前までDVDのレンタルショップでした。白かった建物の壁は濃い青色に塗られ、そこに流れ星や星の瞬きが描かれています。そして入口の上には黄色くカタカナで「ルミナス」と掲げられています。
店の中には、ゆうたのような小学生もいましたが、若い男の人たちも店内を歩いています。入口近くの棚には、カードやゲームソフトが並べられ、奥の方へ行くと、ゆうたたちのお目当てのおもちゃが整然と並べられています。
「ゆうた、見ろよ」
まことが手招きするので行ってみると、ガラスケースにゆうたたちが見たことないようなデザインのおもちゃが並んでいます。
その中に見おぼえのあるおもちゃがありました。ルーベンカイザーです。
「ルーベンカイザーだ」
「そうじゃないよ。金額を見ろよ」
まことに言われて、おもちゃの下にある値段のふだを見てびっくりしました。
「うわ、ゼロがいっぱい。これいくらなんだろ」
「二五万円だよ」
奥からひげを生やした小太りの男の人が出てきて言いました。
「二十五万円?ど、どうしてこんなに高いの?」
「君たち、小学生だろ?小学生にしてはそのルーベンカイザーに目がとまるとは、なかなかおもちゃを見る目がある」
「僕、同じルーベンカイザーのおもちゃ持ってるんです。でも、どしてかな。何か僕のと違うような気が・・・」
「そりゃそうさ。これは、世界に3体しかないルーベンカイザーなんだ」
「世界に3体?どいうこと?」
「ルーベンカイザーは、バンザイという会社で作られていたけど、一番売れている時におもちゃ工場が火事になって作れなくなってしまったんだ。バンザイは仕方なく北川工房という小さなおもちゃ工場にルーベンカイザーを作る事を頼んだ。そのとき、そこで色彩の修行をしていたのが、イタール・ホリやキサラギ・ショーゴ。今や世界で知らない人のないアーティストたちがルーベンカイザーを作っていたんだ」
「イタール・・・?まこと、知ってる?」
まことは黙って、首を横に振りました。
「もう少し大きくなれば、よく聞くようになるよ。このガラスケースに入っているのは、キサラギ・ショーゴが手がけた3体のルーベンカイザーの一つなんだ」
「でも、これがその3体のうちの一つだってなんでわかるの?」
「おもちゃにはひとつひとつ違う番号が足の裏に刻まれているんだ。これは、BS67554。キサラギ・ショーゴが手がけたのはBS67550、BS67551、そしてこのBS67554の3体」
「だから、こんなに高いのか」
「これで高いなんて驚いてちゃいけない。イタール・ホリは、自分がおもちゃの色塗りをしていたことを封印するため自分の製造番号のものを全て破棄したんだ。だが、一つだけ破棄しそびれたものがあったと言われている。製造番号BS18066、幻のイッパゼロロクロクと呼ばれているものは、金額のケタが2つ違う」
「何百万?」
「何千万円だよ」
ゆうたとまことは顔を見合わせました。
「おもちゃでそんな金額になることなんてあるの?」
「イタール・ホリのコレクターは憶万長者ばかり。イッパゼロロクロクは実際に存在するか分からない伝説なんだ。伝説に価値をつけるとしたらそのくらいになるという事さ」
ゆうたは、ガラスケースのルーベンカイザーを見ました。
「・・・目が違う」
「目?」
小太りの店員が聞き返します。
「僕のルーベンカイザーは目が緑だ。これは紫色になってる。だから違うように感じたんだ」
「目が緑?」
小太りの店員の目つきが変わりました。
「どうかしましたか?」
「本当に見たものがいるのか定かではないが、イッパゼロロクロクの目は緑色だったと言われているんだ」
ゆうたとまことは顔を見合わせました。
「そんなことあるわけありません。目が緑なのは偶然だと思います」
「君、そのルーベンカイザーを持ってきてくれないか?番号を・・・製造番号を確かめたいんだ」
小太りの店員が身を乗り出します。
「僕のルーベンカイザーはそれじゃありません。サヨナラ!」
ゆうたは、急に店員が怖くなり、まことの手を握ると、走って逃げるように店から飛び出しました。
家に帰ると、ゆうたは恐る恐るルーベンカイザーの足の裏を見てみました。そこには、「BS18066」と刻まれていました。
「いっぱぜろろくろく・・・」
ゆうたは頭の中が真っ白になってしまいました。