変わりゆく使命
ひげを生やした小太りの店員は警察の取り調べを受け、すべてを白状しました。
あの倉庫にあったおもちゃは、ゴミとして捨てられることなく、ルミナスが全部引き取り、また店頭に並ぶことになりました。その中には、あの磁気ボードも混じっていました。倉庫からルミナスがおもちゃを回収する日、ゆうたたちも立ち会いました。
本店から来たルミナスの店員は、磁気ボードをいつまでも見ているみかを見て言いました。
「一度買い取ったものですが、お返しすることもできますよ」
みかは、しばらく考えていましたが、首を横に振りました。
店員は、うなづくと磁気ボードを持って行こうとしました。
「あっ、ちょっと待ってください」
みかは、磁気ボードに文字を書きました。
(ありがとう)
すると、何もしていないのに文字はゆっくりと消えて行きました。
みかは、それをみて寂しげに笑みを浮かべると、店員に磁気ボードを渡しました。
「あれでよかったのかな」
みかと磁気ボードとの別れを見ていたゆうたはまことに言いました。
「分からない。でもこれだけは言えるんじゃないかな」
「何?」
「みかはきっと、いろんなものにやさしくなれるようになる」
そんな2人のところにみかが歩いてきます。
「2人とも、いろいろありがとう」
「みかは、もっと人の言うこと聞けよな。俺が止めたのに2人とも行っちまうんだもん。ああ、そうだ。ゆうただって同じだぜ」
「そうだね。まことがいなかったら、誰もぼくたちのこと探してくれなかったと思う」
ゆうたは、突然背筋を伸ばしてまことの方を向くと兵隊のように額に片手を当てて、
「これからは、まことの言うことに必ず従います!」
と大きな声で言いました。
すると、まことも片手を額に当てて、
「了解しました!」
と大きな声で返しました。
その様子を見て、みかが笑います。
「・・・ゆうた君、あのおもちゃを手放しちゃだめよ。あのおもちゃは成長したらいらなくなるおもちゃじゃなくて、一生のおもちゃなんだから。あたし、もう二度と赤ん坊の時から遊んでいたおもちゃなんて馬鹿にしない。だからこれからも大事にしてあげてね」
いままでのみかとは思えないやさしい言葉に、ゆうたとまことは顔を見合わせて笑顔になりました。
「これから一生大事にすると誓うよ」
ゆうたは言いました。
◆
ゆうたのおもちゃ箱に、ルーベンカイザーが戻ってきました。
王国の中心、命の泉の周りには王国の住人たちが集まっていました。
「ルーベンカイザー、ゆうたとその友人を救うため、わたしの力を正しく使ってくれましたね。あなたのその勇気と思慮深さに感謝します」
「恐れ多い事です。うるわしき君、アンジェリエッタ」
ルーベンカイザーは、アンジェリエッタの感謝の言葉に深々と頭を下げました。
「今回は、ルーベンカイザーのおかげで何とかゆうたを救い出すことができたが、ゆうたの決断力と行動力の前に、わたしは全く無力だった。ゆうたの成長は喜ばしい事だが、それだけ今回のような危険に遭遇する機会も増えるということだ」
ビュートルグラスが言います。
「ビュートルグラスの言うとおりです。やがて、ゆうたが、子どもの世界から大人の世界に足を踏みいれたとき、わたしたちの力は及ばなくなります」
アンジェリエッタも顔を曇らせます。
「誇り高きビュートルグラス、そしてうるわしき君アンジェリエッタ。その心配はない。ゆうたを支えているのは、もはや王国の住人だけではないのだ。お母さんやお姉さん、お兄さんはもちろんのこと、まことやみかという無二の親友が、これからゆうたの人生を支えていってくれる」
「わたしたちの王国は、ゆうたがいる限り永遠です。しかし、わたしたちは、いつの日か、ゆうたを支える存在から見守るだけの存在になってしまうということなのですね」
「その通りです」
ルーベンカイザーは再び頭を下げました。
ビュートルグラスは、王国に集う住人たちに宣言しました。
「いずれその日が来るまで、そしてその日が来た後も、ゆうたというかけがえのない持ち主に出会えたことを誇りに、我々はこの王国を懸け橋にしていくのだ!子供たちの夢と希望を輝かしい未来へとつなげるための懸け橋に!」
◆
ビュートルグラスは歴戦の勇者。戦えば負けることを知らないが、戦うことを好まず、平和を愛するロボット軍団の隊長だ。
ルーベンカイザーは王国の守護者。王国をすみずみまで旅し、平和を乱すものがいないか監視する一匹狼の放浪者だ。
そして、アンジェリエッタは命の泉を守るうるわしき女王。王国のすべてのものを愛し、命とともに夢と希望を王国にもたらすすべてのものの母親だ。
この3つのおもちゃをめぐる王国の物語は、ゆうただけのものではありません。誰もが心に秘めているやさしさや勇気を解放した時、王国の扉はすべての人たちに開かれます。
自分の心を信じ、夢を持ち続ける人がいる限り永遠に。
最後までお読みいただきありがとうございました。
「家族」「友達」ときて、今回のテーマは「自立」
学校という社会の中で、自分の居場所をみつけられないゆうた。
そこでは、まことの友情だけがゆうたを支えてくれています。
そんなゆうたに大きな影響を与えるのが、みかという女の子。
自立しきれていないゆうたに対して、みかは一見自立したしっかりした子のように見えます。
でも、彼女のその態度は、無理の上に成り立った危ういものだったのです。
彼女が壊れそうになった時、そばで支えるゆうた。
誰かに支えられる存在から、自分が誰かを支える存在へ。
それは、誰かの庇護のもとで暮らす子供の世界から、自分の力で困難を切り開いていく大人の世界への扉を開けるということでもあります。
おもちゃをめぐる物語はここで、一度幕を下ろしますが、ゆうた、まこと、みかの3人が、それからどんな友情をはぐくんでいったのか、それはぜひ読者一人一人の想像におまかせしたいと思います。




