ゆうたの怒り
ゆうたは怒っていました。
小学校は、保育園となにもかもがちがっていました。「せいかつ」という時間があるのもはじめて。「せいかつ」という授業ではじめてだされた宿題は
「いろいろなごみを家から持ってくる」
というものでした。
ゆうたは、家にあった空のペットボトルを持って行きました。
先生は、机と机をくっつけてその上にそれぞれ持ち寄ったごみをならべました。
お菓子の空箱、飲み終わった紙パックの牛乳、新聞の広告紙やいらなくなった商品カタログ、いろいろなゴミが集まりました。それを、燃えるごみ、燃えないゴミ、ペットボトルなど、ごみの種類ごとに分けていく勉強です。
その中に、おもちゃがまじっていました。磁石のペンで書くと砂鉄が文字になったり、絵になったりする磁気ボードです。たしかに、かどのあたりは色あせてはいましたが、ペンもちゃんとついていて、ゆうたがペンで書いてみるとまだちゃんと書けます。
「これ、まだ遊べます。ごみじゃありません」
ゆうたは、先生に言いました。
「そうね。まだ使えるものはごみじゃありませんね」
「いらなくなったものはすてちゃだめなんですか」
先生の言葉に反論したのはみかでした。
みかは、いつもテストは百点満点、かけっこも一番だし、さかあがりも男の子よりたくさんできます。でも、休み時間はいつも一人きりで、ほかの子と遊んでいるところを見たことがありません。
「まだ遊べるのにすてるなんてもったいないじゃないか」
とゆうたが言うと、
「あたし、もうこれで遊んでなんかいないわ。ゆうたくんは、まだ赤ちゃんの時使ってたおもちゃで遊んでるの?」
ルーベンカイザーはゆうたが3歳の時のプレセント、ビュートルグラスやアンジェリエッタはもっと前からありました。もしかしたら、赤ちゃんの時からずっとあったのものかもしれません。
「遊んでたら悪いか?」
つい言ってしまった一言で、クラスのみんなが口々にまくしてます。
「え~?ゆうた、まだ遊んでるの~」
「ゆうた、赤ちゃんのおもちゃで遊んでるんだ~」
笑っているクラスのみんな。ゆうたは、突然自分が言ってしまったことが恥ずかしくなりました。
「何を笑っているんですか!」
先生の大きな声で、笑い声でいっぱいだった教室は、一気に静かになりました。
「小さい時から使っていたものを大切にすることは素晴らしいことです。そのことをバカにしてはいけません」
「先生、じゃいらなくなったものも、いつまでもとっておかなくちゃならないんですか?」
みかが食ってかかります。
「みかさん、先生は、小さいころに遊んでいたものがすべていらなくなったものではないということを言いたいんです。物を大事にするゆうた君の心、それが大切なんです」
「でも、あたし、これを大事だと思いません。それでも捨てちゃだめなんですか?」
「まだ使えるものはごみではありません。でも、みかさんに必要ないものなのならば、欲しい人にゆずってあげたり、中古のおもちゃを取り扱う店に売ればいいのです。そうすれば、また誰かに使ってもらうことができます」
それをきいて、みかはゆうたの方を向きました。
「ゆうたくん、その磁気ボード、いる?」
バカにしたように言います。
僕だけじゃない。
クラスのみんなだって、小さい頃のおもちゃを大事にしている子はいるはずなんだ。
言わなくちゃ。そのことを言わなくちゃ。
でも、心の中では思っていても、ゆうたの頭の中はまっ白で、何も言葉が出てきません。
「みかさん、やめなさい。この話はこれで終わりです。さあ、みなさん、ゴミを分け終りましたか?ちゃんと分けられているか、みんなで見てみましょう」
先生の言葉も、ゆうたの頭に中には届いていませんでした。ゆうたはそのあと、どんな授業をしたのかよく覚えていません。いろんな思いが全身を駆け巡り、ゆうたの頭はいっぱいになってしまったのです。
自分の席にもどって、気持ちが落ち着いてくると、波のように感情が押し寄せてきました。
最初は、みんなに笑われたことのはずかしさ。次に押し寄せてきたのは、笑うみんなに反発できなかった自分の弱さに対する悲しさ。そして最後は、いらないおもちゃを捨てることは当然という態度のみかに対する怒りでした。
その日小学校からの帰り道、ゆうたに残っていたのは、最後の感情、「怒り」だけでした。