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少女は魔王に夢を見る  作者: 狂える
二巻
9/62

九話

何か面白いものを探していた。昔から金にも女にも名声にも、興味こそあったがそれだけ。

わざわざ追い求めようなんて思ったことはなかった。


しかしもちろんそれでも、興味がなくとも生きるためには少なくとも金は必要だ。

だから金の羽振りがよさそうだった軍に入隊することにした。


戦争が絶えず起こり続ける世の中で、幸いなことに俺の仕える国はたぶん一番交戦が少ないではあろうが、それでも人手が足りていないためだったのか雇い条件は破格のものだった。

もしかしたらアカデミーを首席で卒業していたからかもしれないが、入隊してしまった今となってはどうでもいいこと。

こうして俺は食いぶちを手にしたわけだ。


そして入ったはよかったのだが、俺の仕事は戦場の後ろでより多く敵を殺す作戦を練ることだった。

過去の作戦を見ては勉強し、現場に行って指令とともに最適な作戦を考える。

端的にいえば、実につまらない仕事だった。


必要とされればすぐに駆けつかなければならないために国に拘束され、生活はより一層面白みを減らした。

何か別に面白いものを探せればよかったのだが、しかしそう簡単に思い当たるものもない。

もっと大きな刺激はないものかと考えながら、また今日を当てもなく生き続けていた。











ウォタロンの首都の朝というのは、どの国よりもすがすがしいものだった。

町中に張り巡らせた水路は涼やかな風を運び、水面はいたるところで朝日を反射して輝きを放っている。

特に快晴の日はその景色がとてもすばらしく、まちがいなく全ての町の中で一番《朝が一番美しい街》を選ぼうものならこのウォタロンの首都、シードタウンは間違いなく一位の栄冠を手にするだろう。


もちろんそんな町に住みその朝を拝んだ人間は幸福なはずであり、レオ・ホワイトもその幸福な人間の一人のはずだった。

だがその町でも一番立派な建物の中にいる彼は、どういうわけかその表情を機嫌の悪さゆえにゆがめており、それを見れば誰もが声をかけることをためらうだろう。

だが彼がそうなった理由である当の本人はそんなことには気づかず、その場にいた三人に声をかけているところだった。


「なあ、何で集められたんだ?」


声をかけているのは見上げるような大男だった。

背は成人を過ぎた男はともかく、鍛え上げられて平均よりはさらに高くなる兵士の平均よりも、さらに一回り高い。


しかし男を見た多くの人間は、背が高いという印象を受けることはほとんどないだろう。

なぜなら男は確かに背が高いが、その高い背に見合うだけの鍛え上げられた肉体が身長と体の横幅のバランスをとり、背が高いという印象を打ち消しているからだ。

今でこそ礼装に身を包んでいるため隠れているが、ひとたび脱げばその肉体はことさらに自らの筋肉を主張すること請け合いだ。


さて、そんな大男だったが、何も三人全ての人間と初対面というわけではなかったらしい。

その証拠に三人のうち一人、彼の顔を見て唯一反応したレオの顔を見つけると、大男は目を丸くして親しげに話しかけていた。


「これは意外だな、サボり癖を直してまた職場復帰かレオ?みたところここにいる人間は同じ理由で呼ばれたみたいだが、お前だけもしかして別の理由で呼ばれたのかもな?」


「変な冗談は寄せよローデ。この立派な扉の前に立つのが慣れなくて縮こまっているのか?空気を和ませようと思ったのならそれはお前に珍しく配慮ある行動だが、それは心の中にとどめるだけにするのが正解だったぞ。おっと、みんな自分と同じ気分だと思っていたとか言う言い訳なら言わなくていい。お前が何を言おうが、これから起こることを想像して一番ビビッているのがお前だってことは揺るぎようがないからな」


レオは涼しい顔をしていたが、その口が動かなくなるまでたっぷりと一呼吸分はあった。

肺の空気を全部ひねり出したかとばかりの台詞の後、レオは大きく一呼吸。

ローデと呼ばれた大男はすっかり黙り込んでしまっていた。


するとそのやり取りが面白かったのか、その場に笑い声が響く。

レオがそちらに目をやれば、そこには集まっていた四人の中で唯一鎧姿の男が、冑の奥から二人の様子を眺めていた。


「これはこれは、まれに見る知略と気まぐれを持つ軍師殿がいるとは聞いていたが、一呼吸のうちにそれだけしゃべれるとはたいしたものだ。口の達者さで名が知れるのも頷ける話だ」


「そういうあんたのこと、俺も知っているぜ。その鎧は近衛騎士隊のもの、しかも右腕が金色ということは隊長だな?たしか名前はライク・グラウンドだったっけ、護衛がこんなところにいていいのか?」


近衛騎士隊とは、王族の近くで直接その身を守る兵士のこと。故に所属するためには並ならぬ才能と実力をもつことが絶対条件である。

特に隊長ともなれば、王族への忠誠心なども問われるだろう。

よっぽどのことがない限り、王族の元を離れているところを見ることができないもの、それが彼らだった。


そういう経緯からレオは女王の元を離れ今ここにいる彼を茶化したのだが、彼はただ頷くだけだった。

そして、それ以上は必要ないとばかりに一言。


「女王様のご命令だ」


言葉はそれだけだった。

もう少し話が聞けるか、もしくは愚痴でも聞けるかとレオは話の続きを期待していたが、さすがは隊長を任されているだけあってかよけいなことはいつまでも話す様子はない。

レオは仕方なしとため息をつく。


「理由は聞いていないのか?」


「そうだ」


「気になりはしなかったのか?」


「無駄に食い下がれば女王様の貴重な時間を無駄に割くことになるだけだ、全てはお考えあってのこと。われわれ四人が今日この場に集められたのも、理由があってのことだろう」


「信心深いな。しかし俺が知る中で一番女王様に近い人間がこの回答となると、そこにいる魔法学校の学生さん?君も知らないよね」


レオがライクの鎧を避けるようにして覗き込むと、その向こうには小柄な少年が立っていた。

背はとても低い、レオは平均的な身長だったが、それでもその少年の身長はレオの胸ほどまでしかない。


頭以外を覆っている外套は魔法学校、ひいては魔法を使うものが好んで使う服装だったためレオはそこである程度素性を予想できた。

しかし外套のおかげで傍から見たところで分からないが、きっと身長に見合った華奢な体型なのだろう。

少年はまだ若さを感じさせる顔つきをレオに向けると、丁寧にお辞儀をした。


「お噂はかねがね聞いております、ホワイトさん。はじめまして、ルーシャ・アボールといいます。仰られるとおり現在魔法学校に通わせてもらっています。あ、あと師匠がよろしくといっておりました」


魔法学校、それはウォタロンの中にある三つの学校のうちのひとつのことをさしていた。

文字通り魔法を学ぶものとその魔法を研究するための機関だが、その特性ゆえ魔法に縁のないものにはまったくかかわりのないところである。

だがあいにくと過去にかかわったことのあったレオは、いやなことでも思い出したのか眉間にしわを寄せた。


「げ、師匠ってもしかして――――――」


「メマ・シルバー師匠のことでございます。あと、たまには顔を出すようにとの伝言も預かりました」


ルーシャの言葉遣い、対応もとても丁寧なものだったが、レオは頭痛でもするのか思わず天を仰いでいた。

するとそのとき、ついに時間が来たのかライクの声が鎧を通して響く。


「ほら、もうそろそろお呼びがかかるぞ。しっかりしろ、レオ・ホワイト!女王様の対面だ!」


気落ちした顔のレオを励ますように、ライクの鎧が金属音をわめかせながらその肩をたたいた。

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