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少女は魔王に夢を見る  作者: 狂える
第一巻
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七話

ネルコロ達の新しい居城は見つかった時から既に風化し、その大半の部分が半壊していた。

だがイルバが見つけた際にある程度掃除したのか、長らく放置されていたにしてはやけに綺麗だ。

大部屋などいくつかの部屋には既に天井がなかったが、それをみてネルコロが思いつくことと言ったら、本当に長らく放置されたところだったのだろうということぐらいだった。


だがその天井のない大部屋には、今や所狭しと各国の宝が集まっている。

もちろん全てを盗んできたわけではないためそれは一部だけではあったのだが、それでも総量は一国のそれを優に超えていることだろう。

区画ごとに並べられた宝の山を見て、ネルコロは非常に満足げだった。


半年の成果はそれが全てネルコロが盗んだものだったが、盗むたびにイルバに渡して運んでもらっていたためかその総量に関してはいまいち実感を持てていなかったのだ。

だからこそ、こうしてその全貌を実感したときの感動もひとしおだった。


ネルコロは興奮冷めやらぬ表情のまま、イヌホネに盗んだときのことを語って聞かせていく。


「これが西の国、トリルラルの財宝。金塊ばかりだったから一番楽だったわ」


二人の目の前には、決して小さくない金の山があった。

魔術の国とも呼ばれるトリルラル、そこには貴金属を好む魔法の研究者が数多くいる。

そこから盗まれてきただけあってか、財宝にはその手のものが多くの割合を占めていたが、中には魔法の道具のようなものもいくつか見て取れていた。


「で、これがリプタ国の。いくつかに分けられてて一番大変だったのよね。警備はそうでもなかったけど」


どれくらい大変だったのか、盗んできたものを前にしてそれでもネルコロがため息をついているところから推し量られるだろう。

しかしリプタ国というのは正式名をリプタ連合国といい、いくつかの国が合わさってできている。

したがって国をまとめる王族も複数おり、ネルコロが全て回る必要があったことは、宝物庫に当たる場所を調べたイルバもよく知っていた。


「セントリーランページ国・・・・・・さすが今一番力の有りそうな国だったわ。お城も大きかったし、

逃げる時はほんとにたくさんの人に追いかけられた。でも証明書なんかが多くて荷物を運び出すのは難しくなかったわね」


そういって見上げる山は、宝石や貴重そうな何かが大量の紙や羊皮紙に混じっていた。

一番最初にやっただけに半年前の記憶だったが、今でもそのときのことを思い出せるのかネルコロは感慨深そうに目を細めている。

しかし次の山に目を移したとき、その表情にも曇りが表れた。


「芸術の国、バズンス国。変な仕掛けが多かったわね」


「あそこはその手の発展が目覚しいからですね」


イルバがさもあらんといった風に頷くが、ネルコロの表情は先ほどとはまた別の理由で複雑そうだった。

バズンス国は、国が芸術家を援助する国として有名な国だ。

それゆえに立ち並ぶ建物も他の国では見ない形のものが多く、道を歩けば必ず誰かが絵を描く姿が見える。

故についた別名が芸術の国。


そしてこの国はもうひとつ、戦争を起こすたびに新たな兵器を出してくることでも有名だった。

聞けば《技術》というものの発展が目覚しいらしく、街にはトリルラルに負けぬくらい不思議な道具があふれている。


鮮やかに彩られた装飾品の割合がほかと比べて高い山をネルコロはしばらくにらみ続けたが、時期にそうしていても仕方がないと思ったのか気を取り直し隣の山に視線を移した。


「ジンワリ国。入国するのが大変だったわ」


ジンワリ国、そこは切り立った山にぐるりと囲まれた、国自体が要塞のような国だった。

国土こそすべての国の中で最も小さいが、攻め入るのが容易ではないため今日まで国が存続できている。


ちなみにネルコロは山に穴を開けて入国した。


「イエロースクエア国。軍服ばかり見たわ」


流石は軍事国家、という言葉が聞こえてきそうな口ぶりだった。

ここは最近国王が変わり、それからというもの積極的に他国に攻め入っている国の一つだ。

盗んできたものにもその特色が強く出ていて、多くが武器や道具ばかりだった。


「スマイルマイル国。一番簡単だったわね」


ここも最近国王が変わった国だった。

だがここの国は平兵士から出世して一国の王にまでなったという噂がある。

だが入国から出国までどこをとっても滞りなく進んだ国だったため、ネルコロもそれ以上思い出すことがなかったのか簡潔に終わらせていた。


そしてある山の前に止まったとき、ネルコロより先にイルバが口を開く。


「お嬢様」


「何?」


「正直、お嬢様がウォタロンから盗んできたのは意外でした」


口ぶりはやけに穏やかな口調なのに、イルバの表情はどこかもどかしげなものがあった。

しかしネルコロはそれに一切の反応を見せず、そのまま歩を進める。そして部屋全体を見渡せるところまできて体の向きを変えた。

連なる豪華絢爛な山々を見て、その胸を張る。


「とにかく、これで国は私を無視できないはず。ごく一部でしかないけど、戦争をするにはお金が必要だからこんなことを何回もされていてはたまったものではないでしょ」


もちろんこんなことを何度もネルコロはするつもりはなかった。

一周するだけで半年かかったのだ、次は一度やっているからと慣れてはいても、その分防備も増えていると考える以上、次やったとしてもまた半年かかってしまうだろう。

その上盗んだ大半は収集品として集められたもののため、国の運営にさして影響を与えるようなこともまずありえないことはネルコロにも分かっていた。


だがこのような事態、他国に絶対に知られてはいけないようなことが何度も起これば、そのうち隠すことはできなくなる。

したがって警戒のため活発な活動を控えるだろうと踏んで、ネルコロは行動に移すことにしたのだっだ。


「うまくいくことを願いましょう」


「うまくいくわ。・・・・・・少なくとも、私はそう信じている」


「そうだといいのですが」


イルバの言葉にはどこか含みがあったが、知ってかしらずかネルコロはあえて何も言うことはなかった。











「とりあえずこれだけのことをしましたし、しばらく活動はしないでしょう?」


その言葉は、ここしばらくの長旅のあと、新たしい住居で久々にする落ち着いた食事の最中のイルバの言葉だった。

半年ぶりに帰ってきたにもかかわらずすでに主として、王族や貴族が好んで使う大きなテーブルで食事をしていたネルコロは、その言葉を聴いて意外そうな顔をする。


「何、休みが欲しいの?」


「そうではありませんが、確か記憶が確かであればあの本に書いてあった部分はここまでではないでしょうか?その絵本を指針とするならば、まず先にそれを集めるのが先ではありませんか?」


そう語るイルバの表情はなんだかとても晴れやかで、ネルコロはなぜかそれがとても気に食わなかったのか顔をしかめた。


「なんだかとてもうれしそうね?宝の山はそんなに目の保養になったかしら?」


「あの中には優れた美術品もありましたからね。お嬢様もぜひ盗まれたものについて一度勉強なされてはどうですか?」


「・・・・・・・まあそんな話はさておき、そのことについては私も予想できていたわ」


話の流れを見て罰の悪そうな顔をしたネルコロは、最初から用意してあったのか本を数冊食事台の上に置いた。

埃がこびりついてはいないが長く昔に作られたかのようにぼろぼろのそれは、いつもならイルバはそんなものを食事台に置くものではないと苦言を呈するほどのものだった。

ところが今回ばかりは勝手が違ったのか、その表情は真っ青になっている。


「まさか」


「各国の書庫を調べてみたんだけど、この3つしかなかったわ。まあ正直童話なんて置いてないものと思ってたから予想以上の収穫ではあるんだけど」


イルバの表情の変化にネルコロは気づいていない。

イルバにとって幸運なことに、ネルコロの視線は本に向けられていた。

イルバはあわてて心を落ち着かせると、軽く咳払いひとつの後澄ました表情に戻る。

だが、口調は心なしかいつもより若干早くなっていた。


「文化の保管の目的として置いてあるところはありますからね。しかし今では書庫に検索の魔法のかかった手袋が置いてありますから、確かに探し出すのに時間はかからないと思いますが、よくそんな余裕がありましたね」


「私は魔王よ?それにふさわしい力がある。障害なんてどこにもないわ」


「そうでしたね、お嬢様には今やあの力がありましたか」


半ばあきれを含みながら顔を上げるイルバは、ネルコロに宿った不思議な力について、つい半年前のことを思い出していた。

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