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少女は魔王に夢を見る  作者: 狂える
第一巻
6/62

六話

「ふむ、人の技ではないな。」


今すぐ大勢の人の前で演説しても違和感ないほどに立派な服装をした少年は、目の前で口を広げている大穴を見て薄ら笑いを浮かべていた。

しかしその脇に控えていた別の男はその行為に顔をしかめる。


「笑い事ではありませんよ国王様。真剣になってください。」


「これが笑わずにいられるか。一体何したらこんなことができるんだ。」


大穴のむこう、そこにはまた同じように穴があいていた。それも一枚だけではない、何かが通った跡のように一直線に。

元はちゃんとした一枚の壁だったそれに空いた大穴、その縁に手をかけながら国王と呼ばれた少年は少し考えごとに唸る。


「城の外壁から一直線に穴を開けていき、宝部屋から荷車に積んだ後同じように穴を開けて出て行ったか。しかもそれをやった犯人の姿は――――――」


「少女だったそうです。それもあやしげな魔法道具どころか鎧の類も一切つけていない、どこにでもいるようなワンピースに身を包んだ、髪の長い少女だと。

荷車を引いていたのは2頭の馬だったらしいですが、その先頭を走ったのはその少女だそうです。」


後ろに控えた男からの報告に、国王は床を見る。

確かにそこには、穴のふちを乗り越えるようにして車輪の跡が残っていた。

室内ではまず見ることのないヒヅメの後を見ながら、不意に思い出したことに鼻で笑う。


「先月逃げ帰ってきた部隊も、そんな相手に邪魔をされたと言っていたな。よほど恥ずかしかったのか、問い詰めるまでは別の報告でごまかしておったが。むしろもっと疑わしかったこっちの報告の方がどうやら本当らしい」


「どこの勢力ですかね?協力者はいたでしょうが、それでもこれだけ強力な突破力を戦場で使わない手はないはずですし、そんな報告はまだどこからも上がってません」


「まだ試作段階の可能性が残っているが、それで城破りとはなかなか思い切った行動だな。こちらも舐められたものだ」


国王はしばらく微笑を浮かべていたが、そのうち突然無表情へと変わる。

雰囲気も突然変わったが、そばにいる男が驚きもしないところからその変様ぶりはそう珍しいことでもないらしい。


「このことは隠せ。特に他国にだけはどこにも漏らすことのないように。こんなことが起こったと広まれば一斉にここを攻めて来る、そうなれば流石に持ちこたえられん。修復も早急に、軍事演習も予定通り行え」


「実行犯側が噂として漏らす可能性がありますが、それでも?」


そばに仕える男に確認するようにそう言われたが、国王はその言葉を予想していたのか返答もなめらかだった。


「私が敵なら、宝など奪わずに同じ城の中にいる私を直接殺しに行く。宝部屋まで一直線に進んだことも考えて、宝が目当てで侵入したとしても私達を貶めるために来たのではないだろう」


「確かにそうですね、ではそう指示しておきます。ところで侵入者はどうしましょうか?いま騎馬隊に追いかけさせてはいますが、殺しますか?」


「いや、できるだけ生かしておけ。だが捕まえられないようなら殺せ。逃がしても手配はするな、極秘裡にだ。さあ行け」


国王がそう言うと、男は一礼しその場から姿を消した。残された国王はまだ気になることがあるのか、大穴の周囲を見渡す。

なかに敷き詰められた赤い絨毯の上にも、その壁の外にも、兵士が片付けでもしたのかくり抜かれたはずの壁の残骸は残っていなかった。


「我が国に対して威圧のためなのか、もしくは自分の力を誇示したいためだったのか。なんにせよ、ただで済ませるわけには行かないな」


国王は、消えた壁のあとをいつまでも睨み続けていた。











ネルコロは上機嫌だった。それも傍から見ても明らかなほどに。

その様子を眺めるイルバの視線は打って変わって静かなものだったが、ネルコロはそれにも気をかけないほどに上機嫌だった。

ネルコロの上機嫌の理由、それは彼女がいま手に持っている一冊の本と、後ろにて馬に引かせている荷車に積まれた金銀財宝であった。


「魔王は最初戦場を暴れまわりましたが、そうすると全ての国は次第に魔王の介入を恐れて争いに消極的になりました。それをつまらなく思った魔王は、全ての国を襲って多くの財宝をかき集めました。そして城をひとつ乗っ取り、そこにすべての宝を保管したのです。」


「・・・・・・それも絵本に書いてあったことですか?」


「そうよ?何か間違ってた?」


「いえ、よく要約されていると思いました。」


イルバの言葉に、ネルコロは嬉しそうに頷いた。

イルバの視線が人知れずわずかに揺れるが、それはネルコロの知ったことではない。

ネルコロはほ歩む足を止めることなく、器用にイルバのほうを向く。


「それでこうやって第一号を盗んできたわけだけど、これを入れておく場所は見つかった?お城とは行かなくても、それなりの場所は無いとこれは野ざらしになっちゃうわよ?」


「都合良く見つかりましたよ、お嬢様。少々手間がかかりましたが、おあつらえ向きなところでございます。ほら、ここからでも見えますでしょう?」


イルバが遠くの方を指さし、ネルコロがそちらの方を向く。

見れば、連なる山々のうちの一つ、そこの山頂に大きな建物があった。

遠くから見ても分かるほどに崩れかけてはいたが、それでもなおその大きさはネルコロの感嘆の声を上げさせる。


「でかいわね。」


「昔国境を見張るために建てられた砦の一つですが、国境が飛躍的に拡大したこと、そして山を抜ける別の道ができたことにより山脈を抜ける際に経由する必要がなくなったことなどを理由に、いつの間にか無人となっていたところです。見晴らしもいいですしちょうどいいでしょう。」


淡々と話すイルバに何か言いたげなネルコロだったが、ついぞ何も言うことはなかった。

かわりに、ネルコロをしげしげと眺めていたイルバの方が口を開く。


「それにしても、本当に無傷みたいですね。何事もなかったようで何よりです。」


「そのかわり大変だったのよ。道のりは長いし、追いかけてくる人たちはいるし。」


ネルコロの言葉にはため息が混じっている。

だが、まだその意志はまだ少しも衰えていないのか、石場を踏む足も依然勇良かった。


「あと七カ国ですよ?どうしますか?」


「もちろんやるわ。盗みは私が、運ぶのはイルバ、お願いね。」


「人を用意しておきましょう。しかしこれは大仕事になりますな。」


長く息を吐き出すイルバは、この先の苦労を予想してのことだった。

しかしそれに反してネルコロの計画は順調に進み、半年後には全ての国から盗みを終えてしまおうとは、イルバもこのとき予想だにしていなかった。

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