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「お前、なんで料理出来んのに片付けとか女らしいこと一切出来ねぇんだよ」
「んー、面倒」
夕飯を食べてソファーでゴロゴロ本を読んでいるとアダンは食器片手にそんなことを言ってきた。
「面倒って」
「料理は実験みたいだから好き。キッチンは食器無くなったら浄化魔法使えばいいし」
「……」
「でも片付けはなー、元の場所に戻すのは結局細かい指示出さなきゃいけないし、面倒」
「……はぁぁ、なんで俺がやんなきゃならねぇんだ!」
「年上の人を敬いましょう、ね?」
「たった5歳だろが!!」
ぶつくさ言いながらもアダンは器用に片手で食器を片付けていく。最近聞いたこと、アダンは24歳だった。思ったよりも若くて中々の衝撃だった。老け顔だな! って大笑いしたらめちくちゃ睨まれた。素敵。
本も飽きてきてアダンの側に行く。見てたら洗うのは大変そうだったから気まぐれで浄化魔法をかけた。後ろからさりげなくかけたら驚いたアダンが皿を割った。前から思っていたけどアダンってビビリだな。
「さて、寝るか」
「おい、なんで俺の袖を掴む」
「ん? まだ起きてるのか」
片付けが終わったアダンのたっぷりと余っる左袖を鷲掴み階段を上る。
「お前とは寝ない」
「ソファーは辛いかと」
「そんな思慮があるなら寝所へ連れ込むな」
アダンは童貞でもないのに煩い。
「別にとって食うわけじゃないだろう?」
「……」
「パジャマー、あった」
白いパジャマを手に取りもぞもぞと着替える。
「……だから、なんで目の前で脱ぐ」
「アダンもさっさと着替えなよ」
いつまでも黒のパジャマじゃ可哀想だから街にひとっ飛びして前着ていた服に近い物を与えた。パジャマも新しい黒いのを与えたのに。
「俺は下で寝る」
「煩いなぁ」
指をちょいと動かしてアダンの服を脱がせた。上だけね。
「なっ!!」
「ほら、さっさとする。眠いんだよこっちは」
何をしても敵わないのを分かっているからアダンは無言で嫌そうに着替えた。
「ほら、ここ」
隣をポンポンとた叩いてもなかなか動かないアダンの袖を掴んでベッドに引き込む。
「……なんで俺が」
「生身の人間がこんなにホカホカなんて知らなかったよ」
理由はただそれだけだ。
あの日アダンの瞳にキスをして、その晩から私はアダンをベッドに引きずり込んだ。魔法で筋力強化して文字通り引きずり込んだ。一方的に抱き枕として抱き締めて寝る。もう何日経ったかな、数えてないから分からない。
「お前さ」
「エリン」
「お前さ、も『エリン』……その直接話しかけてくるのやめろ」
「アダンの学習能力の問題だ」
「……くそが。……エリン」
「おぉ!」
ちょっとだけ感動した。
「もしかして、俺の目が欲しいってそういう意味じゃなかったのか」
「そういう意味って」
「実験の材料に決まってんだろ」
「アダンってばか」
本当にこの男は気付いていなかったのか。
「髪は切るじゃねぇか」
「伸びたらね、眼はアダンから離れたら意味がない。そんな事も分からないの」
あぁ、眠たい。
「おい、それじゃ、まるで」
「……ん?」
「お前……」
「ほんと、アダンって、ばか」
気づくのがあまりにも遅いんじゃないだろうか。うっすら目を開けて見たアダンの顔が困っているような気がしてムカついたから胸倉を掴んで引き寄せた。
「っ!?」
「……たまに、本当に取ってやろうかと思う時があるよ」
「!!」
驚いた顔に怯えは見えない。それに満足した私はそのまま寝た。
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「アダンって寝坊助だよな」
抱き締めていたものは心なしかグッタリとしているような気もする。あ、クマ凄い。
「おはよう、アダン」
「……」
「おはよう、アダン」
「……」
「おはよう、アダン」
「朝からうるせぇな」
「おはよう、アダン」
「……あぁ」
「おは」「おはよう!!これで良いんだろ!」
結局言うなら早く言えば良いのに。
「ねぇ、アダン。今日の夜、肉食べたくない?」
「は?」
「肉だよ、今日は干し肉とかじゃなくて血の滴るフレッシュな肉な気分だね」
「そのまま食うのかよ」
「そんな事しないよ、流石にお腹壊す」
「……(魔女も腹壊すのか)」
「アダン、肉食べたい」
「……分かった、分かったから今すぐ離れろ」
腕も脚もアダンに絡ませるようにしていたのを仕方なく離した。暖かかったのに。
身を起こすと肌寒く感じて部屋の温度を上げた。まだベッドに横たわり、右腕で顔を覆い隠すアダンを置いて食事作りに向かった。
ちゃんと夜には兎肉を豪快に焼いたものが食卓に上がることになる。アダンって優秀。