5
いつも通り遅く起きて……以下略。
いつもと大きく違うのは綺麗なソファーにアダンが居ないこと。
あ、なんかこれだと死んだみたいだけど死んでない。一度生かしたのに殺すわけないし、説得とか面倒だったからズキュンとちょっと痛めの睡眠薬的な魔法を注入しておいた。
今アダンは二階の私の広いベッドでスヤスヤ寝ている。理由は……起きてから反応楽しみだから秘密だ。
ベッドの横には実験道具がズラリと並んだ長いテーブルが2台ある。ベッドが近くなのは直ぐ寝れるように、すぐ実験出来るように。そして今薬の最後の仕上げに入っている。……アダンそろそろ起きないだろうか。
****
「うっ…」
「あ、起きた」
身動ぎしたと思った瞬間アダンは素早く身を起こした。
「な、おま、え、……どういう事だ」
ズザッと壁に背を預けるように後ずさったアダンに魔女はゆっくり近づく。ハサミを持って。
「ねぇ、アダンは私に拾われたの。忘れたの」
「……」
ゴクリと喉が動くのが見て取れた。
「死んだと思った?」
「……」
「殺さないって言ったのに、面倒くさいって、勿体無いって」
「……」
「忘れたの」
ベッドがギシリと嫌な音を立てた。
膝立ちでハサミを向けたままアダンに近づく。
「それ、……ちょうだいね」
アダンはあまりの恐怖に思わず目をきつく閉じた。
ジョキンッ!!
「やった! 採れたて!」
次に目を開けた時に見えたのは、指先に黒い塊を摘んで走って行く魔女エレンの後ろ姿。
「……え、?」
「これで完成だー、楽しみ!」
「え?」
「アダン、また次も頂戴ね」
アダンに向けた顔はとびきりの笑顔で魔女は全身黒い外套に包まれたまま、謎の液体を手に持って上機嫌だ。
「……本当に、それだけか」
アダンの気が抜けたのも仕方がない。そのままヘナヘナと広いベッドに倒れこんだ。
****
「殺さないって言ったのに疑心暗鬼になるアダンが悪い」
薬を持ったまま、仰向けになったアダンに近づいて顔を覗き込むと、その顔色はとてもじゃないが良いと言えたもんじゃない。面白そうだからわざと怖がらせていたのも確かなんだけど。
「本当に殺さないのか?」
「ねぇ、そんなに死にたいの?」
そう尋ねてもアダンは返事をしてくれない。んー、強情だ。
「私の目には死にたくないって言ってるように見えたよ。今までずっと」
鋭い瞳の奥には常に恐れがあった。それは生きたいからこそ現れる感情であって強がっても隠しきれないものだ。
「ねぇ、アダンは死にたい?」
「……」
「なに、シカト?」
「……」
ずっと睨み続けるその瞳に触れようとすると、やっぱりアダンは顔を逸らす。……なんか凄く癪にさわった。
「こっち向け」
両頬を掴んで強制的にこっちを向かせる。
「なんで手を伸ばすと顔を背ける」
「……お前は怖い」
「取らないって言ってる」
「……魔女なんか信用できるか」
そう言われると懐かしいけど、あまり味わいたくない苦いものが口の中に広がるような気がした。
アダンって本当にばか。これ言うとまた怒り出して面倒だから言わないでおいた。
「まぁ、確かに魔女なんだけど」
「……信用できねぇよ」
「その前に一応人間なんだけど」
「……」
そんな事言ってもあの視線は変わらなくて、いつもなら喜ばしい限りなのに今回はため息が出る。
「……なにしてんだよ」
「ん? 服脱いでる」
頭まで隠していた黒い外套をバサリと落とす。ちょっと寒かったから指をパチンと鳴らして空気を撫でるように上に手を動かし部屋の温度を少し上げた。
「……」
「そんなに怯えなくても、温度上げただけ」
白いシンプルなブラウスに手をかける。一つ二つとボタンを外し残るのは胸を覆う下着とズボンに下穿きのみ。躊躇いもなく脚のラインがハッキリと分かる黒いズボンに手を掛けた。
「お、おい! やめろ!」
「なんで?」
「お前それでも女か!」
「いや、だから人間の女なのを今から証明するんだよ」
「……やっぱりお前おかしい」
そこで初めてアダンの目付きが変わったのを見た。戸惑いと……何だろう。やっぱり私は人間らしくないのかもしれない。
「困った、どうやってアダンに証明しようか」
「なんで脱ぐ事になるんだよ」
「魔女を化け物か何かと勘違いしてるのかと思って。脱いでしまえば分かるかと」
「……分かんねぇよ」
「なんだ、童貞か」
ふむ、悪いことをした。
「な訳あるか!!」
「なんだ、やっぱり経験あるのか。んー、それはそれで気分が良くないな」
「……は?」
「なんだ?」
「いや、お前……ておい! なんで脱いでんだ! 今すぐ着ろ!」
ズボンを脱いだら叫ばれた。なんだ、まだ裸じゃないぞ。
「まぁ、これでもいいか。それで、他の女と何か違うか?」
下着姿でクルリと回る。
「……いいや」
「魔女は人間だ」
アダンは苦虫を噛んだような顔をしている。目は逸らされて……つまらない。
「アダン、これでも分かっているよ」
「……」
「みんなアダンと同じ反応ばかりだった。いつものこと」
思ったよりもアダンの反応がよろしくなくてこれ以上の会話も行動も面倒になった。ふむ、久しぶりに風呂にでも入るか。いつも面倒で浄化魔法で済ませているが風呂は風呂で良いもんだ。
脱いだシャツをそのまま、外套だけを拾った。
「アダンの目がそうである限り、殺さないよ」
ニコリと笑って私は一階へ降りた。
その後風呂から上がって二階に戻った私は大笑いした。
そこにアダンは居なかった。