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 この森は深く深く、誰も果てを知らない。

 茂る木々は空を覆い隠し僅かな時しか日は射さず、早過ぎる日暮れと共に凍える夜が来る。そんな誰一人踏み入れない森の奥深くにひっそり、いや吞気に暮らす一人の変わり者がいた。


 「ん?…何か入ったな」


 いつも通りに遅くに起き朝か昼か分からない食事をとった後、二階で実験の続きをしていた時だった。突然身体に小さな痛みが走った。これは家を中心に張った結界に何かが進入した事を教えるものだ。


 「んーおっかしいなぁ」


 今までこんな事は無かったんだけど。

 結界は生きている人間を通さないようにしてある。動物は出入り自由。という事は。


 「面倒だなぁ」


 死んでたらいいけど。もし何かの間違いで生きていたら面倒だ。確認しに行かなきゃならない。あぁ、それも面倒だな。

 結局は行くしか無いから薬草を摘み取りがてら普通に歩いて向かった。



 「確かここら辺……お! いた!」


 2キロほど歩いた場所にそれは居た。ちょうど結界の前に全身黒尽くめの人間が横向きに倒れているのが見える。んー、死んでたらいいな。


 「お、髪まで黒い。珍しいな染めてるのか」


 天然なら材料にちょっとだけ貰っても良いだろうか、構わないよね、死んでれば。そんな事を考えながら顔を覗き込んだ時だった。

 閉じられていた目はカッと開き、それと同時にナイフが顔めがけて飛んできた。


 「わ!あっぶなー!」


 ちょっとちょっと何すんのこの人。反射で顔を逸らしてギリギリかわしたが本気でビビった。


 「なんだ、生きてたの。あんたどうやってここに入ったの?」


 もう一度顔を覗き込んで尋ねる。黒髪の男は瞳まで黒で益々珍しい。

 あぁ、なんて素敵な素材。


 「……」

 「なに、だんまり?」


 こっちを睨みつける顔は血だらけで呼吸は浅く早く瀕死と言っていい状態に見えた。


 「んー、喋れないって感じか」


 ほっとけば死ぬかなぁ、でもずっと見ておくのは面倒だ。


 「……ころせ」


 「ん?」

 「ころせ」


 か細い声が聞こえた。なんだこの男、死にたいのか。よく見れば左腕は肘から先が無く、黒服でよく分からなかったが顔だけでなく全身血だらけに見える。


 「あんた、痛そうだね」


 瀕死なのに先ほどと寸分変わらない目付きでこっちを睨みつけている。とどめを刺した方がお互い良いかなという考えをその瞳を見て変えた。


 「ころせ」

 「はいはい」


 男の顔に手をかざす。それを確認した男は静かに目を閉じた。



*****


 「あ、起きた」


 感知魔法をかけておいた男が身動ぎするのを感じ一階に降りた。散らかり放題の部屋の中、寝かせるためにとりあえず物を退けたソファーの上に薄っすらと目を開ける姿を見つける。


 「っっっ!!!」

 「ばかだなぁ、動けるわけ無いでしょ? どんだけ傷だらけだと思ってんの」


 目の前まで移動し頭をソファーに押し付けた。


 「もうほんとビックリ! よく生きてたな! 全身切り傷だらけだし、左腕は適当に焼いて血止めしただけ。普通あんだけ血が出たら死んでるぞ」

 「……なぜ殺さなかった」


 またあの瞳で睨んでくる。それを見て思わずニヤける顔を止められない。


 「珍しいね、黒いの。それ欲しいな」

 「……抉り取るか」

 「はぁ? ばかなの? それなら治療なんかしない。面倒くさい。もう三日も経ってるんだよ? はぁ〜、疲れた疲れた。あそこから運ぶのにも苦労して治療に看病までして殺す意味って、何?」


 あの時手をかざしたのは眠らせるため。その後、先に治癒魔法をかけて帰りは地面に転移魔法の陣を書いて家まで帰った。因みにザーッとソファーの上のものを退けて引きずりながら寝かせた後にもう一度転移して陣を消してから歩いて帰ってきた。超絶面倒だった。

 「何故生かす」

 「髪の毛ちょっと頂戴」

 「……は?」

 「目はさー、無くなるの惜しいから。髪の毛頂戴」

 「……何をする」

 「ん? 実験」


 ニコニコと笑顔で伝えたのに目の前の男は恐ろしい物を見る目に変わった。なに、そんなに変?


 「お前、まさか」

 「ん?」

 「魔女か」

 「あ!!言ってなかった!」


 そりゃそうだ。自己紹介なんてする暇なかったし、そもそもこの男が何かも知らない。あんまり興味ないが。


 「本当に存在したのか」

 「え? 私って外でどんな存在なの?」


 自分的には誰にも知られずここに移り住んで何年か、そう経ってはないと思うんだけど自分でも忘れるくらいだから外にも、もう忘れられていると思っていた。


 「10年ほど前に唯一の魔女がいた」

 「あれ、そんな経った?」

 「……王の首を刎ねて姿を消した」

 「うん、間違いない」

 「探しても見つからず民の間では幻だと」

 「ふーん、ずっとこの家に居たけどね」


 唯一の魔女かどうかなんて知らないが、昔ここから近い国の()()()さんに使われていたことがある。その時はまだ色々と子供だったから自由を知らなかった。

 ある日、王の私室で色々と、まぁ面白くないことをされかけた私は勢い余って目の前の人の首をスパンと風で刎ねてしまった。あ、やっちゃった。と思ってももう遅い。どうせ誰にも捕まえられないだろうけど見つかってから逃げる迄を想像したら凄く面倒な事に気が付いて速攻で消えた。そしてそれから(ここ)に住んでる。


 「もう10年経ったのか。ここに人間が来るのなんて初めてだから知らなかった……って、えーまた寝たの?」


 回想がちと長かったか。男は険しい顔をしてまた寝ていた。つまらない。


 「せっかく久しぶりの人間なのに」


 あ、髪貰うの忘れてた。まぁ、また起きたらでいいかと思い直して実験の続きをする為に二階へと上がった。


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