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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
99/100

変な退館式

  一夜明け、陽も半ば昇った頃。

  スペースの有り余った宴会場で、俺は自分の想像していたイメージが破壊された。

  低い舞台上には、マイクを手に持つ女将。

  女将が口を開いた。


 「只今より退館式を催しあそばせ」


  マイクを持った和服の女性、これだけならまだいい。

  気になるのは女将の背後の横断幕。『藤田様ご一行退館式』とポップ体で書かれてあるのだ。


 「この度、司会を務めさせていただくこの旅館の女将です。よろしゅう」


  と言った俺のイメージする退館式とは、似つかわしくない口上で始まった。

  俺の隣に座る冬花が、潜めた声で疑問を口にする。


 「ねえ、剣志。この退館式変じゃない?」

 「同感だ」


  こそこそ話す俺と冬花に、舞台上の女将がマイクの柄をぴしりと差し向ける。

 「式前の密談はお控え願いたく存じます」

 「密談って、大袈裟な」


  俺は愛想笑いを返した。

  女将はこれ以上が気にかけない様子で、マイクを口元に近づける。


 「では早速、催しの進行にまいりましょう」


  女将のその一言の後、宴会場の障子が突然開かれる。

  右端と左端に分かれて、藤田さんと紺之崎さんが現れた。

  二人は無言で舞台に上がり、女将が脇に退く。

  藤田さんが両手を広げて言った。


 「今から退館パーティーを開催する」

 「「はあ?」」


  俺と冬花は同じタイミングで、理解の不能さに声を発した。

  紺之崎さんが懐から何かを取り出す。

  ヘルメットの形をして白くペンギンの顔のようなデザインの器材だ。


 「何ですか、それ?」

 「パーティーグッズ、とりあえず剣志君来て」


  ヘルメットの形の器材を舞台の脇にあった司会台に置き、俺を呼ぶ。

  わけがわからないまま、俺は舞台に上がった。何をやらされるんだ?


 「その上に手を置いて」

 「は、はあ」


  器材の曲面に手を置くための溝がある。俺はそこに手を置いてみる。

  何も起こらない。


 「剣志、知り合いに隠し事があるか?」


  藤田さんが尋ねてきた。脈絡もなく、なんでそんな質問をするんだ。

  俺は答える。


 「ありませんよ」

 「嘘、隠し事ある。赤く点灯してる」


  紺之崎さんが平然と言ってのけた。

  藤田さんは頷き、


 「どうやらこの道具は正常なようだな」

 「俺、隠し事なんて……」

 「その隠し事とはなんだ?」

 「だから隠し事してませんって」

 「嘘ついても無駄、赤く点灯してる」


  なんなんだよ、赤く点灯してるって。


 「剣志君、一度手を離していい」

 「なんなんですか、これ」


  俺は手を離すなり、腹立ち気味に尋ねる。

  紺之崎さんは答える。


 「嘘発見器」

 「嘘発見器って、こんな小さいのが?」

 「そう、赤いランプが点灯したら嘘をついている」


  とはいえパーティー用のおもちゃだろ。真に受けることはない。


 「剣志、お前は男か」

 「そうですよ、疑う余地もないでしょうが」

 「赤いランプ点灯しない、嘘ついてない」


  紺之崎さんが淡々と判定結果を述べる。

  冬花が胡散臭そうに、埒もない舞台上の成り行きを見ている。

  女将がマイクを口に近づけ、


 「あらあら、質問の弱いこと。もっと踏み込んでもよろしいのに」

 「おい、踏み込むな」


  俺の訴えなどどこ吹く風で、藤田さんがニヤリと笑みを浮かべた。


 「そうだなぁ、影雪にもやってもらおう」

 「……ええっ!」


  冬花の目が突然の指名に大きく開いた。頭と手をぶんぶんと振り、


 「私はいいです、やりたい人がやればいいと思います」

 「別に秘密を暴こうってわけじゃない。安心しろ」

 「できません!」

 「なんだぁ、人には話せない秘密でも持っているのか?」


  藤田さんが意地悪くうすら笑う。

  冬花は目尻を吊り上げ憤慨し、


 「秘密は誰にも言えないから秘密なんです、そんなおもちゃ使ったずるい方法で秘密を丸裸にしないでください!」

 「そんな硬ことい言うな……おい、影雪」


  冬花は憤然と立ち上がった。舞台上にあがってきて、


 「剣志もこんな遊びに付き合う必要ないよ、そうでしょ?」

 「でもせっかく楽しませようと思って用意してくれたんだから、全く拒絶するのは失礼な気がするぞ」

 「私はこんなおもちゃで人の心の中を知りたくないし、自分の心の中も知られたくない」


  冬花の強い主張に、藤田さんと紺之崎さんは顔を見合わせた。

  女将がふふふと笑い、


 「おいたが過ぎた、と申しましょう」

 「そうだな、ふざけて他人の心情に踏み込むべきではなかった」


  藤田さんが納得の意を述べ、それに紺之崎さんも頷く。


 「秘密は人に言えないから秘密、確かにそう」


  冬花がスーツ姿の二人を見て、溜息をついた。


 「藤田さんにも青春さんにも、秘密くらいあるでしょ? 知られたくないですよね?」


  二人は揃って頷いた。

  俺にだって言えない秘密がある。冬花に異世界のこととかリアンとシャマのこととか、嘘で覆い秘密にしている。

  人の気持ちを暴く、というのはその人を傷つける行為の一端なのか。

  そう俺は解釈した。 

  

  

  一行が帰途に就く前の一幕。

  剣志達が肝試しをした旅館の裏山の入り口に、帰りの仕度を整えて旅行鞄を片手に紺之崎が冬花を話があると言って手を引いて連れてきた。

  紺之崎の意図が掴めない冬花は困惑して、手を離されるなり尋ねた。


 「こんなところに連れてきて、話ってなんですか青春さん?」

 「聞いておきたいことがある」


  相変わらずの無表情だが、いつにもまして真剣な眼差しで冬花を見つめる。


 「なんですか、聞いておきたいことって?」


  紺之崎は一言一句噛みしめるように訊く。


 「剣志君のこと、好き?」


  瞬間、冬花は言葉の意味を理解できなかった。

  しかし自分を見つめる眼差しに、ふざけて訊いてきているのではないとわかり余計にたじろいだ。


 「わ、私が剣志のことが好き? な、なんでそうなるんですか?」


  紺之崎は意味もない瞬きを数回する間を置いて、繰り返し訊く。


 「剣志君のこと、好き?」

 「だから、なんでそうなる……」

 「証拠見せないと、正直に答えてくれない?」

 「えっ、証拠?」


  冬花は予想外の台詞に面を食らった。

  紺之崎は鞄を地面に置きスーツの内側に手を差し入れて、先程までメモリーカードを二本指の間に挟んで見せた。


 「証拠の写真がカードに保存されてる」

 「冗談はやめてください青春さん」

 「実際見てもらった方が早い」


  紺之崎は鞄から一眼レフカメラを取り出し、メモリーカードを挿入した。

  カード内に保存された写真を一枚ずつ繰って、目当ての写真を見つけるとパネルに映っているものを冬花の顔に突きつけた。


 「よく見て」


  訝しんで冬花はパネルを見ると、瞬時に目を見張る。


 「これ、どこから撮ったんですか?」

 「好きじゃなかったら、砂に相合傘は書かない」

 「好きじゃなくてもふざけて書くことはあります!」


  冬花は断固として否定した。

  紺之崎は尋ねる。


 「なんで意地になってまで否定するの? 剣志君本人は毛筋ほども冬花ちゃんの気持ちには気づいていない。正直になってもいいと思う。お願い、本当のこと教えて」

 「……私は」


  冬花は何と言葉を継ぐべきか、わからなかった。


 「一度口に出すと、すごい楽になると思う」

 「私は」


  開いた唇が渇きそうだった。

  両手を知らず握りしめている。


 「私は剣志のことす、き、です……はい」

 「これでもう大丈夫」


  紺之崎は温かく微笑んだ。

  冬花は自分がとんでもない台詞を口にしてしまったことで、急に羞恥が全身に及んだ。開いたままの唇が空に息だけを吐き出す。

  微笑みを残して、紺之崎がそっとスーツの内の拳銃を手に持つ。

  カメラからメモリーカードを抜き出し手のひらに載せると、空中へ舞い上げた。

  拳銃の照準をメモリーカードに向けた。

  乾いた破砕音が小さく響く。

  カメラ本体も空中で無秩序に砕け散った。


 「素直な感情にこんなもの不必要」

 



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