光の道
俺と冬花は夜風が穏やかに吹く丘を昇る。
歩くこと数分ぐらい、急に辺りが拓けた丘の草原に出た。丘の最も高い所に藤田さんと紺之崎さんらしい輪郭が見えた。何か細々したものを設置している様子である。
俺と冬花は夜風が穏やかに吹く丘を昇る。
紺之崎さんがこちらに駆けてくる。
目の前まで来た彼女は、申し訳ない雰囲気を存分に纏ってすぐに詫びた。
「ごめん、剣志君、冬花ちゃん。逃げ出しちゃって」
「気にしてませんよ。でも紺之崎さんが幽霊とかダメなの意外でした」
「幽霊は大丈夫、お墓倒れたのに驚いただけ」
珍しく強がっているのかも知れない。表情から得られる情報が少ないから断定ができない。
紺之崎さんは、藤田さんとその周辺のごたごた物の置かれた場所を指さす。
「今日、最後の楽しみ。準備できてる」
「なんですか、その最後の楽しみって?」
問うと紺之崎さんは、俺と冬花を交互に見つめて、
「二人の記憶に残るパノラマ」
「どういう?」
「着いてきて」
質問は打ち切られ、紺之崎さんは藤田さんの所へと向かっている。
俺と冬花は顔を見合わせ、彼女の後をついていった。
藤田さんのところまで行くと、彼は大袈裟に胸を突き出すように両手を開いた。
「待ちくたびれたぞ、剣志に冬花」
「俺達が肝試ししている間、ずっとここにいたんですか?」
「そういうことだ、とはいえ暇ではなかったがな」
藤田さんの身体で隠れた、後ろの何らかの器材について尋ねる。
「藤田さん、後ろのやつなんです?」
「ああ、これか」
藤田さんは脇へ退き、器材を披露する。
「折り畳み椅子と、クーラーボックスだ」
釣り人みたいだ。
藤田さんは勢いに乗って付け加える。
「夜景を一人で満喫していたんだ」
「夜景ですか、この丘から何が見えるんですか?」
「それは自分の目で見てこそ、琴線に触れるもんだ」
「はあ」
言葉では言い表せない、ということだろうか。
「冬花ちゃん」
「な、なにっ!」
唐突に紺之崎さんが冬花の名前を呼んだ。冬花は驚いて振り向く。
「夜景、早く見るべき」
「そう、わかりました」
冬花は藤田さんの背中に回った。
「あっ」
思わずと言った感じで、微かに声を漏らすのが聞こえた。
「剣志君も早く行く」
紺之崎さんが俺をせっつく。
どんな夜景が見られるのか、と期待しつつ俺も藤田さんの背中側に回った。
思いもよらない景色が目に飛び込んできた。
光の道。そう言い表せる。
茫洋と広がる海面に、夜空でその姿を誇示する傾きかけた半月が、自然の鏡面に姿を歪ませて映っていた。
その姿は水平線の奥、果てしへ伸びている。まさに光の道だ。
「幻想的ね」
冬花が呟いた。
藤田さんが俺の隣に立ち、
「この光景が今年の夏の思い出で表紙を飾るんだ」
「でしょうね」
思わず口元を緩ませてしまった。




