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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
98/100

光の道

 俺と冬花は夜風が穏やかに吹く丘を昇る。

 歩くこと数分ぐらい、急に辺りが拓けた丘の草原に出た。丘の最も高い所に藤田さんと紺之崎さんらしい輪郭が見えた。何か細々したものを設置している様子である。

 俺と冬花は夜風が穏やかに吹く丘を昇る。

 紺之崎さんがこちらに駆けてくる。

 目の前まで来た彼女は、申し訳ない雰囲気を存分に纏ってすぐに詫びた。


「ごめん、剣志君、冬花ちゃん。逃げ出しちゃって」

「気にしてませんよ。でも紺之崎さんが幽霊とかダメなの意外でした」

「幽霊は大丈夫、お墓倒れたのに驚いただけ」


 珍しく強がっているのかも知れない。表情から得られる情報が少ないから断定ができない。

 紺之崎さんは、藤田さんとその周辺のごたごた物の置かれた場所を指さす。


「今日、最後の楽しみ。準備できてる」

「なんですか、その最後の楽しみって?」


 問うと紺之崎さんは、俺と冬花を交互に見つめて、


「二人の記憶に残るパノラマ」

「どういう?」

「着いてきて」


 質問は打ち切られ、紺之崎さんは藤田さんの所へと向かっている。

 俺と冬花は顔を見合わせ、彼女の後をついていった。

 藤田さんのところまで行くと、彼は大袈裟に胸を突き出すように両手を開いた。


「待ちくたびれたぞ、剣志に冬花」

「俺達が肝試ししている間、ずっとここにいたんですか?」

「そういうことだ、とはいえ暇ではなかったがな」


 藤田さんの身体で隠れた、後ろの何らかの器材について尋ねる。


「藤田さん、後ろのやつなんです?」

「ああ、これか」


 藤田さんは脇へ退き、器材を披露する。


「折り畳み椅子と、クーラーボックスだ」


 釣り人みたいだ。

 藤田さんは勢いに乗って付け加える。


「夜景を一人で満喫していたんだ」

「夜景ですか、この丘から何が見えるんですか?」

「それは自分の目で見てこそ、琴線に触れるもんだ」

「はあ」


 言葉では言い表せない、ということだろうか。


「冬花ちゃん」

「な、なにっ!」


 唐突に紺之崎さんが冬花の名前を呼んだ。冬花は驚いて振り向く。


「夜景、早く見るべき」

「そう、わかりました」


 冬花は藤田さんの背中に回った。


「あっ」


 思わずと言った感じで、微かに声を漏らすのが聞こえた。


「剣志君も早く行く」


 紺之崎さんが俺をせっつく。

 どんな夜景が見られるのか、と期待しつつ俺も藤田さんの背中側に回った。

 思いもよらない景色が目に飛び込んできた。

 光の道。そう言い表せる。

 茫洋と広がる海面に、夜空でその姿を誇示する傾きかけた半月が、自然の鏡面に姿を歪ませて映っていた。

 その姿は水平線の奥、果てしへ伸びている。まさに光の道だ。


「幻想的ね」


 冬花が呟いた。

 藤田さんが俺の隣に立ち、


「この光景が今年の夏の思い出で表紙を飾るんだ」

「でしょうね」


 思わず口元を緩ませてしまった。

 



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