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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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同じ命日の墓石

  

 真っすぐの小道を逸走して、だいぶ川から離れたと思って足のスピードを緩め始めた矢先に心底から嫌な寒さを与えてくる場所に来てしまった。

 月明かりに照らされた芝生の辺り一面に無造作に地面に生えるように立つ、死者の名が刻まれた石。

 墓石である。それもつるつるとした御影石でなく、表面の粗い形だけの墓石である。

 埋葬だけされ、以降放置された。そんなうらぶれた墓所だ。

 どの墓石も似た様相をしている。

 興味深げに紺之崎さんが、墓石に歩み寄った。墓石の裏側に回って、


「このお墓、随分古い」


 と言った。


「昭和二十年八月三日。まだ戦時中に建てられたことになる」

「昔はこの辺に人が住んでたんですかね?」

「そう考えていいと思う」


 さして重要でもない俺の質問に答えながら、紺之崎さんは右隣の墓石の裏側も見ている。

 墓所を直線に突っ切る道を指して、冬花が言った。


「こんな物騒なとこ、早く抜けよう?」

「そうだな、ゴールで藤田さんが待ってるしな」

「昭和二十年八月三日。さっきのと同じ日」


 赤の他人が墓石の文字を読み上げるなんて、いかにも祟られそうだ。

 巻き添えで祟られるのは嫌なので、紺之崎さんに促す。


「こんな場所にいつまでもいることないんですから、もう行きますよ」

「昭和二十年十八月三日。これも同じ日」


 紺之崎さんはその隣の墓石の文字も見遣り、


「昭和二十年八月三日。同じ日に亡くなってる、どうもおかしい」


 人様のお墓の没年月日を読み上げて、不可解そうに眉根を寄せている。縁起でもない。

 墓石の文字を読むために中腰になっていた紺之崎さんが、腰を元に戻した。


「剣志君。この近辺で昔、何か血生臭い事件があったとか知らない?」

「……知りませんよ、しかも肝試しの最中に血なんて言わないでくださいよ」

「そうですよ、青春さん。私達とここのお墓はなんにも関係ないんですから、過去を掘り返すことありません」


 俺と冬花の言葉など聞こえていない風で、紺之崎さんはその次々に墓石の文字を確認していっている。

 ここの大半の墓石を確認して、紺之崎さんの顔が突然青ざめた。


「見た限りの全員が同じ日に亡くなってる」


 その言葉に俺と冬花を怖がらせようとしているのかな。


「紺之崎さん、そんな大勢が同じ日に死ぬなんてあり得ませんよ。冗談はやめて、早く進みましょうよ」

「藤田さんはムードだけでも楽しんで来いって言ってましたけど、自分たちでムードを作る肝試しなんてありません青春さん」


 紺之崎さんは顔が青ざめたまま、ぶるぶると首を振る。


「冗談なんかじゃない、見てみればわかる」

「わかりましたよ、見てみますよ」


 あまりにも紺之崎さんが演技を続けるので、仕方な手近の墓石から当たってみる。

確かに昭和二十年八月三日、と刻まれている。その次の墓石にも、またその次の墓石にも。四人目、五人目、六人目、ひたすらに同じ没日が続く。

俺は紺之崎さんを疑い確認しようとしたのを、後悔した。

 確認しようとしなければ、同じ日にまとめて人が死んだ事実を知らずにすんだのだから。

 絶対に刻まれている日付に、何かが起きている。


「冗談じゃないって言った」

「はい」


 紺之崎さんが浴衣の懐に片手を入れて、静かに言った。

 俺も体が急激に冷えた感覚に襲われる。

 耳に嫌に残る鉢で砂を擦ったような音が、墓所の闇に響いた。

 俺達は揃って音のした方をそっと窺う。

 何も以上は見当たらない。

 不気味な擦過音が再び鼓膜でざらついた。


「ひっ……」


 冬花が小さな悲鳴をあげて、脚を自制の利かない様子で震わせて隅の墓石を見据えている。

 俺達を苛むようにしつこくまたも擦過音がした。


「いやっ」


 左手の手首を掴んで両手を胸の前で組み、冬花が自分に言い聞かせるように首を振っている。


「剣志君、逃げっ……」


 紺之崎さんが川の時と同じく叫ぼうとした瞬間、それが合図であったかのように音を断続で立てていた思われる墓石が前に倒れた。

 重い石が倒れた音だけが場を占め、恐怖が極点に達する。

 俺はその場に立ちすくみ、倒れた墓石を懐中電灯を向けた。


「剣志、青春さんは?」


 冬花が辺りをせわしく見回して、俺に訊いてくる。

 え?

 俺は後ろを振り向いた、ついさきほどまでいたはずの紺之崎さんが姿を消している。

 ゴールに至るであろう道に懐中電灯が自然と向くと、光の奥でほっそりとした後姿が見えた。紺之崎さんだ。

 驚異的な速さでその姿は闇に紛れてしまった。


「紺之崎さん、先に行っちゃったみたい。追いかけよう冬花」

「そう、わかった」


冬花は頷き、俺らはともに紺之崎さんを追いかけた。


 

 紺之崎は小道の脇の茂みに、身体の向きを変えて飛び込んだ。

 急だが短い勾配を滑り降りて、頭上の音に耳をそばだてた。

 数十秒後、頭上の小道を激しく呼吸する若い男女が走り過ぎた。

 願ったりかなったりのシチュエーションを作り出した。夜の山林に男女が二人きり。


「ご苦労様」


 紺之崎の眼前の暗闇から、異様な二人組が現れる。

 一方は白装束、もう一方は浴衣を身に纏っている。

 白装束が言った。


「いい演技だったよ」

「そう」


 紺之崎は表情の変化なく相槌を打った。


「剣志君と冬花ちゃんの親密度のパラメータが、今夜で急激に上昇する」

「ギャルゲーみたいな表現すね」


 浴衣の工作員アールがぼやく。

 紺之崎の目が彼に向く。


「次は君の出番、肝試しの最後の怪奇」

「任せてください。それがしは任務を全うする所存です」


 工作員アールが背筋をピンと伸ばし、紺之崎に敬礼する。


「頑張って」

「重大任務だからね、ミスのないように」

「はっ」


 工作員アールは背筋をピンとさせたまま、所定の地点へ駆けていった。

 



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