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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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深夜に外出

 「剣志、起きろ」


  意識の遠くで藤田さんの声が聞こえた。

 「はい、点灯」


  真っ暗な瞼の裏が急に明るくなった。

  目がショボショボして俺は不快に目覚める。


 「なんですか、いきなり」

 「外へ夕涼みに行かないか?」


  布団の脇に立って俺を見下ろす藤田さんが、用件を言った。

  俺は上半身を起こし、尋ねる。


 「今、何時ですか?」

 「夜の一時だ」

 「どこが夕涼みですか! 夜更けじゃないですか」


  俺は寝起き早々、突っ込んだ。

  藤田さんは俺をなだめるように、


 「そうかっかするな。一緒に外に出ようって言うだけだ」

 「外なんか出て何をするんですか、深夜一時ですよ。寝かせてください」


  俺は真面目に意見したのだが、藤田さんは首を横に振る。


 「青春も影雪も一緒なんだ、剣志だけ参加しないのはナシだぞ」

 「参加?」

 「そうだ」


  藤田さんは頷き、いつの間にか手に持っていた懐中電灯を掲げて見せる。


 「近くの丘に星を見に行こう」

 「青春ストーリーの歌詞みたいなこと言いますね」

 「とりあえず行くぞ」


  深夜に外へ出るのはいささか不本意だが、ここまで積極的に誘ってくる藤田さんも珍しいし、丘の上で見る星はさぞかし綺麗であろう。


 「そこまで言うなら、行きますけど。こんな格好じゃ、まずいですよね」


  俺は自分の旅館の浴衣姿を見下ろして尋ねる。

  藤田さんは何を言ってるんだとばかりに肩をすくめた。


 「夕涼みだ、厚着しては意味がないぞ」

 「まだ夕涼みって言うんですか」


  和装のせいで、ただ夕涼みって言いたいだけの気がする。

 

 

  浴衣の生地の隙間から沁みるように心地いい夏の夜風を感じながら、旅館の外へ出た俺と藤田さんは先に来ていた紺之崎さんと冬花と連れ立ち、懐中電灯持ちの藤田さんを先頭に林に入っていった。

  しばらく歩くと、藤田さんが突然身を翻した。

  懐中電灯を俺に向けて、小刻みに振る。

  急な強い光に俺は片手で目元を覆った。

  藤田さんは懐中電灯の光を脇に逸らすと言った。


 「星を見に行くとはまっぴらな嘘だ」

 「はあ?」


  俺は目元から手を離して首を傾げた。

  冬花も隣の紺之崎さんに、どういうこと、と聞いている。

  藤田さんは続ける。


 「夏のイベントと言えば、海水浴以外にもたくさんある」

 「例えば?」

 「白夜」


  紺之崎さんが割って入る。それ、北欧の自然現象です。

  それもそうだが、と藤田さんは突っぱねはせず、


 「ひゅーどろろ、ってやつだよ」

 「ひゅーどろろ?」


  良いとろろ、みたいな響きだ。

  藤田さんは解くように手のひらを上向け、


 「つまりだな、肝試しだ」

 「林の中でですか?」

 「下見してルートは決めてある。怪奇な雰囲気は満点だ」


  自信たっぷりに笑って、請け合った。

  俺は唖然として、


 「肝試しのために嘘をついてまで連れ出したんですか」

 「そうだが」

 「星でも見られると思ってたのに、もう帰ります」


  俺は呆れて、踵を返そうとした。


 「怖いのか?」


  藤田さんの真面目な口調。

  うんざりと言い返す。


 「そんなわけないですよ。幽霊って言うのは気持ち次第です。錯覚みたいなものですよ」

 「信じるとか信じないとか、それはどちらでもいい。雰囲気を楽しもうっていうだけだ」


  藤田さんも別段、幽霊が見たいとかではなさそうだ。


 「四人で夏を満喫しよう、剣志それに影雪も」


  藤田さんは俺と冬花に微笑して言った。


 「そういうことなら、やりますけど」

 「影雪もいいか?」

 「いいですよ、せっかくの夏ですもんね」


  冬花は笑顔で同意した。

  藤田さんがよし、と頷き、


 「じゃあルートの説明をしよう」


  背後に続く道を指し示す。


 「この道を真っすぐ進むだけでいい。途中に川があるから、足を踏み外さないようにな。到着地点は林を抜けてすぐの丘だ。俺は到着地点で待ってるからお前たちは雰囲気だけでも楽しむんだぞ」


  そう言って藤田さんは真っすぐの道の奥へと走っていった。

  懐中電灯が消えて、辺りが真っ暗になる。

  近くで唐突に光が灯った。光が当たる紺之崎さんの端整な顔が現れる。


 「紺之崎さん、持ってたんですか」

 「藤田に言われて、用意してきた」


  紺之崎さんは無表情に答えて、眩しすぎない適度に明るい懐中電灯を俺に差し出す。


 「剣志君が持ってて」

 「別に俺じゃなくても」

 「男の子が先頭に立つのが、当たり前。か弱い女の子を守る義務があるから」


  か弱い女の子か、冬花は当てはまっても紺之崎さんはだいぶ俺よりも強い。

  まあ、紺之崎さんも一人の女性であることには違いないから口には出さないが。

  林の中の肝試しを俺達三人はスタートした。

 

 

  剣志達一行の進む道程の茂みに潜む、不審な二人がいた。

  白装束と動きやすいジャージ姿の工作員アールは、藤田からの丘に到着したという通信を得て、ついに実行される作戦に気を張っていた。


 「いよいよだね」


  白装束が急変した口調で言った。

  工作員アールが遠慮気味に尋ねる。


 「うまくいくんすか?」

 「不確定要素が少なければね」

 「その不確定要素って、どんなことすか?」

 「剣志君がへたれだったり、本物の幽霊が出現したり、いろいろだよ」

 「いろいろかぁ」

 「静かに」


  白装束は工作員アールに命令した。

  二人の潜んでいる茂みの前の道に、白い扇形の光条と談笑する声が近づき通り過ぎていく。


 「川に進んでるね」

 「もう行くっすか?」

 「ああ、そうするよ」


  白装束は立ち上がり、丈の低い茂みの奥へ出番を迎えた役者のように向かった。

 



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