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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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美女と美少女のおしゃべり入浴

 

  和式浴室の象徴、ヒノキ材の大浴槽。

  熱々とさら湯から湯気が立ち込める。

  そんな日本情緒溢れる空間に、一糸まとわぬ二つの影があった。

  影の一つ、は束ねている後ろ髪をほどいて垂らした影雪冬花。もう一つは、婀娜な肢体を恥ずかしげもなく晒す紺之崎青春。

  浴槽の縁に腕で置いてもたれかかる冬花が、室内と同材のヒノキ椅子に腰を据えて全身をくまなく清潔にしている最中の紺之崎を微妙な感情で観察していた。


 「はあぁ、なんであんなに大きいのかな」


  恋する少女の平凡な劣等感である。さりとて冬花も、フィットな乳のサイズである。本人が無駄に身体だけは艶麗な非常識女を前にして、弱腰になっているだけである。

  人並み外れた紺之崎の耳は、冬花の溜息を聞き逃さなかった。


 「冬花ちゃん、悩みでもあるの?」


  顔を冬花に向けた紺之崎の鳩胸が、図らずも揺れた。

  冬花は表情をしかめた。


 「怖い顔してる」


  自分のことで顔をしかめられたのも知らず、紺之崎は指摘した。


 「なんでもありません」


  ふてくされて冬花は、身体を反転し背を縁にもたせかけた。

  非常識女は心配そうに、


 「冬花ちゃん、悩みがあるなら聞く」

 「嫌味ですか?」

 「違う。私、嫌味なんか言わない」

 「現に今、遠回しな嫌味を言ってます」


  木桶で湯を肩口からかけると紺之崎は浴槽の方へ歩み寄って、冬花の左隣に腰を沈めた。

  冬花はぎょっとし、


 「隣ですか?」

 「おかしい?」

 「おかしくはないですけど、なんかこう……」


  目と鼻の先に迫った紺之崎の、豊かな乳房に視線を下ろす。


 「近くで見ると余計に、自信がなくなっちゃう」

 「欲しい?」


  冬花の視線に気づき、下から胸を押し上げて強調する。


 「私、いらないんだけど」

 「私も人のはいりません!」


  波音を立てて、冬花は紺之崎から距離をとった。

  紺之崎は見るからに落胆し、


 「誰かに譲り渡したい。動くときに重いし邪魔」

 「邪魔って、そういうのを嫌味って言うんです」

 「嫌味なんて言ってない。思ってることを言っただけ」


  終わりの見えない禅問答に、冬花は嘆息し、


 「この話は終わりにしましょう。話してても何の得もありそうにないですから」

 「そう」


  あっさりと話を打ち切った。

  身体の筋肉がほぐれるような湯の温もりに、じわじわと疲労が抜けていく感じを冬花は味

 わった。

  会話がなくなり静かになると、何故だか剣志のことを思い浮かべてしまう。

  さっき波に流された時に、誰よりも早く助けに来てくれた。

  ありがとう、をまだ言っていない。

  胸が破れそうなほどにドキドキしていて、一番簡単に思いが伝わる五文字を口にできていいない。

  もしも助けに来たのが藤田さんか紺之崎さんだったら、すんなりありがとうを言えたに違いない。

  紺之崎すり寄ってくる気配に、冬花はぼんやりした思考を断ち切った。


 「絶対に悩みある」


  やにわに冬花の頬を紺之崎が摘まんだ。

  冬花はもちろん動転し、


 「なんですか、いきなり?」

 「笑ってた方が可愛い。トップスの水着をなくしたからって落ち込むほどじゃない」

 「なっ!」 


 冬花は忘れ去りたいついさっきの恥ずかしい失態を、目の前の女に堀り返され、両手を湯の影に忍ばせ対抗策を講じた。


 「ひゃう」


  紺之崎はわき腹を擦られて弱々しく声を発して、官能的な力の抜けた顔で硬直した。

  表情そのままに湯の中に横倒れする。

  期せずして旅館の大浴槽にざぶんと水柱が立った。

 

 

  各自入浴を済まして、四人揃って食堂で夕食をとることにした。

 畳敷きの食堂の膳に置かれた食事は思ったより質素で、白飯と味噌汁、添え物に青野菜のおひたしと何かの肉のしゃぶしゃぶ二片。高級旅館でないため不満は口にできないが、期待ほど贅沢な食事とは言えなかった。

  しかも食堂内に俺達以外の宿泊客の姿がなく閑散としている。

  旅館の職員も給仕をしてくれた白マスクの寡黙な青年と、風雅な身ごなしの女将の二人しか見当たらない。


 「お食事はいかがですか?」


  女将が俺の隣に来て、尋ねてくる。


 「美味しいです」

 「それはよろしゅうございました」


  和服美女ってやつだろうか。俺の周りに奥ゆかしい女性というものがいないので、女将の所作を見ていると新鮮な気持ちになる。


 「皆さんのお口に合っていればよろしいですが、いかがでしょう?」

 「問題ない」

 「普通に美味しい」

 「とても美味しいです」


  めいめいに出された食膳を賞味し、寡黙な白マスクの青年を除いた五人で談笑を交えた夕食の時間は瞬くうちに過ぎていった。

 

 

  日付は変わり、深夜の一時。

  静かに藤田は布団から身体を起こした。

  隣で眠る剣志を窺う、すやすやと泥のように眠っている。

  剣志を起こさないよう用心しながら、藤田は廊下に出た。

  向かいの廊下から紺之崎も障子を開けて、部屋から出てくる。

  二人は廊下の交わるところで計画通り行き会った。


 「紺之崎、準備は万全か?」

 「肯定、いつでも開始できる」


  旅行とは見受けられない会話をする二人に、血色悪げな白装束の女が歩み寄った。

  二人は白装束を見る。


 「完璧な変装だ、まさに幽霊の雰囲気がする」

 「藤田に同意見」

 「あらあら、大袈裟な誉め言葉ですこと」


  白装束は謙遜した。


 「それで工作員アールは?」

 「まだ準備ができておりませんのよ」

 「遅くなりました」


  工作員アールが受付の傍の階段から駆け下りてくる。三人の近くで礼儀正しく敬礼する。

  怪しげな四人の総員が揃い、藤田が指示を下す。


 「俺と青春が剣志と影雪をそれぞれ連れてくる。その間に配置につけ」


  白装束と工作員アールは頷いた。

  作戦は決行された。

 



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