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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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流されてはだける

  冬花は波打ち際から学校のプール程の距離を沖へ泳いで、ビーチに戻ろうとターンしたところで、砂浜に並んで立つ二人、剣志と紺之崎を見つけ不機嫌になる。

  手足を器用に使ってたゆたいながら、


 「胸の大きさじゃあきらかに負けてるけど、私だって」


  強く波に揺られ、言葉が切れた。

  砂浜が遠ざかる。

  冬花は前に進むため水を掻いた、が抗いようのない波に身体が勝手に後ろへ持っていかれる。

  剣志が一人になったのが、遠目に見えた。


 「ああっ、なんでっ」


  精一杯に掻いたが、剣士の姿が小さくなる一方だった。

 

 

  騒ぎのせいで蜘蛛の子を散らすように、ビーチから人がいなくなってしまった。

  騒ぎの原因となった紺之崎さん本人は、人をいたぶる気はなくてやったというのが余計に事態を大きくしてしまった。

  そんな紺之崎さんは、静かになった海を無感動に眺めている。

  何か見つけたように俄かに目を凝らす。


 「どうしたんですか?」

 「……まだ誰かいた」


  沖を指さして言った。

  俺もそちらを見てみる。


 「どこですか?」

 「あそこ」

 「うーん、誰かいますね」


  誰かははっきりとわからないが、海面に顔を急いた様子で出したり沈めたりを繰り返している。

  いや、見ているうちに誰か判別できた。


 「あれ、冬花じゃないですか?」

 「そうみたい」


  冬花から妙に切羽詰まってるというか、焦っている様子が感じ取れる。


 「わかった、剣志君」

 「何がですか?」

 「冬花ちゃん、離岸流で沖に流されてる」

 「なんだって!」


  離岸流と言えば、沖に戻ろうとする強い波の事だ。水泳選手でも逆らって泳げないと聞いたことがある危険な波だ。

  このままだと冬花は、遠い沖へ流されていってしまう。


 「剣志君?」


  俺は紺之崎さんの制止も聞かず海へ駆け進み、沖へ、冬花のもとへ泳ぎ出していた。

  離岸流に乗って、みるみる冬花との距離が縮まっていく。

  目の前に見えた冬花が、俺に気付き前触れなく口を開いて、手を伸ばしてくる。

  その間にも離岸流は容赦なく砂浜を遠ざけていた。


 「冬花!」


  助けを求める冬花の手に、俺は伸び得る限り手を伸ばした。


 「剣志、助けてっ」 


 俺の手を掴んで冬花が波にあおられながら、叫んだ。

 どうすれば離岸流から抜け出すことができるか、咄嗟に思案した。

 頭の隅で埋もれていた知識が、突如閃いた。


 「流れと平行に泳げ」

 「ど、どういう?」

 「いいからっ、泳げ!」


  冬花と手の握ったまま、俺は並々ならぬ強い流れと平行に泳ぎ進んだ。

  横合いからの強い波が行く手を阻むが如く、俺の体力をじりじり削っていく。

  ようやっと離岸流の猛威か抜け出し、穏やかな波が困憊した身体を労わりなく揺らす。


 「なんで剣志が……」


  俺の傍で冬花が呆気にとられた声で呟いた。


 「助けに来たわけ、わけがわかんない」

 「わけがわかんないって言われても」


  俺は冬花に首を向ける。

  と肩が触れ合うほど近くに冬花はいた。

  手を握ったままだったことにも気づき、俺は急いで手を離した。

  途端に冬花に掴み直された。


 「離さないで……」


  真剣な見たこともない熱っぽい瞳で、俺を見据える。


 「私、今片手が使えなくて泳げないから」

 「ケガでもしたのか?」


  俺は心配になって尋ねた。

  しかし何故か冬花は顔を赤く染め、


 「剣志には関係ない。それより早く、進みなさいよ」

 「わかったよ」


  何をそんなに赤面することがあるのだろう、そう思いながら俺は砂浜へと片手を塞がれたまま進んでいく。案外泳ぎにくい。

  のろのろと進むのがじれったく、どうしても片手を離してはくれないものかと冬花を振り返る。


 「見るな!」


  ちょこっと首を回しただけで、一喝された。

  俺は渋々、冬花の手を握ったままの泳ぎづらい状態で砂浜に近づいていった。

  どうにかビーチの波打ち際に辿り着き、砂浜に足をつけることができた。

  砂浜では藤田さんと紺之崎さんが俺らを待っていた。

  藤田さんが俺に、紺之崎さんが冬花にタオルを差し出す。

  礼の言葉を絞り出して、俺はタオルを受け取った。

  冬花はタオルをかっさらうようにすぐさま受け取り、胸の前に抱いた。


 「じゃあ、私先に着替えてるから」


  そう急いで言って、冬花は背を向け女性更衣室に走っていった。

  冬花の肩甲骨の下にあるべき水着の紐が一本足りない気がしたが、離岸流を切り抜けた際の疲れで目が擦れ気味になっていたので、見間違いだと気に留めないことにした。

 



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