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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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無意識の色香

 

「暇そうだな、剣志」

「藤田さん」


 パラソルの下で日射を避けて涼んでいた俺に、藤田さんが声をかけてきた。

 この人、さっきまで何してたんだろうな?


「どこ行ってたんですか?」

「あちこち、ぶらぶらと」


 明確な場所は答えてくれなかった。まあいいけど。

 藤田さんは手をついて俺の隣に腰を降ろす。


「海に来てやる遊びって、何がある?」

「なんで俺に訊くんです?」

「俺も海水浴場での遊楽なんて、わかんないんだ」

「定番ならスイカ割りとか、ビーチバレーだろうけど。みんな各々で過ごしてて、俺と藤田さんの二人でやっても楽しくありませんよ」

「前々から企画を考えときゃ、もっと楽しい海水浴になっただろう」

「今更言っても、仕方ありませんよ藤田さん」


 藤田さんは自身の腕時計を見る。

 午後の四時を過ぎたばかりだ。


「帰るにはまだ早いですね」

「ナンパでもしてみるか?」


 藤田さんが何気なく口にする。

 また、心にもないことを。


「藤田さん、女性とかそんなに興味ないですよね?」

「そうだが、剣志は?」

「俺ですか……」


 正直に言ったら、人並みに興味ある。

 でもナンパをしようという気にはなれない。


「多少は興味ありますけど、普通ですよ。ナンパとかをするほど飢えてないです」

「そうだろうな」


 知っていると言うような返事をしてくる。

 だが何を思い立ったのだろう。そうそう、と話題を変えて、


「剣志、お前はなんで影雪をこの旅行に誘ったんだ?」


 不意をつく質問に、俺は戸惑いしばし間を置いてから答える。


「玲が来れないって言うから、他に誘える友達がいなくてそれで」

「例えばだ、影雪がお前を特別視していたら、どう応える?」

「妙な質問ですね」

「例えばだ。異性同士の友達ならあり得ないことではないだろ」

「冬花が俺をそんな風に見ている想像が浮かびませんけど、まあ嬉しいは嬉しいですよ」

「お人好しで鈍感なお前らしい答えだな」


 苦笑混じりに藤田さんが言った。

 俺ってそんなに鈍感なのか……。

 俺が少し落ち込むと藤田さんは立ち上がり、


「青春と影雪を探しに行くか、男二人で肩を並べてても花がないしな」

「確かに」


 紺之崎さんと冬花が何をしているのか、少し気になる。



 藤田さんと手分けして、紺之崎さんと冬花をビーチのあちこちで探し回って、数十分ほど。

 俺は砂浜の波打ち際に打ち捨てられた軽薄そうな男達を、頻繁に見つける。

 海水に浸り、失神もしくは苦悶している。

 この男達に何が起きたのか、俺はかろうじて意識のある金髪の男に訊いてみた。

「あの」

「……揺れてた」


 揺れてた? ビーチを揺るがすほどの乱闘沙汰が起きたのだろうか?


「それで、ここで何が?」

「…………」

「ええー」


 俺の話しかけた男の人も眠ったように気を失ってしまった。

 周囲が騒がしくなり、一一九と叫ぶ声が聞こえ出した。

 その時ふと男の人が倒れている場所から遠ざかる足跡が、砂浜の上にあった。

 俺はその波打ち際に沿って伸びる足跡を追ってみる。

 早歩きで追っていくと足跡の伸びる先に、遠目にもわかる艶めかしい肢体の女性が立っていた。

 俺からは背中側しか見えないが近づいて、女性の姿の細部がはっきりしてくると逡巡して俺は思わず足を止めた。

 黒いパレオの水着に肩で切り揃えられた髪、加えて非の打ちどころのない艶姿、俺が探していた一人である紺之崎さんだ。

 いきなり足を止めた俺に気が付いたのか、油断のない身のこなしで振り向いた。


「何してるんですか?」

「……剣志君?」

「そうですけど」


 俺が肯定すると、紺之崎さんがほっとしたように目を細めた。


「安心した」

「安心ですか、またなんで?」

「さっきから次々に知らない男が、接近してきてたから。ずっと気を張ってた」


 いわゆるナンパというやつだろう。紺之崎さんの悩殺的なプロポーションを目にすれば、彼女の素性を知らない者は欲情を持って近づくのは当たり前である。

 でもなんで、失神させてしまうほどに痛めつけるのだろう。


「倒れている男の人は全員、紺之崎さんが成敗したんですか?」

「身の危険を感じたから」


 どっちかと言えば、男達の方が危険に晒された気がする。

 紺之崎さんは無表情に言う。


「近接戦闘において、背後をとられるのは一番致命的」

「そうですか……」


 公共のビーチで戦闘術を披露されても、騒ぎになるだけだ。以後は緊急時以外控えてもらいたい。

 救急車のサイレンが、結構近くまで聞こえてきていた。



 藤田は海水浴に同道した美女と美少女を岩場の方まで探しにきていた。

 ゆるやかだが起伏のある岩場を歩き進んで、ビーチからはそれなりに離れたところまで来た。


「影雪はどこに行ったんだ?」


 岩場でないなら、やはりビーチなのだろうか。そう思って踵を返そうとしたが藤田の敏い観察眼は、他より引っ込んだ岩場の前の狭い砂浜に少し前まで人がいたことを明示する痕跡を見出した。

 波沿いの砂浜に誰かしらが描いた、指三本分ほどの大きさで底辺の長い三角形。

 藤田は三角形に近づき、その周りも見てみる。三角形の底辺より下まで波が打ち寄せてきていた。


「宇宙人とチャネリングでもしていたのか?」


 砂浜の用途不明な三角形。藤田は肩をすくめる。


「記号学なんて門外漢だ」


 三角形にはそれ以上執着せず、藤田は岩場の道をビーチに向って引き返した。

 



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