表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
87/100

旅館へ1

 旅館のペアチケット、誰を誘うか迷うべくもない。

 髪型を丸刈りにするほど暇である玲ならば、気兼ねなくはっちゃけられる。

 冬花を誘うには、少しばかり勇気がいる。だって夏の海だぞ、下心のるつぼだもんな。

 そういうわけで宿題の進みが一段落したところで、玲に電話をかける。

 すぐに繋がった。


『もしもし、玲か?』

『え、あ、ああ』


 やけに動揺している。そこまで唐突な電話になってしまったのだろうか?


『二十二日から二十三日、暇か?』

『…………だだ、だめだ。ああ、あいてない』


 震える声で返答してくる。極寒のシベリアじゃあるまいし。


『あいてないか、先約があるのか?』

『…………そそ、そういうこと』


 なんだろうな、玲が答えようとする度に生じる二拍ほどの沈黙は? 通信環境が良くないところにいるのか?


『その先約って、なんだ?』

『…………ええと、あっ』


 途切れた。第三者が強引に切断させたような途切れ方だなぁ。ホラー映画とかで襲われる瞬間みたいなやつ。

 まあ気にしないでおこう。それより玲が来られないとなると、俺がプライベートで誘える友人は冬花だけだ。聞いてみるだけ聞いてみよう。

 冬花に電話をかける。

 二回ほどコール音が響き、繋がる。


『何、剣志?』


 抑揚のない声で電話相手の冬花が言った。

俺は前置きもなく切り出す。


『二十二日から二十三日あいてる?』

『なんで?』

『いや、そのな……』


 いざ電話越しに冬花がいると思うと、誘いの言葉も口にしにくい。


『何よ、用がないなら切るよ?』


 かけてきておいて黙る俺に、業を煮やして冬花が不機嫌な声になる。

 切られると誘える相手がいなくなるので、慌てて要件を言う。


『あのな、旅館に泊まりがけで海に遊び行くんだけど来るか?』


 電話口は異様な形で静まった。

 この間は気まずい。


『ふっ……』


 息を吐いたような声で冬花が沈黙を破る。


『ふっ?』

『ふっ、二人だけ?』

『いいや、俺の知り合いが二名来る』

『信用できる?』

『できる、いろんな意味で』

『い、いろんな意味?』


 俺の妙な返答で、冬花の困惑が電話口から窺えた。

 安心させるため付け足す。


『すごい頼りになるよ』

『わかった、それなら行く』

『おお、来てくれるのか』

『行きたいわけじゃないわよ、誘いに乗ってあげるだけ』

『それでもいいよ。じゃあ集合場所とか時間とか調べて知り合いとも相談して、後で伝えるわ』

『わかった』 

『希望する時間とかあるか?』

『ううん』

『おけっ、じゃあ後でな』

『うん』


 俺は電話を切った。

 


 二日が経った。

 昨日に紺之崎さんと藤田さん二人と連絡を取り合い、集合場所と時間を決めた。

 集合場所である駅前に来てみると、ミニバンに凭れかかるTシャツにチノパンの藤田さんと、後部座席でしゃんと座っている白のカッターシャツとズボンスーツの紺之崎さんがいた。

 藤田さんが気さくに話しかけてくる。


「剣志君、久しぶりだな」

「藤田さん、お久しぶりです」


 俺と軽い挨拶を交わすと、藤田さんはバンを親指で示す。


「助手席に乗ってくれ」

「わかりました」


 俺がバンを回って助手席のドアを開けようとすると、藤田さんが不意に、


「それで剣志君、誰を誘ったんだい?」


 少し気恥ずかしく、俺は曖昧に答える。


「友達です、学校の」

「友達、女の子だろ?」

「……なんで、わかったんですか?」


 驚きの目で藤田さんを見遣る。

 藤田さんは平然と、


「男か女か、二択だろ?」

「確かにそうですけど、なんで女の子を選んだんですか?」

「君がそういう顔をしたからだ」


 そういう顔、どんな顔だろうか? もしかしてにやけてた?

 俺が首をひねっていると、藤田さんが駅の出入り口に顔を向けた。

 俺もそちらを見る。


「いた、剣志。すぐに見つけられてよかった」


 バンに向って歩いてきたオフショルダーのプルオーバーとデニムのショートパンツといういでたちの冬花は、ほっとした表情で頬を綻ばせた。

 藤田さんが冬花に挨拶する。


「おはよう、君が剣志が誘ってきた子だね?」


 冬花は初対面で戸惑いを見せて、ぎこちなく頭を下げる。


「こ、今回は、お誘いいただき、ありがとう、ございます。影雪冬花です」

「俺は藤田、名前は職業上伏せておくよ。影雪君もっと楽にしていいよ、社交界じゃないんだからさ」

「は、はい」


 下げた顔を上げて、冬花は辺りを見回した。


「もう一人は?」

「車内にいるよ。影雪君もほら、後部座席に」


 藤田さんは紳士的にドアを開けてあげた。

 予想外の歓待ぶりに冬花が躊躇を少し見せたが、会釈しながら後部座席に乗り込んだ。

 運転席に藤田さん、その後ろに冬花。助手席の俺の後ろは紺之崎さんの座席位置で、目的地の遊里旅館へと出発した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ