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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
待ち続けた恋心
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冬花の来訪1


 玲の帰りが遅い。

 玲がアイスを買いに行ってから、四十分は経った。


「アイス買うだけでこんなに時間かかるか?」


 かかるわけがない。

 その時、インターホンが鳴らされた。

 玲か? 俺は玄関に向かう。


「はいはい、開けてやるよ」


 面倒ながらに俺がドアを開けると、思いもうけぬ人物が立っていた。


「こ、こんにちは、剣志」


 冬花が直立していた。夏物のワンピースに身を包み、レジ袋と手提げバッグを提げている。

 なんで、冬花が?


「まさか来るとは……」

「買い出しのついでよ、ちょうど通ったから」


 聞いてもいないのに訪問の理由を述べる。

 俺は早速、尋ねる。


「それで持ってきてくれたのか?」

「宿題でしょ」


 手提げバッグから数枚の紙を取り出す。


「はい、感謝しなさいよ」

「おー、サンキュ」


 なんだかんだ冬花は優しい。

 受け取った答案表を確認している間、何故か冬花は帰ろうとせず無言で玄関前に立ち続けている。

 あらかた確認した俺は、冬花に訊く。


「どうしたんだ、冬花。帰らないのか?」


 俺の質問に冬花はむっとする。


「私に帰ってほしいの?」

「上がりたいのか、俺の家に?」

「そ、そういうわけじゃないわよ!」


 顔を少し赤くして否定する。

 じゃあなんで帰らないんだろう? 話すことでもあるならはっきり言ってほしい。

 俺が何も言わないでいると、不意に冬花は半眼で見つめてくる。


「答え貸したけど、あんた丸写しする気じゃないでしょうね?」

「……しないよ」


 見透かされてた。

 溜息を吐いて冬花は言う。


「休み明けにテストあるの知ってる?」


 俺は強い衝撃に打たれた。


「忘れてた」

「でしょうね。だって私のメールも全部無視するくらいだもんね?」

「えっ、メール?」


 初耳だ。


「ちょっと待て、メールって何のことだ?」

「私が何回か送ったでしょ? ほんとに知らないの?」


 俺は頷く。

 ぽかんとして俺を見る。


「三週間くらいずっと何をしてたのよ?」

「えっ、何って……」


 しまった。冬花には異世界のことを明かしていないのだ。どう言い逃れをするべきか?


「どっか行ってたの?」

「ああ、まあ」


 確かに行っていた。異世界に。


「もしかしてリアンちゃんとシャマちゃん?」

「うん、まあ」

「二人の地元に行ってたの?」

「そうそう」


 俺は活路を見出した。冬花自身が推測して結論を出したので、本当の理由を話さなくてすみそうだ。


「二人は、地元に帰ったの?」

「そういうことだ」


 できるなら明日にでも帰ってきてほしいが、短くてもリアンは三週間、シャマにいたっては見通しがないからな。

 冬花は何か深く考えている様子で下を向き、やがて顔を上げる。


「決めた」

「何を?」

「家に上がっていいかな?」

「男の家に簡単に上がっていいものなのか?」

「いいのよ、友達でしょ?」


 友達か。その理屈を出されると凄く断りにくい。冬花本人も気にしてないようだし、まあいいか。


「どうぞ」

「うん、ありがと」


 俺はドアから退いて、道を空けた。

 お邪魔しまーす、と楽しげに冬花が玄関を上がりリビングに入る。


「案外、綺麗ね」

「そうか?」

「いつもリアンちゃんとシャマちゃんに掃除させてたんでしょ?」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて訊いてくる。

 失敬な。


「そんなことないぞ。俺がいつも自分で掃除してる」

「二人が居た時は任せてたでしょ、私わかるよ」


 そう言って冬花は窓枠を指でこすり、俺にその指を見せる。


「ほら、こんなに汚れてる。あの二人が掃除したら、こんなありきたりな埃の残し方しないよ」


 また見透かされた。見栄を張っても冬花にはわかりかっているらしい。


「今回は自分でやったよ」

「ダメよこんな掃除じゃ。私が教えてあげるわ」

「教える、掃除を?」

「そうよ、おかしい?」

「おかしくはないけど、わざわざ」

「いいのよ、私、最近暇してるのよ。友達少ないから」


 友達少ない、か。俺も近頃は異世界のおかげで人との関わり合いが激増したが、現実世界での友達はごく少ない。

 ふっふっ、と冬花は笑って、


「だから剣志は友達なんだからちゃんと私を相手にしてよ」

「おう」


 俺って異性として見られてないのか。俺が意識し過ぎなのか?


「それで宿題の進み具合は?」


 ローテーブルに置かれた宿題の数々を見て、訊いてくる。

 俺は素直に肩をすくめる。


「全然進まん。一か月近く前のことなんて覚えてないよ」

「溜め込んだ剣志が悪い。自業自得ってやつね」


 楽し気に笑う。


「でも答え丸写しじゃ、テスト赤点よ?」

「それは回避したい」

「私が教えてあげるよ、赤点回避のために」

「頼む」

「じゃあ座って」


 ということで俺は宿題の前に座った。

 冬花は俺のはす向かいに座り、肘をついて身を乗り出す。


「どこまでやったの?」

「できるところだけ」

「ちょっと見せて」


 俺が止める余地もなく、冬花は宿題の冊子を掴んで広げる。

 冊子に目を走らせると、呆れたような目で俺を見る。


「ほとんどやってないじゃない。ほんとに問題わかんないの?」

「残念にもな」


 自分でも驚いてるよ。こんなにも忘れっぽいとは。

 冬花は冊子の一ページ目の問題に指を置く。


「じゃあこの問題から、教えるわ」

「おう」


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