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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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優秀な殺戮者

 計画の最終段階に取り掛かったバスローブの男は、当分籠っていた地下の研究室で天井から突然ののし上がるような轟音と強い揺れに身を固くした。


「なんだ、地震か?」


 轟音と揺れがおさまり大雑把に推測する。

 室内の設置器具や設備に点検のため目を向ける。どれも損傷は見当たらない。

 バスローブの男はひとまず安堵した。


「う、うんん、ここは?」


 唸り声とともに骸の剣士の魂を持つ者、歴代No2剣士と一緒に居た青年が目を覚ました。

 拘束衣で縛られ横たえている青年にバスローブの男が近寄る。


「起きたか、呪い持ち」

「あなたは? ここは?」


 青年は状況把握が依然できておらず、無知な視線で辺りを見回す。


「君に危害を加えるつもりはないが、君の持つ呪いである骸の剣士の魂は計画の重要なパーツだ。少し精神の方に異常が出るかも知れんが我慢してくれ」

「拘束を解いてください」

「それは無理な要求だ。計画通りなら君が目覚めることもなく魂を抜き出せたんだ、さっきの地震のせいで骸の剣士そのものが蘇ってしまう恐れが出てきた」

「早く解いてくれ! あの人を探してる途中なんだ」

「……あの人とは、歴代二位の剣士のことか?」


 青年の目が驚きに見開かれる。


「なんであなたが、あの人を知ってるんだ」

「君を連れ出すためにずっと部下が張り込みしていたからね。すごい遠い場所から」

「なんで、そんなことを」

「君の呪いが計画に必要だからだ」

「計画って、なんですか」

「蘇生計画だよ、大切な大切な」

「なにを蘇生するんですか」


 バスローブの男が尋ねる青年を鋭くねめつける。


「君に話せるのはここまでだ、時間に猶予もないしな」


 男はバスローブをはためかせ、台の上の人が一人入りそうな水槽の黒く濁った液体から両手で何かを抱え上げる。

 青年は唖然とする。

 男が抱え上げた物それは、原形をほとんど留めた女性の蝋状態の死体であった。



 ナレク達一行が都市伝説となっている街の所在地に辿り着いた時には、街の崩壊が済んだ後だった。レンガの瓦礫が遥かにまで敷き詰っている。街路そのものの石畳など見えようはずもない。

 ナレクはツンとする悪臭に鼻を手で押さえた。


「臭いが残っているということは、崩壊からそう時間は経ってないのか?」

「そうだな、血の匂いもするからな」


 バルキュスが鼻をひくつかせながら足場の悪い瓦礫の絨毯へ踏み込んでいき言った。


「ここの辺だな、血の匂いが強い」

「瓦礫の下か?」


 ナレクの問いにバルキュスは頷く。


「みたいだ、だが瓦礫を退かすのは難しそう」

「でも誰なんでしょうか?」


 リアンが新しく疑問を述べる。


「この街の崩壊から時間が経っていないなら、誰が崩壊させたんでしょうか?」

「大魔法を使える魔力と使いこなせる腕を持つ人間の仕業だろうな」


 隣のブルファがリアンの疑問の一端を答えた。

 瓦礫の上をしゃがんだ藤田が意見を立てる。


「とりあえず探索してみた方がよさそうだ」


 その意見に皆が同意した瞬間、街の中央に位置する辺りから二つの人影が瓦礫の下から現れる。

 バルキュスは二つの人影から感じ取った絶大な魔力に疑いを持ち、脇目も振らず人影に近づいていった。

 しかし急に立ち止まる。


「お前か」


 人影の一方を特定したバルキュスは低く押し殺した声で言った。

 人影の方もバルキュスに気付いて振り向く。たちまち感情の量れない薄ら笑いになる。


「農村で会ったおばさんじゃないですかー、ご無沙汰してますぅ」

「お前がマリリンだな」

「そうだけど、いつ名前覚えたの?」


 しれっと認め問い返す。

 マリリンの横に立つ大柄で長身の寡黙そうな男が口を開いた。


「隊長、そこの方は以前殺し損ねたのですか?」

「違うわよ、私は確実に殺したよ」

「ならなぜ、そこに立っていられるのですか?」

「知らないよ、けど楽しみが増えたと思えばいいんじゃない?」

「……お察しできませんね」


 解しかねて寡黙そうな男は一歩後ろへ下がる。

 ユリリンがこちらに顔を戻したと同時に、バルキュスは自身の親指の腹に歯で細く傷をつける。傷口から鮮血が滲み出る。

 女同士で静かに睨みあう。

 そこへナレク達が駆けつけた。


「バルキュス誰を見つけたんだ……うん? 貴様が例の殺し屋か」


 ナレクもユリリンに気が付き、素性を問う。

 ユリリンはピースサインを右目にかざす。


「例の殺し屋だよユリリンだよー、よろしくねー」


 バルキュス一人と対峙していた時の殺伐さとは裏腹な快活な挨拶を口にする。

 ナレク達一行はそれがものすごく鼻についた。


「それで君たちは私に何か用でもあるの?」

「貴様には相当腹が立っている。下劣な殺戮者め」


 ナレクが一行の心情を代弁して言った。

 対しユリリンは嫌な笑顔を崩さず言葉を返す。


「下劣なんかじゃないよ、私は優秀な殺し屋だよ。ずるい手は使ってないからね」

「本気で言っているのか?」

「うん」


 無邪気っぽく肯定したユリリンに、ナレクは彼女の孕む残虐性に僅かな恐怖心を覚えた。

 ブルファが苛立たしげにユリリンを見据える。


「お前はここで死ね、瓦礫で墓石造ってやるからよ」

「それはできないなぁ、だってまだ死にたくないもん」


 その台詞にいきり立った藤田が、スーツの懐から目に見えぬ速さで拳銃を抜き出し早打ちする。

 誰も目で追うのもかなわずユリリンの左胸から血が噴き出す。

 ユリリン自身も何が起きたかわからず、数瞬後に胸の痛みに顔を歪めた。

 大柄な男がユリリンの前に立ち次弾に備えての盾になった。

 藤田は急いで立ち塞がった大柄な男の額に照準を合わせる。

 だが銃弾は前触れもなく虚空に消えた。

 藤田は愕然とする。


「お前、何をした?」

「…………」


 男は答えず、左胸を押えてうずくまるユリリンに振り向く。


「行きましょう」

「痛い、よ」

「…………」


 男が背中を向けたが好奇、と藤田はもう一発銃弾を放った。

 しかしこれもまた男には届かず虚空で消えた。

 男は涙目のユリリンの前襟を掴み無理矢理立たせて瓦礫の地面を蹴った。銃弾同様二人の身体は虚空に消えた。

 一行はしばし目を瞠って虚空を見つめた。

 驚きからいち早く立ち直ったナレクは今の現象におおよその推測を立てた。


「魔法であることには違いないだろう。さりとて正当な魔法ではなさそうだがな」


 そこで言葉を切り、皆に向く。


「探索を再開しよう」









































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