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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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連結した事実

 夜明けの数時間前、シャムは清潔なベッドから起き出した。

 ナイトテーブルの淡い明かりを点け、自身の左手の甲を撫でる。魔力の流れに確かな違和感を覚えた。

 __刻印の辺りが変に痛い。追っ手が来ているわけだ。ここに居ては他の奴に危険が及ぶ、今すぐ刻印に流れる魔力を絶たなければ……くそっ。

 彼は痛々しい方法しか考えつかず唇を噛みしめる。その方法とは手首から切断し身体から切り離すか、左腕の不自由を代償に麻痺させ魔力の流れを断ち切るかの二択だった。

 そして彼は後者を選んだ。

 __ここに居ては声が漏れて誰かを起こしてしまいかねないな。

 やっと東の空が白んできた頃、敷布団上に火炎魔法の焦げで言葉を残し静かに外に出て皆の場所から離れていった。

 苦悶する声が聞こえないところまで歩いて路地裏に入り、念のため周囲を見回してから右手に物が弾けるような音を立てる電気を流して左手首を掴んだ。


「ぐうっ」


 激痛に歪ませた顔に皴をが寄る。歯を食いしばり唸りながら耐えた。

 着実に左腕の神経が薄まっていく。


「あがぁ」


 右手を放して壁についた。電気を次第に弱めて最後には止める。

 左腕の感覚がまるで消え失せていた。


「何とか成功か、ふぅ」


 万一感電で気絶、運が悪ければ感電死もありえた綱渡りをかろうじて渡りきった彼の口から自然と安堵の息が漏れる。


「これで追っ手が僕の行方を見失っただろう、あとはこっちから乗り込むだけだ」


 シャムの瞳に決死の戦意が宿る。

 __シャマにシャミ、幸せに生きてくれ。



 俺の目覚めは非常に悪かった。


「ああっ……夢か」


 惨憺から逃げるように勢いよく身体を起こして、それが夢だと気づく。

 誰かの墓石とその前で手を合わせるシャマとシャミ、ひどく冷たい夢だった。


「なんだ、剣志か。侵入者かと思ったぞ」


 入り口に最も近いベッドの上で、藤田さんが拳銃を両手に立て膝で構えていた。


「すいません、起こしちゃいましたね」

「夢か、と漏らしたが悪い夢でも見たのか?」


 心配して聞いてくれる。


「悪い夢といっても、怖いというより不吉な夢でした」

「不吉か、正夢にならなければいいが」

「そうですね」


 部屋にはすっかり日が入り、朝が来ていた。

 俺と藤田さんの話し声に目が覚めたのか、向かいのマークスもゆっくり身を起こした。


「ううん、おはよう。早いね二人とも」

「いや、俺達も今起きたばかりだ」


 藤田さんが服の乱れを直しながら、マークスに応える。

 マークスは部屋の中を見回し、不意を打たれた顔になる。


「あれ?」

「どうしたんだ、マークス」

「シャムさんは?」


 マークスの言葉に、俺と藤田さんもシャムさんの寝ているベッドに視線を移す。

 なぜか、シャムさんの姿がなかった。


「トイレかな?」

「どうだろうな」


 マークスの当たり前の推測に藤田さんが疑問を投げかけた。


「違うんですか、藤田さん?」

「布団が綺麗に直されている。トイレではないだろう」

「言われてみればそうだね、普通トイレに行くだけで布団は直さないね」


 朝から謎解きみたいになっている。


「朝の空気でも吸ってるんじゃないですか?」

「僕、見てくるよ」


 そう言ってマークスは部屋を出て行った。

 すぐに戻ってきて首を横に振る。


「外にもいない。どこにいるんだろ」

「まさか……」


 藤田さんが突然の切迫した声を出して舌打ちする。


「くそ、逃亡された」

「ええと、逃亡ってシャムさんがですか?」

「他に何がある」

「ちょっと来て」


 押し殺した低い声で臍を噛む藤田さんに、マークスがシャムさんの使っていたベッドを見下ろし手招きする。

 苛立ちで眉間に皴を刻んでいるも、そのベッドに歩み寄る。

 途端に皴が深く彫られた。


「何故わざわざ、こんな書置きを」

「逃亡じゃないかも」


 俺もそのベットの上を見て思わず目を見開いた。

 妹を頼んだ、と黒く焦がして書かれていた。



 リアン、シャマ、シャミちゃん、紺之崎さんの女性陣も別室から起き出してきて、俺達男性陣は焦げで書かれた文字とシャムさんがいないことを話した。

 紺之崎さんが無感情に口を開く。


「夜逃げ」


 リアンが当然のことに気付く。


「なんでこんな言葉を残していったんでしょうか?」

「おちょくってきてるんだと思う」

「ええ、そ、そうなんですか!」


 疑いもしないリアンに紺之崎さんは頷く。

 その傍でシャマが言葉を失っていた。そんな姉をシャミちゃんは隣で不思議そうに見上げている。


「お姉ちゃん、なんでそんなに驚いてるの?」

「シャミ……そうだよねまだ小さかったもんね、兄さんの事覚えてないよね」

「兄さん? この文字を書いた人が?」


 会話を聞いて知ったが、シャミちゃんはシャムさんが自身の兄ということを覚えていないらしい。

 しかしそんな悲しい事実でもシャマは、無理に笑顔を浮かべた。


「ごめんシャミ、お姉ちゃんも知らない」

「お姉ちゃん、嘘ついた」

「ごめんごめん」


 頬を膨らませ立腹した妹を、シャマは気安く宥めた。

 朝食の支度のために部屋を離れていたマークスが、半開きのドアから顔を出す。


「とりあえず朝ごはん食べようよ、寝起きじゃ頭も完全に働かないしさ」


 その場の全員が頷いた。



 全員が朝食を食べ終わってもなお、シャムさんの書置きについての解明は進展しなかった。

 場の空気に居心地が悪くなってきた頃、入るぞ、と入り口から不意に気軽な男性の声が聞こえる。

 マークスが急いで出迎える。


「ブルファじゃないか、どうしたの。ああ、ナレクさんも」

「シャミちゃんの様子を見に来たんだが、何故知らない人がそんなにいる」

「ああ、この人たちは」


 知らない人の二人、藤田さんと紺之崎さんを手短に紹介してマークスは尋ね返す。


「ワコーは? 一緒じゃないのかい」

「田舎の美人さんのもとにお世話になっている。ワコーに用があったのか?」

「そういうわけじゃないけど、ワコーがいなくてナレクさんがいるからさ。なんでかな、と思って」

「なに調査をしていたんだ。噂になっている都市伝説の正否を確かめたくて、そうだよなナレク」

「そういうことだ」


 都市伝説と聞いてか、三人の会話に紺之崎さんがふらふらと近寄っていく。


「都市伝説、聞かせて」


 マークスとドアの間からひょっこり顔を出している。

 突如脇から顔を出されてひいっ、と身をマークスが怯えて身を引く。ブルファも目を瞬いて戸惑っている。ナレクさんだけは落ち着いていた。


「都市伝説、聞きたい」


 マークスとブルファの当惑に気付いているのかいないのか、紺之崎さんは真顔で頼んだ。

 それにナレクが応じた。


「いいだろう聞かせよう、しかし情報漏れを防ぐため中に入れてほしい」



 ナレクさんが話した都市伝説の内容は、すごく珍奇なものだった。

 ナバス郊外の山の麓に十七年前、存在したと言われている街の有無について、だそうだ。

 俺が現実世界で聞いた都市伝説でも、海底都市や南極の古代都市など紀元前までに遡るほどの謎の多い都市伝説はよくあるが、十七年前と存在していた時期が明白なものは聞いたことがない。

 ナレクさんの話はまだつづく。


「真実を知るため俺とブルファは信用のできる資料で、その街を探したんだ。そうすると十七年前の地図だけにその街が郊外の山の麓の位置に載っていた、ということだ」

「十七年前だけ、ですか」

「他の年の地図には載っていなかった。俺はその真相を解き明かしたい」


 熱意の籠った視線をこの場の皆に向ける。

 ブルファが強く頷いて、


「頼んだのは俺なのにありがとう、ナレク」

「礼には及ばない、ブルファ。謎を謎のままでほっときたくないだけだ」


 クレバーな身振りで言ったナレクさんに俺が男目線で琴線に触れていると、藤田さんが挙手して尋ねる。


「ナレク、だったか。その謎が解明して何がもたらされるんだ?」


 それを聞くのはよろしくないような……。

 不躾な質問にナレクさんは嫌な顔せず答える。


「そんなもの漠然としている。しかしだ、謎を解明して新たな知見や真実が得られるなら解く甲斐は存分にあると俺は思うぞ」

「参ったな、返す言葉もない」

「ナレク、グッチョブ」


 藤田さんが参った顔をしているの見て、紺之崎さんが嫌らしくナレクさんを称賛する。

 いつの間にか、リアンがおずおず手を挙げている。

 ナレクさんがそれに気づき、リアンを見た。


「どうした、リアン。何か聞きたいことがあるのか?」


 ビクッ、と肩を震わせて次には肩をすくませてリアンは弱い声で言った。


「あ、あの謎を解明するのは後にしてシャムさんを探しちゃダメですか?」

「うん、誰だシャムさんとは」


 聞き覚えなく眉を寄せたナレクさんに、シャムさんのことを藤田さんが説明する。

 ナレクさんは何か引っかかるのか、深く考え込んでブルファに話を向ける。


「組織か、そういえばブルファも同様に組織のことを口にした少年に会ったそうだが、どう見るブルファ?」

「同じでない方が不思議だ。ユリリン、そいつの名が出ているんだからな」


 ユリリン、確かに二人はそう言った。シャムさんの話だと殺しのスペシャリストだっけ?

 俺はナレクさんとブルファの二人に尋ねる。


「ユリリンってどんな人なんですか?」


 すまなそうにブルファが答える。


「あの少年から聞いた限りでは、人殺しバカだ。どこかの村の何百人を一人で惨殺したそうだ」


 耳にしたくない内容だった。人殺しとか、そんな言葉聞きたくない。


「外見的な特徴は?」


 藤田さんが継いで問う。


「黄緑の髪、それぐらしかわからない」

「そうか」

「ひっ」


 か細く短い悲鳴が藤田さんの声に紛れ、やがて空気を揺らすまでに膨れ上がった。


「ひえええええええええええええええん」

「ど、どうしたのシャミ?」


 唐突に泣き叫び出したシャミちゃんに、隣のシャマは訳が分からず困惑する。

 マークスがシャミちゃんに駆け寄って、精一杯落ち着かせようとしている。


「シャミちゃん、どうしたんだい? 嫌な話だった?」


 シャミちゃんは小さく首を横に振った。


「違う、黄緑の髪って聞いて、ひくっ、怖い人だから村のみんなを、殺した人だから……」

「それは本当か、シャミちゃん!」


 ナレクがシャミちゃんの肩に手を置いて尋ねようとするが、マークスがその手を力強く払った。


「シャミちゃんが悲しんで泣いてるのに、無理に聞き出す気ですか」

「……すまない」


 睨みつけられナレクさんはすごすご引き下がった。


「許せないな、ユリリン」


 藤田さんが決然と呟く。


「私も、可愛い子を泣かせるユリリンを葬りたい」


 紺野崎さんも毅然と拳を握る。


「そうだな、同感だ」


 ブルファまでも冷静な怒りに燃えている。

 場の急転についていけず、俺は戸惑い焦った。


















































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