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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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嵐の前の静けさ

 東の空が白く明るみだした明け方、ランタンの灯も消えて部屋の中は薄い闇に変わった。

 気絶したまま少年は目を覚まさない。


「どうしたもんか」


 バルキュスは揺らしてランタンの具合を確かめながら言った。

 疲れて壁にもたれていたブルファが聞き返す。


「どうしたもんか、って何がですか?」

「そいつだよ」


 バルキュスは部屋の隅でうつ伏せに気を失っている少年の方を向く。


「部屋に放っておくわけにはいかないからな。子ども達の目に悪い」

「なら、外に運びだしましょうか?」

「そうだな、頼む」


 ブルファは少年を肩で担ぎ、入口の柱に縛り付けた。


「私はそろそろ朝食の支度だ」

「もうそんな時間ですか。一睡もしてないや」

「すまなかったな、眠くないか?」


 気づかわしげにブルファを見つめる。

 ブルファは気丈な微笑を返す。


「大丈夫ですよ、昔は野営で一晩起きてるのがしょっちゅうでしたから」

「そうか、ワコーなんかよりまったく真面目だな」


 軽口を叩いてバルキュスは台所に就く。

 昨晩の材料の残りで吟味してから、朝食づくりを始めた。

 包丁で刻む音や鍋で煮る音だけが響く。


「ブルファ」


 唐突に声をかける。


「なんですか」

「いつまでここに滞在するつもりなんだ」

「ワコーはどうか知らないけど、俺は今日の朝にはここを出て昼にはナバスに帰ります」

「もっと居てもらっても一向に構わんぞ。むしろワコーが帰るべきだ、あいつは金を稼ぐことしかできない役立たずだからな」

「はは、如何せん調べごとがありまして」


 と、しばらくして寝室の戸が開きワコーが大きくあくびをしながら出てくる。

 起き抜けのしょぼしょぼした目をこすって、何の気もなく尋ねる。


「おはよす、二人で何話してたんだ?」

「おはようワコー。俺が今日の朝にはここを出てくことを、伝えておいただけだよ」

「ああ、そういう……え、今日ここ出てくだと?」


 聞かされていなかった友人の急遽な予定変更に、ワコーは一気に覚醒する。

 ブルファはすまなさそうな笑みを返す。


「街で調べたいことができたからさ」

「まだ一泊しかしてないぞ」

「疑念が頭の中から離れなくて、ごめん」

「まぁ、引き留めはしないけどな。連れてこさせたの俺だし」


 訳を聞きすんなりとワコーが受け入れた。煮込んでいる鍋から食欲をそそらせる良い匂いが漂ってくる。

 味見用の小皿に鍋の中身を移し、自身の舌で確かめる。そしてブルファとワコーを振り向く。


「ブルファにワコー、昨晩と同じように皿を並べといてくれ。私は子どもたちを起こしてくる」

「わかりました」

「えー、起きたばっかだぜ俺」


 ブルファは快く返事して皿をテーブルに並べだす。ワコーも口では不満を垂れながらも友人を手伝う。

 バルキュスに起こされた子どもたちが、段々と食卓に集まってくる。

 子どもたちが全員揃ったところで、ブルファとワコーも席に座る。

 最後に座ったバルキュスの合図で賑やかな朝食の時間が訪れた。



 朝食の後、すぐにブルファは持ってきた私物を確認して帰り支度を済ました。

 昨日知り合った少女達が、わらわら周りに集まる。


「ブルファさん、帰っちゃうの?」

「行かないでぇ」

「まだいろいろ喋りたいことがあるの」

 不安げに見上げてくる少女達に、ブルファは例によって微笑を返す。


「またすぐに来るよ」

「いつになるの?」

「え、うーん」


 次に来る日を尋ねられ、さしものブルファも言葉を濁す。

 やんちゃな男子達と手加減でくんずほぐれつ相手をしていたワコーが、助け船を出す。


「ブルファは忙しんだ、行かしてあげろ」

「それなら暇なワコーさんが代わればいいじゃん」


 少女の辛辣な提案に、ワコーは胸部を串刺しにされた気分になる。

 その時、隙を衝かれて上から組み伏される。三のカウントでワコーを組み伏した男子が、たまさかの勝利に純粋に叫んだ。

 男子が退いた後も仰向けになったまま、ワコーは友人を引き留める少女達に言う。


「一緒に居たいのはわかるが困らせたらダメだと思うぞ、というか俺は暇人ではないからな」


 愁眉で少女達は顔を見合わせる。

 食器洗いにを終えたところのバルキュスも、ワコーに同調する。


「こいつの言う通りだ。剣士の仕事は大変なんだ、行かしてあげるんだ」


 顔は咎めるようにしかし声は優しく、少女達を諭す。

 少女達は残念そうにするが、小さく頷いた。


「バルキュスさんが言うなら……仕方ないよね」

「そうだね、剣士だもんね忙しいよね」

「我が儘だった私」


 少女達の沈んだ面差しに、言葉もなしに帰るのは紳士じゃないとブルファは彼女らの前に歩み寄った。そして一人ずつそれぞれの頭を撫でてやり言う。


「次来るときはもっと長く居るから、ごめんね今回は帰らせて」

「「「はい」」」


 魅された少女達はうっとりと返事をした。

 返事を聞き、それじゃとバルキュスとワコーにも目配せで告げてブルファは出て行った。

 閉まったドアをいつまでも見つめて、少女達が揃って呟く。


「「「もう髪の毛洗わない」」」

「洗いなさい」


 当然バルキュスは叱責を飛ばした。


























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