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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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少年の自白

 自白せずだんまりを決め込んだ少年をバルキュスとブルファは家の中に連行した。

 少年は椅子に縛り付けられ、二人から拷問を受けている。視線を真向かいのバルキュスから外しあさっての方をぼんやり眺めて、その脇にブルファが少年に監視の目を注いでいる。

 ランタンの光の中、バルキュスが尋問する。


「何故ブルファを襲った?」


 あくまで穏やかな口調のバルキュスに、少年は口元だけの冷笑を返す。


「答えてくれ、私は人に無為な傷を負わせたくない」


 そう言った彼女の眉が哀情を忍ばせて垂れ下がった。

 少年は歯牙にもかけず黙っている。


「質問を変える。君は」


 突然少年の目に憤怒が浮かび、流し目に睥睨する。


「気安く君などと呼ぶな、礼節をわきまえろ」

「なんだと」

「よせブルファ」


 少年の傲岸な態度にブルファが彼の襟首を掴んだが、すかさずバルキュスが声をあげて制する。

 ブルファは掴んでいた手を放した。

 少年は苛立った風もなく、あさっての方に視線を戻す。


「黄緑の髪の女を知っているか?」

「黄緑の髪の女か、そいつはユリリン。アイツはいけ好かない」


 冷ややかで見下した姿勢だった少年が、バルキュスに問われた人殺しを厭わない酔狂な少女の名を憤懣を込めて明かした。

 バルキュスの瞳が驚愕に大きく見開かれる。


「そんなバカっぽい名前だったのか」

「確かにバカだ、人殺しバカだ」


 重々しく少年は吐き捨てた。言い巻いて続ける。


「まとめて村民の百人ぐらいを幻法の幻に誘って惨殺だからね、人殺しを生業と快楽にして生きてるクズだ」

「その女と仲間ではないのか?」


 少年が黄緑の髪の少女が同じグループだと思い込んでいたバルキュスは、不思議にも彼女を愉快に侮辱するのでつい聞き出さずにはいられなかった。

 ふっ、と少年は鼻を鳴らす。


「同じ組織には入ってましたけど、やり方が気に食わない。だから仲間となんて思ってないよ」

「そうなのか、それで気に食わないやり方って?」

「殺した後処理をしないんだ、それで処理の肩代わりに渋々出向いてきたんだよ」


 長々と溜まっていた少女だけでなく組織までもの不満を、立て板に水で吐き出し始めた。横顔しか向けていなかってたのが愚痴る時には真っすぐバルキュスに向いていた。

 労わるように柔らかくバルキュスが合いの手を入れる。


「大変だったな」

「ええ、ほんとに」

「ちょっと聞いていいか?」


 ブルファがテーブルをこつこつ叩いて、お茶の間みたいなのんびりな雰囲気に割り込んだ。少年に真面目な物腰で所望する。


「その組織について知っていること、なんでもいい教えてくれ」


 ブルファの申し出に少年は眉を怪訝にひそめる。


「裏切れと?」

「どう解釈するかは自由だ」


 少年は怪訝さを削いで口の端を吊り上げる。


「いいよ、教える」

「いいのか本当に?」

「ええ、あいつらのことなんてどうでもいいからさ」


 じゃあまず、とブルファが選んで質問する。


「組織の規模は? 構成人数とか、地域分布とか」

「ええと、知ってるかぎりだと……」


 そこで少年の声が途切れ、眠ってしまったようにぐったりと力が抜けた。

 すぐ少年の異変に気付いたバルキュスが、椅子から素早く立ち上がった。


「どうした!」


 少年は答えず、だらりと椅子から床へ横に倒れた。

 そして小さい声でぶつぶつ呟く。


「お、おま……な……でひみ……さんと……」


 次第に小さかった呟きが大きくなり、拘束された身体で激しく暴れ出した。

「やめろやめろやめろやめろやめろやめろ……」

「幻法か!」


 ブルファが鋭く叫ぶ。

 バルキュスが片膝立ちに屈んで異常な状態の少年の肩を揺すって呼びかける。


「どうしたんだ、何か答えろ」

「ん、ああっ……やめ、ろ」


 声が途切れ、俄然少年の動きが力尽きたように止まった。

 バルキュスは少年の手首を持ち上げ、打つ脈の有無を確かめる。


「脈は正常だな、とすれば発作ではないのか。そうなるとやはりさっきのは」


 言いかけて歯噛みし言葉を切る。

 ブルファが息をついて少年を見下ろし受け継ぐ。


「幻法か、くそっ」


 平静でいられず、汚く毒づいていた。



「もうーダメ―」


 肩で息をしながら、黄緑の髪の少女ユリリンは間延びした弱音を吐いた。

 ここは廃退した街の中心に建つ黒いビルの最深部、計画のための研究室だ。

 組織の創設者であるバスローブの若い男が、感心したように繰り返し頷く。


「ユリリン、君の幻法の影響圏は素晴らしく広いな」

「そうでしょー」


 ユリリンは誇らしげに笑顔になる、がすぐに大儀そうに口を開けて言う。


「喉すっごい乾いたよー、水ちょうだい」

「ご苦労だった、魔力の完全回復まで休んでいいぞ」


 そう労わりながらバスローブの若い男は灰色の滓の不純物が沈殿した水を入れた、ガラスのコップをユリリンに差し出す。

 彼女は手に取ってすぐ、顔をしかめた。


「なにこれ、ドブ水? 変なものがこぞんでる」

「当地に巡っている水道管の水だ、ちなみに上水だ」

「信じらんない、この街汚すぎ」

「当然だ、数年誰も使っていなかったからな」


 訳知り顔で男は言う。

 うー、と環境のあまりの汚さに辟易してユリリンはうなった。


「だから他の街から食糧を補給してるんだ」

「疲れたからお風呂入ってきていい?」

「シャワーは使うなよ」

「わかってるよー、それじゃあ」


 疲れた気色を一切表に出さず、彼女はいそいそバスルームのある最上階へエレベーターで上がっていった。

 ユリリンの姿が見えなくなり男はバスローブの内から幾数枚の書類を取り出して、たびたびめくって読み進めていく。

 最後の予測結果まで読み終わり、書類をバスローブの内に仕舞い戻した。


「あとは骸の剣士の封印を解くだけだな。計画は完遂だ」
























































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