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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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元殺し屋とやすらかな生活

 バルキュスは深い眠りから徐々に意識が覚醒していくのに任せて、少しずつ目を開ける。

 部屋中に夜の帳が降りていた。


「寝ちゃてたのか、私。ぐっすり眠れた時の気持ちよさなんて、当分忘れてたよ」


 久しい感覚に笑顔をこぼして、バルキュスは辺りを見回す。

 テーブルの右端にランタンが弱く灯火を発している。それを手に持ち立ち上がる。


「みんなもう、布団に入ったかな」

「心配無用だぜ、寝かしてきた」


 右手の子供たちの寝室から出てきたワコーが、ぐったりした風情で報告する。

 そうか、バルキュスは頷いた。


「もう一方のイケメンは?」

「ああー、ブルファなら外で体動かしてる。夜にやるのがさつぱりするんだと」


 暗がりの中ランプで照らしながら、入り口を少し開けてバルキュスは外を窺う。

 彼女は思わず目を疑った。

 爽やかに汗をかいて隙のない立ち回りで棒状の武器を扱っているが、その棒状の武器の先が、ハート型でピンクに光っている。


「ワコー、あれはなんだ?」

「あれって?」

「あの武器、やけに可愛らしいぞ」

「ブルファの武器のことすか。見た目あんなんだけど、すごいんだぜ」

「どこをどう見て?」

「ほら、暗闇でも先端が見える。しかも軽い」

「それ屁理屈」

「あっあと、光の色が変わる」

「No.3って聞いてたから、なんか幻滅」


 あからさまに呆れた声を出す。

 得意そうだったワコーもため息を吐いた。


「あいつ、原因不明の鉄アレルギーなんだぜ。それで剣はおろか鎧も着られない」

「……そんなの不利じゃない」

「それでもあいつは戦えなくなった友人のために、剣士であり続けたいんだと」

「戦えなくなったって、その友人に何があったんだ?」

「俺も知らないぜ、そこまでは。おっ、終わったみたいたぜ」


 額を拭いながら棒状の武器の光を消して入り口に戻ってきたブルファは、バルキュスに尋ねる。


「バルキュスさん、この村の周辺ってどうなってます?」


 唐突な質問に、バルキュスは片眉を上げる。


「この村の周辺? なぜそんなことを」

「うっすらなんですけど、消滅した街の都市伝説を聞いたことがありまして。ちょっと気になったんです」


 恥ずかしげに笑ってブルファは北の低い山脈を指差す。

 バルキュスは人差し指でトントン顎を叩いて、思い出している顔になる。次第に眉間の皺が深くなっていき、首を傾けた。


「思い出せん、昔地図で確認した覚えはあるが」

「おーおー、ついに物忘れが……ぐふっ」


 物忘れが始まったかぁー、と冷やかそうとしたワコーの鳩尾を素早く拳でくい込ませたバルキュスは、部屋に戻っていく。


「確か床下の収納に地図があったような」


 キッチンの床板を一枚をめくるようにして開けて、四角の穴に片手を入れてまさぐり出した。

 外見が他と異にする床板がなく、予想外の床下収納の存在にワコーとバルキュスは驚きを隠せない。


「そんなとこに収納あったんですね」

「ううう腹いてぇよ。ブルファ、俺も初めて知ったぜ」


 鳩尾を擦りながらバルキュスとの付き合いの長いワコーさえも、初めての事実に同じく驚きを隠せない。

 そんな二人の反応も気に留めず、バルキュスは様々な保管物に埋もれていた地図を探しだした。


「真底にあったぞ、ほら見てみろ」


 バルキュスが四つ折から広げてランタンで照らして床に敷いた地図の全体に、ブルファはざっと目を通した。

 ワコーも脇から覗き見る。


「どうだ?」

「ここの村以外ほとんど森で、ポツポツ集落があるくらいだ。バルキュスさんこの地図いつのですか?」

「えーと、私がここに来る前に買ったやつだから七年ぐらい前じゃないか」


 聞いたブルファの顔が途端に険しくなる。


「都市伝説で聞いた話だと、確か十七年前だったかな? ここの山脈、この窓からも見える山脈です。そこを越えた麓に昔は街があったっていう、眉唾なことです」


 ブルファが窓越しに低く夜空を指差す。バルキュスはその山脈が見えるのかほうほうと頷いていたが、ワコーは目を凝らしてもまるで形すら見えない。


「何も見えないぜ、ブルファ」

「そんなことはないと思うけど」

「私は見えてるぞ」

「見えてないの俺だけかよ……お前らの視力はフクロウ並みか」


 ワコーは嘆かわしく突っ込む。

 ほんとにそれだけの話なんです。わざわざ地図出してもらってすみません、とブルファはバルキュスに微笑で詫びた。

 まぁいいけど、とバルキュスも深く興味を示さなかった。


「それより、だな」


 突然、言いづらそうに彼女は話し出した。


「何ですか?」

「なんだ?」

「ありがとう、私が寝てた間子どもたちの世話してくれて」


 急にしおらしく言ってきたバルキュスに、ブルファとワコーは顔を見合わせる。


「迷惑かけたな」

「いえいえ、こちらも楽しかったですよ。十数人分の食事を作るの大変でしたけど、喜んでくれたので良かったですよ」

「けっ、とんだ迷惑だったぜ。小さいことで喧嘩するわー、ブルファ周りばっかに女の子は集まるわー、ズバズバ悪口浴びせてくるわー、うんざりだ」


 ワコーがされた迷惑を列挙するたび、バルキュスの表情筋が怒りに強張っていく。

 言い終えて両手を広げて肩をすくめたワコーに、重く響く声で告げる。


「お前はあの子達の行為を迷惑だと思ったのか、その腐った心を改心しないとな」

「ばばば、バルキュスさん! 顔怖いっす」


 拳を強く握り込んだバルキュスの剣幕に、手遅れながらもワコーはたじろいで宥めようとする。

 再現リプレイのように、ワコーの鳩尾にバルキュスの拳がめり込んだ。

 ワコーは鳩尾を押さえて床に横ばいにくずおれ、激しくむせんだ。

 またかー、というように眺めていたブルファが尋ねる。


「バルキュスさん、さっきより今の方が強くやりましたよね?」

「何のことかな。あーあ、ワコーの奴こんなとこで寝ちゃって風邪引いても知らないよ私は」

「はは、そうです……ね」


 ただブルファは表情に硬く苦笑を浮かべた。


















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