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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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護衛人と異世界2

 俺は口を大きくして欠伸をした。ちょっと眠くなってきた。


「ふぁあ、私もう眠たいです」


 目の端に涙を浮かばせ、リアンも眠たそうに欠伸を漏らす。


「布団もないのか、この宿」


 悪態を発して布団でも探そうかと俺が立ち上がった拍子に、鈍い音でドアが軋む。

 一体なんなんだ?

 俺はそのまま立ち上がり様に奇怪な音を立てるドアへと向かう。


「うおっ」


 拳銃の銃口と目をきりりと細め差し迫った表情の紺之崎さんが目の前に突然大迫力で迫ってきて、俺は肝を潰して尻餅をつく。


「いない……」

「いますよ、ここに!」


 紺之崎さんが意外そうに呟くのに、俺は突っ込まないではいられなかった。

 突っ込んだ俺を紺之崎さんは銃を構えたまま、はたと凝視してくる。


「剣志くん……生きてる」


 死んだと思い込んでいたのか、俺の生死をジャッジした。勝手に人を殺さないで!


「ああ、青春さん。どうしたんですか?」


 テーブルで自分の腕に顔を埋めかけていたリアンが、紺之崎さんに気がつき間延びした声で事情を聞く。

 真剣に答えようと紺之崎さんは口を開ける。


「魔力を持つ何者かに抗戦されて逃げられた。変な人に二人とも襲われてない?」


 本当に心配してくれている。


「俺らは襲われなかったですよ、ただ部屋でのんびりしてましたよ」

「はい、太刀さんの言う通り部屋でのんびりしてました」

「そう、それなら良かった。やっぱりこの部屋にして正解だった」



 紺之崎さんの表情が緩くなった。

 俺はさっきの紺之崎さんの台詞から、ふと疑問を覚え尋ねる。


「なんでこの部屋だと安心なんですか? 特別侵入者を食い止めるような設備もないみたいですけど」

「理由は簡単、この部屋は宿の入り口の真上に位置してることと入り口とこの部屋の窓にはよじ登れるような突起物がなく平らなこと」

「そんな外装のことなんですか」

「簡単」

「ほんとに簡単ですね」

「そんな簡単じゃなさそうだ」


 ドア縁の陰から不意に、藤田さんが眉を寄せた険しい顔で会話を継いだ。藤田さん、いつからそこにいたんすか。

 紺之崎さんさえも愕然と、いつの間にか傍にいた藤田さんに目をぱちくりさせている。


「ストーカー?」

「青春、ボケてる場合じゃないぞ」

「ストーカー?」

「同じ事を言わせる気か!」

「ストーカー?」

「脇腹にあれされたいか?」

「うっ……簡単じゃないって何か異常でもあった?」


 三往復の不毛な禅問答を経て本題に入ったらしい。それにしても脇腹にあれって藤田さんは紺之崎さんに何をするつもりだったんだろう。


「これだよ」


 言いながら藤田さんは自身の背中を指す。よく見ると少ピンクの髪の少女一人をおぶっている。ん、ピンク髪?


「シャマさん!」

「シャマちゃん!」

「……シャマ!」


 俺より僅かに早く、藤田さんがおぶっている人物が誰なのか気づいたリアンと紺之崎さんは驚きの声を挙げる。

 しかし何故、藤田さんがシャマを?


「シャマの兄を名乗る青年が意識のない彼女を連れ立っていた。今そいつは軽く気絶させておいた」

「兄って私を金縛りにさせた?」

「同じ人物かはわからないが、青春と剣志はついて来てくれ。リアンはシャマに魔法でも声掛けでもいい起こしてやってくれ」


 そう俺達に指示しながら背中からシャマを部屋の床に下ろして寝かせると、俺と紺之崎さんを真剣な目付きで眺めやる。


「青春、剣志行くぞ」


 藤田さんと紺之崎さんは視線を交わし頷き合うだけの黙礼で、二人はどこかに向かい足早で歩き出す。


「えっえっ、ちょっと」


 俺を待たずに行ってしまいそうな人間離れした二人の後を、慌てて俺はついていった。




 藤田さんと紺之崎さんが駆け込んだ部屋に、俺も少し遅れて部屋に入る。

 シングルのベッドの脚に両手首を縛られて、うつむき加減に目を閉じているピンク髪の若い男の人に、藤田さんが声を掛けていた。あの人がシャマの兄というらしい。


「おい、起きろ」

「ううぅ……なんだ?」


 呻き声を立てながら男の人は眩しそうに目を開けた。


「シャマはこちらの者に預けてきたからな、じっくり事情を聞かせてもらうぞ?」

「ええ、わかりました」


 体のどこかが傷むのか、低く絞り出している声で答えた。


「そうか、では聞かせてもらう。何故お前はシャマの身柄を保持していた?」

「怖くなって連れ出してきたからだ」

「どこからだ?」

「組織の創設者専用の施設だ」

「怖くなったとは何に怖くなったんだ?」

「計画。創設者専用の施設での計画だ」

「どんな計画だったんだ?」

「詳細は僕も知らないけど……蘇生って文字が何かに書かれてた」

「その施設の場所は?」

「組織の本部の中だ、刻印を手に刻んだ者しか入れない」

「お前はその刻印を持っているのか?」

「ええ、左手の甲に」


 大体の事情は呑み込めた、と頷いて藤田さんは俺に向く。


「剣志、何かこの青年に聞きたいことはあるか?」

「えっ?」


 突然振られた話に、俺はおかしな声を上げて驚く。聞きたいことって言われても、急過ぎますよ。


「ないか?」

「うーん、これと言っては」

「ま、思いついたら聞けばいい。青春はどうだ?」


 次は紺之崎さんに話が振られる。

 紺之崎さんは聞きたいことがある、と言って男の人に視線をやる。


「さっき私に魔法を撃ってきたの、君?」


 先程とは横道に逸れた詰問に、男の人も微かに驚いた目になる。


「電撃弾のことですか?」

「名称は知らないけど、そんなようなやつ。撃ったの君?」

「ええ、姿を見られたくなかったので咄嗟に」

「咄嗟であの速さと正確さ、凄い」


 感情の窺えない顔で、感心なのか皮肉なのか判断しがたい声で言った。


「おお、青春が珍しく人様の戦いぶりを褒めたぞ」

「あれ褒めてるんですか? 表情に変化がなくてわかんない」

「よーく聞けば違いくらいすぐにわかるぞ。剣志は表情で相手の気持ち判別してるのか、まだまだだ」

「えっ、何がですか?」

「うるさい、そこの二人」


 紺之崎さんが言葉を差し挟む。藤田さんはピタッと話すのをやめた。

 藤田さんは紺之崎さんの感情の機微を理解しているらしい。

 その後は藤田さんが、こいつの見張りは俺がやっとくから剣志と青春はリアンの所に行ってやってくれ、と帰してくれた。

 俺と青春さんは一も二もなく頷きその部屋を出て、来た通路を戻ってリアンとシャマのいる部屋に向かった。



 部屋に戻るとリアンが何らかの魔法をかけてシャマを介抱していた。


「リアン、何の魔法使ってるんだ?」

「戻ってくるの早かったですね。それで、これは治癒魔法ですよ太刀さん」


 振り向いたリアンの額に大粒の汗が点々と滲んでいた。顔も熱されたように火照っている。


「大丈夫か、おい。無理するとお前の体が……」

「リアンちゃん頑張って、シャマちゃんの顔色が良くなってきてる」


 紺之崎さんが俺の言葉を遮って、リアンを励ました。なんでリアンの方は心配じゃないんだ?

 俺がシャマの傍に歩み寄っていった紺之崎さんに、ちょっとした反発心を抱いていると、リアンの体がふらふらっと揺れる。


「もう無理です、魔力がありません」


 そしてばたんと横に倒れた。


「リアン!」


 俺がリアンを抱き起こすと、リアンはすうすうと寝息を立てていたが華奢な肩から平常の体温ではない熱さが伝わってきた。

 俺はシャマの体調を外見だけで簡単に検査していた紺之崎さんに、視線を投げて問い詰める。


「なんでリアンにこんなことさせたんですか?」


 解釈に困ったように首を傾げられる。


「どういうこと?」

「リアンが熱を出して苦しんでたのに、なんで魔法を使い続けさせたんですか?」

「シャマちゃんを想うリアンちゃんの意思。人の意思を曲げさせてまで労るのは優しさじゃない、ただそれだけ」

「リアンがどうなってもいいんですか?」

「……呆れた自分勝手だ剣志くん」


 正直、紺之崎さんが何を俺に伝えたいのか理解できなかった。

 しかし何故か紺之崎さんの言うことがひどく響いてきて、思わずすいませんと謝っていた。


「謝ることない、心配になってやめさせたくなるのは当然。でも励ますのも一つ優しさっていうだけ」

「はい……」


 自分が実は何も優しくできていないじゃないか、と情けない気持ちになって俺は俯いた。

 その時、うううんと柔らかく絞り出したような呻き声が聞こえ、はっと頭を上げる。

 シャマが今まで夢を見ていたとでも言いたげに、上体を起こして俺と紺之崎さんと眠りに落ちて横たわるリアンの顔を交互に数秒眺めて、遅れがちに頓狂な声を挙げる。


「ここ、どこ!」


 起きた第一声から普段の調子だった。


「ねぇ、私はどうしてこんな岩の中みたいな空間にいるの!?」


 凄い驚きっぷりで首を左に右に動かして部屋中を見回すシャマ。

 元気そうでなによりだ。










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