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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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シャマの恋愛相談

「リアンせんっぱい、なぁにしてるんですか」


 夕飯を済ませてテレビを見ながら食休みしたシャマは、見ていた番組が終りリアンと内輪話するために、共同部屋の床で体育座りをしてふてくされてるリアンの肩をトントンと叩いた。


 リアンはやおら振り向いて、肩を叩いた者の顔を見受けて、


「あぁー、シャマさん。何か用ですか?」


 と、いつもより少し沈んだひ弱なトーンで応じた。


 シャマは努めて明るく提案する。


「先輩、一緒にお風呂入りましょ!」

「なんでですか?」


 それを聞かれれば、明確には答えられないシャマは適当な理由をこじつける。


「まぁ、その一人で入るより楽しいから、かな。この前も先輩と一緒に入りましたし」

「あの時は節約のために、と思っただけです」

「とにかく、一緒に入りましょ先輩」

「いいですけど、前みたいに変なことしないでくださいね」


 わかってますわかってます、と気安く流してシャマは入浴の支度に取りかかった。


 シャマが準備をし始めたのを眺めながらリアンは、シャマさんにまた、くすぐられたらどうしましょうと、別の不安を抱きつつも、着替えを引き出しから選び支度を進めた。


 二人は支度を済まして脱衣所で服を脱ぎ、共用のプラスチック製の網籠にその服を入れたあと、タイル敷きの風呂場でシャワーノズルから射出された温水を並んで浴びだした。


「ああっー気持ちいいっー」


 温水を頭から浴びているシャマが、心から快楽そうに口にした。


 その隣で、長髪を温水が伝っていくリアンは、物憂そうに顔を俯けていた。

 彼女の瞳は、温水が吸い込まれていくシャワーの真下にある排水口を、うら寂しく映していた。


 その横顔を覗き見たピンク髪の美少女が、シャワーの水を止めてふぅ、と一息して言う。


「先輩、暗いですね」

「……そうですか?」


 一瞬、はっとしたような表情を浮かべてから、リアンはぎこちく取り繕った笑顔を向けた。


「太刀先輩のことでしょ」

「なんでわかるんですか……」


 取り繕った笑顔が消え去り、リアンは大きな目を丸くして隣に立つピンク髪の美少女を見つめた。


 驚いた顔で見つめられたシャマは、いたずらしたみたいな笑みで理由を話す。


「人の心の機微には、鋭い自信ありますから」

「シャマさんは、鈍い私とは大違いですもんね」

「まぁそうですかね。それより先輩、髪の毛洗ってあげますよ。いいです?」


 リアンはキョトンとして、


「どうしたんですか急に」


 と、尋ね返した。


「その長い髪を、一度洗ってみたかったんですよ」

「それだけ?」

「はい、そうです」


 クスクスとリアンは、自身を気遣ってくれている自分より身長の高い後輩に苦笑を禁じ得なかった。


「洗ってくれるならお願いします」

「なら、イスに座って先輩」


 リアンは浴槽の傍に置かれているバスチェアを、引き寄せてそれに細々した腰を下ろした。


 その後ろにシャマが立て膝で構え、片手のひらにシャンプーを載せて長い艶のある黒髪を、そっとすいた。


 シャマの口からポツリと、うっとりしたような声が漏れる。


「綺麗……」

「えっ、なんですか?」

「リアン先輩の髪、綺麗だなぁって」

「そんなことないですよ、普通ですよ」


 あくまで否定するリアンだが、彼女はこのときシャマが温かな思い出に浸っていて、懐かしむように髪の毛を見ていることにに気づいていない。


 __幼い頃の自分の記憶、村にある大浴場で母親の長い黒髪を不器用に撫で付けている。


『ねぇ、なんでお母さんの髪の毛は黒いの?』


『それはね、お母さんは種族が違うからよ』


『しゅぞくー?』


 幼いシャマは聞き知らない単語に、首を傾げる。


『ふふ、シャマちゃんには、まだわからなかったかな』


『うん、ぜんぜんわかんない』


 シャマの母親は、背後で自分の髪を興味津々に触っている娘に優しく諭す。


『いいシャマちゃん? 髪の色とか耳の形とか、自分と明らかに違うとこがあるからと言って、のけ者にするのは駄目よ。私とあの人みたいに種族は違くても、愛し合えるんだから。わかった?』


『わかった』


「シャマさん? 手が止まってますよ? 何かあったんですか?」


 小さい頃の記憶にいつの間にか浸っていたシャマは、リアンに話し掛けられ、瞬間思い出から現実に戻された。


「シャマさん?」

「先輩の髪にみとれちゃってました」

「ほんとですか?」

「ほんとですよ。先輩は私を疑い過ぎ」

「そう言うなら、そうかもですね」


 シャマは洗ってあげようとリアンの髪に触れたまま止まっていた手を、動かし出して再開した。



 風呂上がりの洗い髪が十分に乾いてきた頃、魔法使い二人は布団に入り照明を消した。


「リアン先輩は、太刀先輩のこと好きですか?」


 シャマが真っ暗な部屋の天井を振り仰ながら、言葉を選んで尋ねた。


 えっああの、と短兵急な質問に動揺するリアンは頬を赤くしていた。


「聞くまでもないですね」

「そう思うなら、聞かないでください……」


 お互い表情が確認できないにも関わらず、シャマにはリアンの表情がはっきりでないにしろ想像できた。


「だって先輩、今日ずっと怒ってたでしょ」

「怒ってたわけじゃありません。恥ずかしかっただけです」

「まぁどっちにしろ、太刀先輩についてのことっていうのは見当つきますけどね」


 はぁあ、とシャマが呆れたような溜め息を溢し、同じ魔法使いの先輩に教えるように言う。


「リアン先輩は太刀先輩が好きなんでしょ、それなら話は簡単ですよ」

「簡単ですか?」

「開き直りましょう」

「……ええと? それは私の羞恥心と関係ありますか?」


 どうなんでしょ? とシャマ本人が疑問を抱いたが、すぐにでも、と付け加えて言い続ける。


「恥ずかしさがあってこそ、いい関係ってことですよ、きっと。だから自信持ちましょうよリアン先輩。リアン先輩が突き放すから太刀先輩が寂しがってましたよ、口には出してませんでしたけど。好きな人を寂しくさせちゃ駄目ですよ」


 リアンは返す言葉などなかった。真摯に言葉を受け取って、すべて納得した。


「そうですねシャマさんの言う通りです。明日にはいつもと同じように話しかけます。もう恥ずかしくないです……たぶん」


 確信できず最後は声がしぼんでいったが、それでもリアンの心持ちはいい方に激変していた。

 恥ずかしくたって我慢できる、と開き直っていた。





























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