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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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スーツ姿の来訪客2

 紺之崎さんはリアンとシャマの厚意で、一緒にテレビを見ながら夕食をとり、つい先程まで女子三人で仲良くお喋りに興じていた。


 俺は紺之崎さんに質問しづらく、ずっといたたまれない気持ちで、テレビに映っている芸能人達の顔を眺めながら過ごした。


 番組がエンドロールを迎えてCMに切り替わると、不意に紺之崎さんの方から、カップアイスの紙のスプーンを口に咥えたまま質問してきた。

 ちなみに、カップアイスは三つしか冷蔵庫の中になかったため、俺の分は紺之崎さんにあげた。


「まず、皆の身長教えて?」


 最初に聞かんでもいいことから、質問してきた!

 このとち狂った質問に、俺の隣に席をとるリアンがビクッと過剰反応して、たどたどしく語頭を連呼し始める。


「ひゃ、ひゃひゃ、ひゃく…………ごじゅういちです……はい」


 最後は顔を伏せて、微かな声になる。

 律儀に答えるリアンの、ずれた精神力の強さに感服した。


 紺之崎さんが無表情に頷いて、次は視線をリアンからシャマに移す。


「私は、160よりちょっと低いぐらい」


 シャマは向けられた視線を見つめ返し、そつなく答える。


「うん、覚えた。次」


 続いて俺に、表情変わらず紺之崎さんは目を向けてくる。

 俺だけ答えないのは、リアンとシャマに悪いよな。


「173、ぐらいだったはず」

「へぇ、私より大きい」

「そ、そうなんですか」


 表情がピクリとも動かないから、気持ちがわからず反応に困る。

 俺の向かいで、シャマが悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「ええ、リアン先輩って151もありましたっけ? サバ読んでませんかぁ?」


 リアンは俯けていた顔を、弾かれたように挙げた。


「サバなんて読んでません! シャマさんだって、あっちではよく魔法服の寸法を……」

「それとこれとはない! ね、太刀先輩!」


 何故かシャマは、俺に共感を求めてくる。

 俺、関係ないんだけどな……


 唐突にあっ、と声を漏らして紺之崎何か思い出したようでは手のひらを拳で打った。


「本題に入る」

「「「……え?」」」


 俺とリアンとシャマは、紺之崎さんの今更過ぎる発言を聞いて同じ言葉をこぼした。

 俺達の様子など、意にも介さず紺之崎さんは続ける。


「当分の間、ここに寝泊まりしていい?」


 リアンとシャマは、紺之崎さんを意味深そうにしばし凝視して、訳がわからないようで顔を見合わせる。

 護衛ということを知っている俺は、紺之崎さんが護衛だとバレないための口実なのだと察して、それに乗っかる。


「ああそうそう、リアンとシャマには言い忘れてたけど、紺之崎さんは佐藤さんの同僚だって。佐藤さんが話をしてたら、家に泊まりたくなったって。だから……」


 信じてもらうには、キツイかなぁ。

 だが俺の想像とは裏腹に、リアンが瞳を喜びで輝かせる。


「いいですよ、いいですよ! もっと紺之崎さんとお喋りしたいです!」

「そんな簡単に、人の宿泊を許すのはまずい気が……」


 リアンの感情的な決定に、我が意を得たりのなずなのに気が気でない。


「私も賛成です、リアン先輩」


 頬を嬉々として吊り上げ、シャマは言う。

 ……俺には決定権がないのか、所有者なのに。


 居場所の無さに悲しい気持ちになった俺に、紺之崎さんが無表情ながらに思慮深げな眼差しを向けてくる。なんだ?


「大丈夫」

「何がですか?」

「爆発起こさないから」

「爆発が起きる要素、どこにあった!?」


 俺の突っ込みは、三方からの冷ややかな視線の前に威を失い、静なリビングに溶け込んでいった。



 住宅街の照明の大方が、消灯された夜更け。

 北極星が爛々と存在を誇示する北の空をバックに、剣志の自宅周辺を見渡せる位置に建つ、家の屋根に腹這いで寝そべって、痩躯で薄汚れたスーツに鬼の仮面を被った怪奇な青年は、手のひらに隠れる大きさの通信機で誰かと抑えた声で密談していた。


「護衛はどうだった」

『うん、楽しかった。皆でテレビを見たり、ご飯食べたり。明日が来るのが、待ちきれない』


 怪奇な青年は、忌々しげに口を歪める。


「二日もこうして、監視に精を注いでいる俺に対する嫌味か」

『違う、近況報告』

「お前の場合は内心報告になってんだよ」


 洗えず乾ききった男にしては長めの髪を、むしゃくしゃしたようにかきむしる。

 大声で通信相手に怒鳴りたい気持ちを、一息吐いて鎮めた。


「で、何か危険ものは見つけたか」

『うん、デザートにくれたアイスが冷たくて口内が……』

「他には」

『夕食で炭水化物を食べちゃったから、服が入らなくなって危険かも』

「はいはい」


 通信相手の報告を適当に聞き流し、怪奇な青年は不平を訴える。


「何で用意された食料が、味長持ちのガム、一ケースなんだ。空腹でお腹と背中がくっつきそうだぞ」

『心配しなくていい、くっつかないから』

「……お前には、例えというもんが通用しないのか。忘れてた」

『……失礼なことを言われた気がする』

「気のせいだ。それより、少女達の様子はどうだ」


 思い返しているのか、返答までに時間を要した。


『二人とも護衛対象3の男に、好意を寄せてるみたいだった』

「何を根拠に」

『乙女の勘』

「何事もなかったということで。引き続き護衛を頼んだぞ」

『反応がうす…………』


 報告を聞き終えて、怪奇な青年は通信を遮断した。

 夏の生ぬるい風が、彼の活力のなさそうな顔を撫でていく。

 彼は苦々しく声を掠れさせて、一人嘆いた。


「ガム以外のものが食べ、たい」


 そんな彼とは関係なく、星々は澄みきった夜空で瞬いていた。


















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