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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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青の金阿修羅の本領1

 明くる日、ハミエルの武器屋に顔を見せにきた青の金阿修羅ことワコーとイケメン鉄アレルギー剣士ことブルファは、美少女と美女を連れてきた。

 二人の連れてきた一人、小柄なツインテール美少女はハミエルを見るなり、側頭部に結んである長い二束の黄色い髪を揺らして、ツンと顔を逸らす。


「なんじゃこの店は! 入るなり薄暗いし、店主は辛気くさいし、良いとこゼロじゃ」


 まぁまぁ、とブルファが、早速不機嫌なチウを宥める。

 チウの隣で無表情に突っ立っている二人が連れてきたもう一人、出るとこは出て、へこむところはへこんだ世の男にとって蠱惑的な美女は、変化の少ない表情を嬉々とした微かに笑顔で満たした。


「チウちゃん、商売なんて初めて私。すごく楽しみ」


 そう喋った美女を見て、ハミエルははたと気づいた。


「この人って、黒服隊の人だよね。こんなとところに居て、大丈夫なの?」


 ハミエルの素朴な疑問に、イナシアはうんと頷き、口を開く。


「ナレク様にはきちんと許可をとってきた。だから気兼ねなく働ける」


 イナシアの口が閉じたところでワコーが、ぱんと手を叩き自分に視線を注がせ、おもむろに開口する。

 ワコーの目は鹿爪らしい光を帯びていた。


「それじゃ、それぞれに指令を出す。ハミエルは専門だから店内で客に武器の説明を。ブルファはカウンターで会計士を。で、チウとイナシアには衣装を持ってきた。是非、着てくれ」


 ハミエルとブルファはてんでの役目の場所に向かったが、チウとイナシアはワコーの予想だにしなかった指令に首を傾げる。


「衣装とはなんのことじゃい、この店の制服かえ? きっと辛気くさい制服じゃろ」

「まさか、いきなりクビ?」


 ワコーの腹積もりを全くもって知り得ない美少女と美女に、ワコー本人がわかってないぜ二人とも、と意味深長な笑みを浮かべて言った。

 ますます二人は首を傾げる。


「これは商売だ。使える手は使うさ。この仕事は二人にしかできないんだよ、この男誘惑客引きはな」


 ポカーンと気が放逸して絶句するチウと、対照的にキラキラ紫の婀梛っぽい瞳を輝かせて興味津々なイナシア。

 そんな感情丸出しの二人に、ワコーは店内の奥を指差して言う。


「奥の部屋にそれぞれの衣装が用意してあるから、それを着てきてくれ。着終わったら俺のところに来てくれ、いいか」


 イナシアは即座に首肯したが、例によってチウは不満そうな顔で愚痴る。


「何故にわらわが衣装なぞ着て、客引きなどせないかんのだ? やってもわらわにはメリットがないじゃろ」


 ふっ、とワコーが鼻で笑う。次いで、黒服隊のリーダーの名前を紡いだ。


「ナレクは今回のことについて、楽しんでいる。可能なら黒服隊の女性二人に衣装を着てもらいたい、だそうだ。さらに、もしチウが仕事から逃げ出したら、とうぶんの間無給料で俺の専属助手として働かせる、と言っていたぞ。さあ、もうこれはやるしかないないな?」


 面白がる笑みを口元に浮かべるワコー。

 チウはギリギリ歯軋りしといたが、やがてあああああああ! と唐突に怒りを発散するように叫んだ。


「やりゃいいんじゃろ、やりゃ!」

「わかったなら、早く衣装に着替えてこいよ。無給料になっちゃうぞ」


 ぶちぶち不平をギリギリ聞き取れない程度で漏らしながら、店内の奥に消えていった。

 その後ろ姿を見えなくなるまで見ながら、ワコーは久しぶりの商売に心が弾んでいた。



 衣装に着替えたチウとイナシアは、路傍で並び立っていた。

 ちなみにチウの衣装は品行方正の言葉が似合うメイド服。イナシアは道通る男性達から愛欲の視線を集中させる、肌の露出多めなバニーガール。どちらも武器屋のイメージにはそぐわない。

 しかし、ワコーはこのイメージの相違こそが狙いだった。

 ワコーいわく、メイドとバニーガール、男性からしたら武器屋とは想像しがたい。男はいたって単純だから、美女と美少女が甘い声で店に来てぇ、と言えばひょいひょい着いてくるだろうよ。という男の性を利用した計画的な客引きである。

 腰に両手を当てはぁ、とチウが目前の人の流れを退屈そうに見ながら、溜め息を吐いた。


「意外と暇じゃのう」

「チウちゃん、私暇じゃない」


 そう抑揚のない声で言ったイナシアに、チウが視線を向けると、言い寄る鼻の下を伸ばした倅たちを、宣伝のプラカードでなんとか受け止めていた。

 チウは呆気にとられたまま、ポツリと口にした。


「三毛猫のメスとオスの比率みたいじゃ…………」


 チウの比喩は大袈裟であるが、女性一人に数人の男が言い寄っているのは確かだ。

 それなのに自分のところには誰一人として言い寄ってはこないことに険しい顔で内心抗議するチウに、一つの影が被さる。


「あのう?」

「なんじゃ?」


 面倒だなぁ、という心情を押し込め仕方なしに、声の方へ顔を向ける。

 そこには体格こそ細く繊弱そうだが、眼鏡をかけて知的な青年が、目線を合わせるように腰を折り手を膝につけて、チウを見守るように凝視していた。

 眼鏡の青年はおもむろに口を開く。


「君、バイト大変じゃないかい? 大変なら僕の職場ではた……」


 青年の口の動きがピタリと停止する。

 チウは見た目に反した戦闘中さながらの目を、知らずのうちに青年に向けていた。

 青年の額にぶわっーと冷や汗が滲み出し、ついには僕のロリハーレムの第一歩がああああああ! と目を腕で隠し泣き叫びながら市場へと走り去っていった。


「さっきのやつは、なんだったんじゃ?」


 自分のおぞろおぞろしい視線が原因で青年が走り去っていったことを、露知らないチウは首を傾げた。

 考え事とか何かに没頭している時は、チウの目に本気の色合いが帯びているので、話し掛けるときくれぐれも注意しよう。


「早く店に入らせてください!」


 イナシアに言い寄る男の一人が言う。


「わかった。店まで案内するから、押さないで」

「アイアイサー!」


 倅たちがそうピッタリ揃えて叫び、規律のとれた動きで縦二列に整然と並んだ。

 愛欲は目覚めぬ力を呼び起こすらしい。

 最前列の二人がピシッと敬礼して、イナシアにハキハキ伝える。


「準備完了であります!」

「すぐ、出動できるであります!」


 唐突にイナシア護衛隊となった目前の男たちに、苦笑いもせず無表情で淡々とイナシアは告げる。


「店、あそこの木のドア」


 自分の肩越しにドアを指差して、店の所在地を示した。

 無論、イナシア護衛隊は燃えていて萌えている。

 イナシア護衛隊の一人、むくつけきニート。

「うおーーーー! イナシアさんのために爆買いするぜーーーー! そしてご褒美に膝枕してもらうぜーーーー!」


 筋骨隆々の身体を奮い、常人では聞き取れない胴間声を上げて店の中に突入していった。

 その後に続かんばかりに、ぞろぞろ男達が店に入っていく。まるでオイルショック時の日用品店の有り様である。

 イナシアに魅了された男達の入店が一段落したのか、路地裏にいつもの静けさが戻る。

 辛うじて路肩に身を縮ませて、無表情に立っているイナシアに、チウが嘆息しながら歩み寄り話し掛けた。


「そなたは立っているだけで男を惹き付けるようじゃの。大変ではないかえ?」


 気遣わしげに問われて、イナシアはカクッと首を傾け抑揚なく尋ね返す。


「なんで?」

「そりゃ、あれだけの男が数分もせず寄って来たんじゃから、街を出歩くのも一苦労じゃろうなぁ、と思ったからじゃ。質問がおかしいかえ?」


 問いに対しふるふる首を振り、口元を少しだけ緩ませて答える。


「おかしくない」

「それはどうでもいいんじゃが、気苦労してないかえ? さっきみたいに言い寄らっとたら」

「あんなに迫られたの初めて」

「何故じゃ隣! そなたはいつも街を歩くときは変装してるのかえ?」


 ふるふる首を横に振って、否の意を示す。首を激しく振りすぎると、脳震盪を起こすので気を付けよう。


「街を歩くときは、常時ナレク様がついてくれてる。だから敵も近寄りにくいはず」


 そりゃそうじゃ、と黒服隊員の中でも指折りの強さを誇るナレクとイナシアが並んで歩く様子を想像しながら、チウは胸中で苦笑いした。



「本当にみんな、ありがとう。武器商売を初めて、一日でこんなに売れたことなかったよ」


 近場の食事どころで、ワコーの仕切りによる今日の反省会を丸テーブルを囲んで行っていた。

 ワコーが、自分の隣に座りお礼して頭を下げているハミエルにニヤついた嫌らしい顔で言い放つ。


「俺のおかげだぜハミエル。感謝しても仕切れないだろ?」


 と、ワコーのひけらかすような言い様に、ハミエルは沈着に最善の返答を限りある言葉の中から選び、ニコッと笑顔を浮かべて言う。


「感謝しても仕切れないなら、僕は最初から感謝しないよ。代わりに患者にしてあげるよ」


 笑顔だが目が危殆なものになっていた。

 ハミエルとは反対のワコーの隣に座る、ブルファがテーブルの中央に置かれたサラダにフォークを差し込みながら、付け足すように口にする。


「あんまり付け上がると、患者じゃ済まなくなるかもよ? ハミエルは俺より体術が上手かったんだ」


 しれっとワコーを畏怖させるような言いぐさである。

 しかし、ワコーもハミエルとブルファとは気がおけない関係なので、怖がることなくハハハと笑い飛ばした。

 おちゃらける三人を見て、チウが隣に陣取るイナシアに耳打ちする。


「あの三人は、どういった関係なのじゃ? ただの友人関係とは思えないがのう」

「私も知らない。でも、すごく睦まじい」

「確かに仲がいいのう」

「私達も仲良くなれるから、安心してチウちゃん」

「なんでそう話が展開するんじゃ。別にわらわはそなたとぉうう」


 突っ込みを入れようとすしたチウを、イナシアががばっと胸元に抱き寄せたので、チウの突っ込みの語尾が濁音だけになった。

 呼吸器をイナシアの弾力のある胸に塞がれて、ジタバタ両手を動かす。


「チウちゃん、可愛い」

「ああうのだ、ああうのだ(離すのじゃ、離すのじゃ)!」


 そんな美女と美少女の和気藹々とした光景に、ワコーとブルファと駄弁りながら、こっそりチラチラ視線を向けていたハミエルはイナシアさんは何がしたいんだ? と行動に理解できずにいた。

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