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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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見知らぬサラリーマン

 買い物を終え、野暮用で先に帰った冬花を除く俺達三人は夕焼けに染まる住宅街を歩いて帰っていた。

 角を曲がると自宅の前で、黒い鞄を持ったサラリーマンらしき人が俺の家を見上げて突っ立っていた。

 俺は何か用でもあるのかな? と思い恭しく尋問する。


「あの~、うちに何か用ですか?」


 近くで見ると若くて細身で俺より数センチほど背丈があるサラリーマンらしき人は、顔をこちらに向けると穏やかに微笑んだ。


「突然ですまないが、僕は太刀くんの父親の友人の息子なんだけど、君に渡したいものがあってね」


 そう言って父の友人の息子を名乗るスーツ姿の男性は、胸ポケットから一枚のカードを取り出して俺に差し出してきた。

 俺はそれを受け取り、プリントされた文字を読む。

 株式会社ラブリィ・営業部長・佐藤(さとう) (まこと)? 聞いたことない名前だ。


「失礼なことお聞きしますけど、商品の勧誘ですか? それなら帰ってくだ……」

「株式会社ラブリィの佐藤誠は表社会での名義だ」


 言っている途中で無遠慮に口を開いたと思ったら、理解の範疇を超えた話をしてきたよ。

 佐藤さんは目付きを真面目なものに変えて、俺を見つめる。


「太刀くんに大事な話がある。すぐに終わるから聞いてくれないか?」

「大事な話ですか? この二人いても問題ないですか?」


 俺は佐藤さんに、右隣でこそこそ会話し始めたリアンとシャマに話を聞かれてもいいのか尋ねた。

 二人にも関係があるから聞いてほしい、と答えて一間置いてから、目を真剣そのものにして話を始めた。


「さっき僕は表社会って言ったよね。それとは逆の社会、つまり裏社会での出来事について、君たちに知っておいて欲しいことがあるんだ」


 佐藤さんの真剣さとその内容が、俺に緊張感を与え息を詰まらせる。

 隣のリアンとシャマも無言で聞いていた。


「最近、ここの辺にできた服屋には行くな、今伝えられるのはそれだけだ。僕の仲間が集まり次第詳しいことは連絡する」


 急な理由もわからない命令に、不思議に思った俺は佐藤さんに質問する。


「どういうことですか? 理解に困ります」

「危険だからとしか言いようがないな。何が危険かも実態は掴めていないが、後々危険になるのは必然だと、僕は思う」


 根拠も証拠もないが、佐藤さんの視線には説得力があった。

 ついつい圧倒されわかりました、と頷いてしまう。

 俺が首肯したのを見てやることが済んだのかそれじゃあ、と笑顔で言って身を翻しスタスタ去ってしまった。


「結局、なんだったんだろうな。悪い人ではなさそうだけど……」


 佐藤さんは突然、裏社会とか俺には由縁のなさそうな話をして、意味深な命令だけして、こっちの質問には決然としない内容で答えて、優しそうな顔をしているのに言葉にしずらい威圧感があって、とにかく矛盾が多い人だ。


「ボッーとしてないで早く家に入りましょうよ。ね? 太刀センパイッ!」


 佐藤さんのことを考えていた俺の右腕を、唐突にシャマが自分の右腕をからめて引っ張った。


「うわ!」


 俺は不可抗力でシャマと体を寄せ会う格好になる。

 肘がシャマの胸に当たっているが、断固として故意ではない。

 シャマの隣のリアンに不可抗力です! と目で訴えようとすると、リアンはすこぶる不満そうに頬を膨らませていた。


「太刀さんがシャマさんの胸に肘を当てています! エッチです!」

「これは不可抗力だ! リア……」


 リアンに口頭で訴えようとしたら、シャマがさらに引っ張ってきた。

 無論、俺の肘はシャマの胸に当たっており柔らかさが薄い布一枚越しに伝わってきて、ドキドキしてしまう。


「太刀先輩、どうしたんですか? 顔が赤くなってますよぉ?」


 遊び半分だ、というように口の端をつり上げシャマは口走った。

 俺は慌てて切り返す。


「顔が赤くなってるのは暑いからで、照れとかそういった感情は関係ないぞ!」

「ほんとですかぁ?」

「断じてな、うんうん」


 自分で納得して頷き、強引に話を逸らそうと試みる。


「あーあ、腹減ったなぁ。手料理が食べたいなぁ!」

「私の手料理が食べたいんですかぁ?」


 探るように俺を見つめて、ぐんと顔を近づけてくる。

 目を見ないように顔を横に逸らして、俺ははっきりとこぼした。


「ああ、シャマの手料理が食べたい!」

「そうですかぁー、じゃあ早く中に入りましょう」


 意味ありげな笑みを浮かべて、腕をほどくことなく入り口に歩き出した。

 腕がからまったまま歩き出されたので、俺はつんのめり気味になった。


「待ってください! 腕をほどいてください!」


 ぷんすかいきりたって、リアンが叫んだ。

 しかしリアンの言葉を意に介さず、シャマは俺を引き寄せたままドアを開ける。


「さあ、何が食べたいですかぁ?」


 俺を捉える大きな瞳が、楽しそうにくりんとい煌めいた。


「いい加減、腕をほどいて欲しい……」


 乱暴にでも振りほどいてやろうかな? と考え始めた矢先、後ろからリアンが割って入ろうとする勢いで、非力だったが俺とシャマの腕をほどこうとしてくれた。

 その必死な姿にわかりましたよリアン先輩、とシャマが腕をほどき俺から身を離した。

 ホッとした俺はリアンに声をかけようとしたが、その夜の間リアンは口を利いてくれなかった。

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