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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
民族とサラリーマンの夏
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ショッピングモールにて2

 ショッピングモールの一階中央、深緑の長大な裸子植物の周りを囲う柔らかい椅子に座り残り時間を潰していた。

 あと五分程度、というところで傍にスーツ姿のキリリとした背の高い、短い紺碧の髪の毛先が頬骨の辺りで前に反り返っている真面目そうな年若い女の人が、高そうな革の鞄と一緒に腰かけた。

 俺は意識的に少し距離をとる。が、何故か距離を詰めてきた。さらにさっきより間隔を狭くしてきて__。

 スーツの社会人は顔をスッと俺に向けてきた。

 なになになに? 怖いんだけど!

 俺が内心怖がっているのを知らないであろう、社会人はじっーと見詰めてくる。

 そしてフッ、とでも笑ったようにほーんの少しだけ口角を動かして、手持ちの鞄を開けて一枚のカードを取り出した。

 それを両手で掴み、俺に差し出してくる。

 差し出されたカードには、ゴシック体の赤い文字で『株式会社ツートン』と、その下には同じくゴシック体の黒い文字でふりがなのふられた、五文字の漢字が印刷されていた。

 紺之崎(こんのさき)青春(あおはる)

 名刺に記載されている『株式会社ツートン』も『紺之崎 青春』も、記憶にないものだった。

 俺は不信感を抱きおずおずと尋ねる。


「あ、あの人違いでは?」


 紺之崎さんは即座に首を横に振った。


「ええ! 待って、ほんとに誰?」


 俺が両手の手のひらを向けて身をのけ反ると、ぐっと顔を近づけてきた。

 そして名刺を俺の胸に押さえつけると、無言で立ち上がった。結果、座ってから立つまで一言も喋っていない。

 いかにも社会人らしく落ち着いた歩調で鞄を持ち上げ、かつかつと人混みの中に消えていった。

 __なんだったんだ?

 もしかしたら俺が覚えていないだけで、どこかで会ってるのかもしれない。

 名刺手渡されただけだし、まぁ気にすることもないか。

 無駄な猜疑心は霧散して、俺は時間を確認する。

 残り時間三分。そろそろ戻るか。



 ショッピングモール二階、閑散としてしまったブティックにて、冬花は意味ありげな笑みで言った。


「一応、二人と話し合って一着決めたんだけど、リアンちゃんとシャマちゃんどっちが可愛いか、剣志に審査してもらおうと思っている次第です」

「はて、どういうことですか?」


 俺は首を傾げた。

 しかし冬花は疑問には答えず俺の背後に回り、さあさあと押して催促してくる。

 押されるまま、サイドに二つある試着室の右の方まで連れてこられた。

 すると冬花司試着室の前に立ち、片方の拳をマイクみたいにして大きく息を吸い喋り始めた。


「エントリーナンバーワン。リアンさんです、どうぞー!」


 試着室内のカーテンがちょっと開かれ、リアンがちょこんと顔を出す。

 めくるめく展開に、脳の処理がついていけてない。何をやろうとしてるんだ?

 なんのヒントもない疑問が、解かれるより早く俺は見入ってしまった。

 ちょっと開かたカーテンから全身を出したリアンが、それはそれは類をみないほど可愛かったからだ。


「どうですか……似合ってますか?」

「ああ、すげー」


 鍔広の麦わら帽子と水色の袖無しワンピースのコーディネートをしたリアンは、どこか良い意味で暑くてひまわり畑を背景に思わせる。

 リアンは両手の指先を複雑に組ませて、上目遣いに俺を見た。

 そのはにかみようは、ドキンとしてしまう可憐さがあった。

 呆気にとられていた俺の聴覚に、ノリノリな冬花の声が響いた。


「では、次にいきましょう!」


 そう言って反対側です、と左側の試着室の方を指差した。

 片方の拳をマイクみたいにしたまま冬花は、司会者じみた身ぶり口ぶりで告げた。


「エントリーナンバーツー。シャマさんです、どうぞー!」


 試着室のカーテンが勢いよく開かれた。

 リアンの時に続いて、俺は見入ってしまった。

 トップスは明るい蛍光色のイエローを基調とした英語のかいてある袖無しTシャツ、ボトムは太ももが見え見えのデニム生地ホットパンツという、リアンとは対照的に東京の新宿の街並みを背景に思わせた。とはいえ新宿に行った経験はない。


「どうですかー太刀先輩、完璧なまでに似合ってるでしょ?」


 自信ありげな表情でちょこんと顔を傾けて訊いてきたシャマに、俺は薄く笑みを作り答える。


「すげー似合ってるぞ。そこらへんのJKより桁違いに可愛い」

「じぇ~け~?」


 シャマは子供みたいに尋ねてきた。

 ああ、そうか。異世界人のシャマやリアンには意味不明か、JKは。

 教えてあげようと俺が口を動かそうすると、あっ! と何か思い付いた顔をして声を上げた。そして片手の人差し指を屹立させて得意満面になる。


「わかりました。ジョーン・ケーンですね。まさか太刀先輩が……」

「ジョーン・ケーンってなんだよ! アメリカのミュージシャンみたいな名前だな!」


 シャマの台詞が言い終わる前に、俺は突っ込んだ。

 シャマは残念そうに肩を落とした。


「やっぱり……知ってるわけありませんよね」


 一はぱっと消え、シャマはあからさまに口角を上げて言った。


「太刀先輩が知ってたら、その太刀先輩は別人かも知れません。だから少し嬉しい気もします。さっきの名前は忘れてください、さあ審査をお願いします」


 微かに見えた苦しい過去を思い出したような瞳、俺は内心首を傾げた。が、気のせいだろうと審査の熟考を開始した。

 リアンの方はひまわり畑、シャマは新宿、季節はどちらも夏。う~ん、何を決め手にすれば良いか?

 仕方ない司会者に聞こう。


「なあ冬花?」

「うん? 何?」


 整然と陳列された服を掲げて眺めながら、こちらを向かず返事する。

 俺は聞きにくいがいざ聞いてみる。


「中途半端で悪いんだけど……甲乙つけられないから、同評価で……いいか?」

「まぁいいんじゃないかな?決められないなら決められないで……それより」

「それより?」


 冬花は言葉を途切らせ、一間空けてから抑えた声を出した。


「JKってさ……」

「聞いてたのかよシャマが、まぁいいけど。それでJKって?」


 口にするのが恥ずかしいのか、ゆっくり口を動かした。


「ジョン・キホーテみたいだよね」

「全国的に広がる雑貨店だよ、それは……」


 真剣な事を言い出すのかと構えていたら、完全に思い違いだったようだ。

 まぁ、それならそれで安心なんだが。

 場の静まりように自分が関与していると気がついた冬花は、突っ慳貪に命令してきた。


「剣志! 今のは絶対忘れなさい! 覚えてたら……とにかく酷いことするからね!」

「ヘイヘイ、忘れときますよ」


 怒っているようではにかんでいる冬花の珍しい姿に、面白くなって真面目さのない返事をする。

 他にも言いたいことがあるのか、冬花は何かぶつぶつ呟いていた。


「はい! じゃあ太刀先輩ドローでいいんですね?」


 小首を傾げながら可愛くシャマが聞いてくる。

 俺はアハハ、と半笑いつつ謝る。


「ほんとにごめんな、優柔不断で」

「それは気にしてませんけど、太刀先輩は幸福者ですよね。こんな美女三人と一緒に買い物できるなんて、やろうと思っても中々できませんよ」

「まぁ、幸福者ものかもな……」


 すごく楽しくて落ち着くし、とは少し恥ずかしくて言えなかった。

 嬉しい笑顔が目の前で、形となって顕れていた。

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