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異世界から「こんにちは」  作者: 青キング
異世界と現実世界
32/100

本物の魔女

 呼んでいる。

 太刀さんがリアンと呼んでいる。

 何が起きてるのか、それは関係ない。

 一つの光もないこの暗闇から脱け出して太刀さんと会いたい。

 太刀さんそのものが私の活力そして生きる意味。

 早く早く!

 無の暗闇から脱け出したい!


 確かに魔女は抵抗している。いや支配というべきだろうか、リアンのすべてを呑み込もうと体を奪おうとしている。

 それでもリアンの強い意志が呑み込まれまいと抗い魔女を追い出そうとしている。

 手助けしたい、でも僕に何ができるのだろうか?

 凡庸医者としてではなく、リアンの仲間として手助けしたいのだ。

 マークスとして……手助けしてやりたいという強い意思を僕も持つんだ!


 リアンの力は強大だ。

 不器用で回復魔法や生成魔法は一つも使えないけど、いつもとどめを刺しているのはリアンの戦闘魔法だ。

 でもその力以上に太刀を想う意思の方がすこぶる強大だ。

 本人たちは気がついていないようだけど周りから見れば、太刀に対しての言動でまるわかりだ。

 リアンの一途にいつも隣に居たいって、そんな強い意思が負けるもんか。


 黒服隊のリーダーナレクとして今まで何人もの魔法使いを見てきた。

 その中でも初対面で一番慄然としたのはリアンだ。

 体から溢れでる魔力は質が良く量も桁違いに多い。加えて戦闘魔法においての最高威力を持つ魔法、《無色(ノーカラー)》を使える条件を満たしているのはリアンだけだろう。

 《無色》の威力はすべてのものを消滅させると伝えられ、実際使った者自体いるのかどうかすら定かではない。

 《無色》の説明が書かれた古書には使える条件が明確に書かれていた。その条件とは

 一、人間の値を超えた魔力量

 二、女性であること

 三、強いという自覚がないこと

 四、誰かを守りたいという強い意志があること

 その四つの条件の一つ目の時点で人間という概念を凌駕してしまっている。つまるところリアンは常人ではないということになる。

 しかしだ、誰かを守りたいということは当たり前に起こる意思であるため、条件とかは関係ないと俺はつねづね思っている。

 リアン、頑張れ!


 私ことイナシアの目の前にはシュール過ぎる光景が誰の得もないまま存在している。

 魔女に抗うリアンという少女を応援はしているのだが、なぜこうなったのか理解はできていない。

 私に何かできることがあるのなら、と思考を巡らすが対魔女は初体験なので思い付かないまま呆然と眺めることしかできない。

 それが非常にむなしさを感じさせるのだ。


 状況説明を誰かに求めたが、周りを見回すと見知らぬ人達もこの場にいるようで余計に戸惑ってしまう。

 目の前で立っているのはリアンと同じく夢で見た、左に立つ剣士のブルファと右に立つ医者のマークスだ。

 でもマークスより左奥にいる黒髪で胸がふくよかな黒服を着た美しい女性は誰だろうか?

 同じくブルファより右奥にいる左前髪を左目を隠すように垂らしている黒服の男性は誰だろうか?

 そして真ん中で呻いているリアンは何をしているのだろうか?

 挙動がいつもと違うというか、変。

 何かに苦しめられているような、そんな呻きな気がする。

「おいリアン……リアン!」

 俺がリアンに話しかけた途端た太刀……さん私負けません、と微かなリアンの声が耳に入ってきた。

 しかし今呻いているリアンは先程の声と合わない口の動きをしている。

 もしかしてあれはリアンではないのか?

 そんな非現実的な考えに至るのは混乱しているからだろう。

 そんな思考を頭に浮かべていると、呻くリアンの口から毒々しい濃い紫の粒が揺らぎながら放出されていく。

「ぐ……ううう」

 放出されるペースが上がっていき、数も増えている。

 今、俺が見ているものは本当に現実なのかと疑いたかった。

 しかしその間もなく粒の放出はピタリと止まり、呻きもなくなりリアンは腕をガッツポーズのように突き上げた。

 そして宣言した。

「私の勝ちでしょう、この体のすべてを奪おうとしたのが間違いでした。よくも抗ってくれましたわ、往生際が悪いにもほどがあります」

 長々勝ちを宣言したリアンからは以前の雰囲気は感じ取れなかった。この時俺は少し悟りかけていた、今腕を突き上げているリアンはリアンではないということを。

 それでもそれを受け入れたくなかったからか口を開いて__

「リ……リアン」

 恐る恐る名前を口にした。

 気づいたのか突き上げた腕を下ろしながら顔だけこちらに向けてきた。

 顔に浮かんでいる謎の奇っ怪な笑みは大人びていて、俺は恐怖が体の芯まで染み込んだ。

「もう他に手段はないだろう……リアンの体に傷をつけるのは忍ばれるが力ずくで追い出してやる」

 目の前に立つブルファが意を決したように手を力強く握りしめ突き出した。

「魔女を追い出すにはこれしかないよな」

 黒服の片目隠し男も中央の女を眼光鋭く睨み付ける。

「私もやる」

 短い一言で黒服に長い黒髪の黒だらけ女も宣戦布告した。

「僕も全力を尽くします」

 マークスが両手を体の前で握り不適のファイティングポーズを構えた。

 俺以外の全員が戦闘する気満々なんだ、俺だって男だ。ここがどこかは知らないがとにかくリアンを助けてやる。

 そのやる気が俺を男にさせた。

「太刀もリアンを助けたいだろう」

 ブルファの声かけに一言だけでああ、と返事すると中央の女を見据えた。

「久しぶりに楽しめそうだわぁ!」

 そう言い右手の人差し指を唇に当て沿うようにスライドさせた。

 その間も機能失った左手はピクリとも動いていなかった。

「いち」

 なんだ? と思ったのも束の間、黒服の片目隠し男が横から殴られたように勢いよく飛ばされ奥の壁に衝突して力なく尻餅を着く。それでも眼差しは一点に据わっていた。

「に」

 途端、黒髪に身を包んだ黒髪の女性も先程の男と同えっ、と様に、飛ばされ壁に背中をぶつけバシン! と乾いた衝突音が痛々しく響いた。

「さん」

 その刹那、今度はブルファが背後にあった壁に吸い寄せられるように引っ張られて、壁に背中が密着すると、密着している部分の壁に蜘蛛の巣にような亀裂を作った。

 ぐわっとブルファが息を洩らしながら、うつ伏せに倒れた。

 みんなを傷つけないでぇー!__今のはリアンの声。

「暴れるなぁーー!」

 再び中央の女が苦しそうにうめき出した。

 うめいて大きく開けた口から先程と同じ粒が揺れながら出てきた。

「何でまた魔女は吐き出してるんだ」

 マークスが驚きを見せると、中央の女はマークスに歪んだ顔を向けた。

「よ……ん」

 させません! とまたもリアンの声が俺の鼓膜を揺らした。

「うぐっ」

 中央の女が息苦しいような喘ぎを漏らすとマークスは吹き飛ばずに留まった。

 その隙に、マークスが背後にいる俺に声を潜めて言い放った。

「たぶん今からナレクが魔女の動きを停止させる魔法を使ってくれると思うから、僕が右手を素早くスライドさせたら魔女に肉薄してリアン! って叫びながらきつく抱擁すれば魔女はリアンの体から緊急脱出して本物の姿に戻るから、よろしく」

 さっきの長台詞の中に、ツッコミどころが至るところにあったけど?

「僕をたまには信じて」

「たまにでいいのかよ、そもそもナレクって誰なんだよ?」

 えっ、とキョトンとした顔で驚かれたが、すぐに顔を真剣なものに変えた。

「見てみなよ」

 そう言われ再び視線を通路の中央らに移すと奥から音速並のスピードで何かが女に突撃していった。

「すごいですねナレクさんは。私達も劣っていられませんね」

 横から不意に声がして横目に窺うとシャマが平然と立っていた。

 思わずうわっ! と声を挙げてしまった。

「何をそんなに驚いてるんですか」

「理由はないけど……」

 マークスの方に視線を逸らすと、マークスが後ろ手に右手をサッとスライドさせた。ゴーサインだ。

 中央の女目掛けて駆け出す。どうやら光の輪で全身を締め動きを封じているようで、口ももごついていて鮮明に発声できないようにしているみたいだ。

 俺は間合いを三歩分まで詰めると、両手を広げた。

 鼻と鼻が触れあうくらいの距離で広げた手を一気に締めた。

 確かな柔らかい感触が腕に伝わり、脳に刺激を与えてくる。

「バァーーーーーー!」

 抱擁の瞬間女の開けた口から無数の粒子が隙間を見せることないカーテン状に連なって出ていき、直上の天井に集結して奇妙にもぞもぞ動き出す。やがてそれは人間の形になり底冷えするような音を発した。

「たたた太刀……さんははは離して……ください」

「あああ、すすまん!」

 バッとすぐに抱擁を解くと慌てて一歩退いた。

「危ない!」

 唐突にマークスが叫んだ。思わずえっ、と後ろを振り向く。

 すると飛び付いてくるマークスの姿が目の前にあるのだ。

 俺はマークスに押され、その弾みで後ろにいたリアンもドミノ倒しのごとく押された。

 目の前でうつ伏せに倒れているマークス。

「あら、外しちゃったわ」

 艶かしい声に視線を移すと、倒れたマークスの背中に細いが所々に膨らみのあるシルエットのローブを着た女性が何事もなかったかのように立っていた。

「あなたは……誰ですか?」

 上半身を起こしたリアンの口から驚愕の声が溢れた。

 リピートするように俺も思わず

「あなたは誰ですか?」

 そう尋ねていた。

 俺たちの台詞に喜悦したのか口角を上げた女はしばし俺たちを見つめてから口を開いた。

「そうね、いわば魔女ね」

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