58 賢治の死
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
村田、リリィおばぁ
――街の木立が真っ赤に紅葉し、山から北風木枯らし一号を吹き下ろす頃――。
大阪の下町商店街の町は秋のおとずれで活気はなくひっそりと静まりかえっている。
商店街の路地裏を角を曲がってちょっとひねってそのまた角の作家の宮里家の居間には、夏休みの間に、母・涼子の遺影の隣へ新しい遺影が掛けられた――。
チーン!
仏壇へ線香を立てる若葉。夏から髪型を少し変えて前髪を作っている。
賢明な眼差しで、並んだ遺影を見つめ手を合わせる。
「お姉ちゃん、義兄さん。KJのことはわたしに任せて下さい――」
涼子の隣へ新しく並んだ遺影は賢治である。
「ただいま」
顔半分のサングラスをした少年が帰って来たKJだ。
「KJ、お母さんとお父さんへただいまの挨拶しなさい」
若葉が、隣の座布団を叩いて合図を送る。
KJ、口を尖らせて反抗的に、
「お父さんは、死んでへん!」
「加計呂麻島病院のベッドで二人で、義兄さんの脈と呼吸が止まる所を確認したじゃない。徳山先生だって死亡診断書を書いたじゃない」
「でも、お父さんの死体はどこへ消えたん?死体が勝手に消えたっう事は、息を吹き返して甦った言う事やんか」
「……それは……警察がわからないけど、誰かが遺体を連れ去ったかも知れないって……」
「お父さんはきっと生きてるとボクは信じてる。だから、線香はあげへん。書斎で海咲ちゃんへ手紙書いてくる」
「ちょっとKJ!」
と、KJはさっさと二階の賢治の部屋へ上がって行った。
――賢治の書斎。
足の踏み場もなく積まれた書籍山。
賢治の机には、加計呂麻島から届いた愛人と海咲、絵描きの村田とリリィおばぁが一緒に映る写真がひろがっている。
KJは、ペンダントを開いて海咲を見つめ、賢治の机で、賢治の便箋へ賢治の万年筆で手紙の返事を書き始める――。
――玄関。
「ごめん下さい――」
小太りで小柄な丸眼鏡を掛けた頭の生え際が少しハゲた紳士然とした中年男が玄関口へ立ちインターフォンを押した。
――「2章 初恋のハイビスカス」 ー了ー
拙作「初恋のハイビスカス」通算ちょうど80話ここまでです。よろしければ、2章の感想などいただけると幸いです。




