57 振り下ろされた刃
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
徳山虎雄(76)加計呂麻島病院の院長。
徳山夏海(28)加計呂麻島病院の院長の愛人との子。院長夫人が強引に引き取り養女として育てられた。
徳山節子(78)島の名士の娘で虎雄の妻。
チェストー!
節子の振るった切っ先は鋭かった。とても賢治を威嚇して追い払う剣の切っ先ではなかった。まるで、獲物を仕止める狼牙のように――。
ヒラリ反転身をかわす賢治。衣の末端が切り裂かれている。
「ババァ、殺る気ですね。手を抜いたらこっちが殺られちまう」
節子、刀を蜻蛉へ構えジリ、ジリと賢治にじり寄る。
「お婆様やめて!」
――チェストー!
節子が、刀を振り下ろしたその時、海咲が駆け込んで来る。
「海咲危ない!」
海咲の一挙手一投足を注視していた愛人が、身を投げ出して、振り下ろされた刃の間へ入る。
「!」節子、海咲と愛人へ振り下ろした必殺の一撃はもう止まらない。
バサリッ!
節子の刃は二人目掛けて振り下ろされた――。
「海咲ちゃん、愛人さん、急に飛び出すと守れる物も守れなくなっちゃう……」
賢治が節子の刃から海咲と愛人を庇い体で覆い被さるようにして二人を守った。
「義兄さん!」
若葉が叫んで、血を流す賢治の元へ駆け込んでくる。
――あまりの出来事に呆然と立ち尽くすKJ。
節子、何かに憑りつかれたようにトドメの突きを放とうと構える――。
「節!目を覚ませ!!」
駆けつけた虎雄が、節子の頬を叩く。
「……わたしは、なんていう事を……」
波平をがくりと足元へ落とす節子。
「まずは、止血だ!」
虎雄が、賢治の背中の傷口を衣を引きちぎって塞ぎ溢れる血を止血する。
虎雄、若葉に、
「君!スグに救急車だ!!傷が深い、病院へ運んで輸血しないと手遅れになるかもしれん」
魂の抜けた節子が、虎雄に、
「……海咲は……徳山の血は……」
「あきらめろ!こうなった以上、徳山の血は終わりだ。後は彼等の言うように夏海へ医者の婿養子を取って家を存続するしかない」
節子、ペタンと力なく崩れ落ちる。――刀が目に入る。
節子、刀を首へ当て自決しようとする。
――ヒュン!
チャリン!
「ババァ……これ以上、女の執念でまわりに迷惑かけるな」
自決しようとする節子の刀へ、賢治が力を振り絞って、羽と柄、二つに切り裂かれた柄の方の扇子を放って自決を食い止め、がくりと気を失った。
「義兄さん!……義兄さん死なないで!!」
月明かりの惨劇に、若葉の叫びが悲しくこだまする――。
つづく
ちゃらんぽらんの無責任オヤジ賢治は一体どうなってしまうのか。次回もご期待下さい!




