49 多と個の願い
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人カナ(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲ミサキ(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人カナの娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
徳山虎雄(76)加計呂麻島病院の院長。
徳山夏海とくやま なつみ(28)加計呂麻島病院の院長の愛人あいじんとの子。院長夫人が強引に引き取り養女として育てられた。
虎雄の妻(78)島の名士の娘。
賢治はお猪口をトンっと飯台へ置くと話を話はじめた。
「海咲ちゃんは、離島を無医村にしないために徳山虎雄さんは病院の後継者として必要ですよね。一方、愛人さんは我が娘と暮らしたい、子を思う親の心がありますよね。どちらの願いも正しくて甲乙つけがたい。けれど問題は一つです。どちらが引くか、海咲ちゃんをあきらめるかです。まずは、現、養育者の虎雄さんから……」
「なんだ、私は加計呂麻島3000人の命を守らねばならない使命がある一歩も引けんぞ!」
賢治は愛人へ黒糖焼酎を進めながら、
「愛人さん、あなたの願いは極、個人的な小さな願いだ。諦めて下さい」
愛人、目を向いて、
「私は、5年も海咲と離れて暮らしました。あの娘が、私を探して浜へ来る度に、抱きしめたい心を必死で抑えつけ、心で泣いてきました。海咲に聞けばわかります。きっと、貧しくとも私と暮らしたいと言うはずです」
賢治は首を傾げて、
「さて、困りました。多くの人の希望になるのか、本人の望みを優先するのか、多か個か、私の知ってるライトノベルの主人公ならこう言うでしょう。愛するあなたと引き換えに世界を滅ぼしてもいいと……でも、現実はライトノベルのように、私も、愛人さんも、チートなスーパーパワーはもってやしない病院の院長の虎雄さんに比べればちっぽけな存在です。現状を覆すのは難しいですね」
虎雄が賢治に噛みついた。
「君はそれを分かっていてどうしてこうも面倒な席にしたのかね? 結論は私が正しいに決まっとる」
「いえ、私も頭では虎雄さんが正しいと分かるんですが、ど~しても気持ちが納得しないんですよ……こんなのどうでしょう?平日は虎雄さんの元へ置いて医者になるため勉学に励み、週末、土日は愛人さんに預ける。これだったらなんとか愛人さんも納得できるでしょう?」
「はい。本心は毎日、海咲と一緒にいたいけど、それなら海咲の将来も、私たち母娘の願いも果たせます」
虎雄は飯台を叩き怒鳴るように言った。
「バカ者!医者を志す者が遊んでおって成れるか!!医者になるのはそんなに甘いものじゃない」
賢治は、まあまあ、と虎雄を取り成すように黒糖焼酎をすすめて、
「私の友人で京大へ行って医者になった者がいましたが、小学校の間から塾と学校で休み時間も惜しんで勉強してました。中学では進学校へ行き、高校は灘へ行き常に闘いでしたね」
虎雄は、黒糖焼酎をあおる。
「ワシは、離島の田舎学問で貧乏だっただろう。医者になるため高校から大阪へ出たが、基礎学力が違っていた。なにくそ!負けて成るものか!!と、必死で学問に励んだが三浪で……(夏海の顔に若い頃の夏海の母の顔をみて)苦労をかけた……」
賢治は、虎雄の視線の先に料理を運んできた夏海を見つけ、
「おや、夏海さん。いいところへ私はあなたにもこの話し合いへ参加して貰おうと考えていたんです」
賢治は、自分の隣を叩いて着席をすすめた。
つづく
作者が、小説下手すぎて難しくなってしまって申し訳ございません。たぶん、映像なら、分かりやすいシーンです。




