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秘密結社KJラボ☆  作者: 星川亮司
2章初恋のハイビスカス
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44 さようなら少年

KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。


宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。


花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。




愛人(カナ)(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。


海咲(ミサキ)(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人(カナ)の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。



村田(26)東京の芸大から戦時中の画家田中一村に憧れて渡って来た絵描き。


徳山夏海(とくやま なつみ)(28)加計呂麻島病院の院長の愛人(あいじん)との子。院長夫人が強引に引き取り養女として育てられた。


徳山虎雄(78)加計呂麻島病院の院長


まるで、戦国の政略結婚のような虎雄であったが、患者の命を救うのと同じぐらいに、熱烈に愛した(ひと)があった。


それは、幼なじみの女性で、虎雄の思いに共感し、大人になり医者になるまで陰ながら支えた(ひと)だ。


勤務医になった虎雄は、その女性との将来を誓い合っていた。


だが、虎雄の夢の為には、加計呂麻島の有力者の娘との結婚が絶対の条件だ。


義父の徳山は虎雄へ迫った。


「野望取るか? 恋を取るか? 」


「私には大切な女性(ひと)です」


「だが、人生の選択は二つに一つだ!」


虎雄は、徳山議員の話に折れた。幼きあの日、弟の命に値段をつけた見殺しにした医者がどうしても許せなかった。俺は命に値段はつけない、命だけは平等! これが、あの日見殺しにした医者への復讐だ。



話を聞きながらKJは、虎雄の威厳と哀しみが分かったような気がした。すべては医者としての成功と引き替えにした愛の話なのだ。


虎雄は遺影を見つめながら静かにつづけた。


「お前の願いはわかる。だがな、この島には医者がいる。息子が死んだ今、私に変わる医者を育てねばならない。海咲(ミサキ)には、今から英才教育を施して必ず私が医者にする」


虎雄は、机の引き出しから手紙を取り出した。


「これは君に返しておこう」


KJが昨夜、愛人(カナ)と一緒に書いた手紙だ。


KJは、この手紙を受け取り虎雄に尋ねる。


「だったら、海咲(ミサキ)ちゃんは……?」


虎雄は目をつむり背を向けた。


「真っ直ぐな気持ちはわかった。海咲(ミサキ)もこの手紙を読めば君と同じ気持ちだろう。だが、この手紙を海咲(ミサキ)に渡すことはまかりならん」


KJは手紙を握りしめた。手紙がダメなら、肩に担いだプレゼントの絵だって渡してもらえやしないはずだ。


「孫に恋した最初の男が、私の心へ触れるとわな」


背を向けた虎雄が笑ったような気がした。


虎雄は院長の机へ収まり、


「君は実に勇気がある。間違いなく、ひとかどの人物になるだろう」


「ありがとう……」


「だが、野望を掴むためには、誰かへ取り入るズルさも必要だ」


KJは虎雄に言い負かされてしまったことに気づいた。


だが、KJは大人の虎雄に負けたくなかった。


「ボクは、海咲(ミサキ)ちゃんと比べられる子を知りません。海咲(ミサキ)ちゃんがすべてです!」


「今はそうかもしれない。時が経てば変わってくる」


「明日、加計呂麻島を出ます。お別れを言わせて下さい」


「ダメだ。海咲(ミサキ)の心を乱すことになるーー君との話はここまでだ」


虎雄は、受話器を取り誰かを呼んだ。


「KJくん。君のことは覚えておくよ」


虎雄は、右手を出しKJの手を掴んで握手した。


KJは完敗した。


「さようなら少年」

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