41 海咲(ミサキ)ちゃんと結婚させて下さい!
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
村田(26)東京の芸大から戦時中の画家田中一村に憧れて渡って来た絵描き。
徳山夏海(28)加計呂麻島病院の院長の愛人あいじんとの子。院長夫人が強引に引き取り養女として育てられた。
徳山虎雄(78)加計呂麻島病院の院長
「夏海!私に話があるのはこの方たちか、よく見れば、愛人もいるようだが」
加計呂麻島病院の院長、徳山虎雄は、見たところ齢80歳に迫っているのに、薩摩男で体躯のしっかりした医者と言うより体を鍛えあげた武術家のようだ。
KJをはじめ一同を見つめる目は、威厳に満ちたものだった。
「愛人に混じったこの少年たちはなんだ?私に直談判でもするつもりかね?」
KJが、ライオンのような虎雄の威厳に思いを躊躇いがちな愛人や大人たちより先に、勇気を出して見つめかえし、
「院長先生にお願いがあります。海咲ちゃんと結婚させてください」
「見たところ、海咲も子供なら君も子供だ」
虎雄は、子供の戯言と一蹴する感じはない。
「大人になったらです。海咲ちゃんが20歳になったら迎えに来ます。約束します!」
虎雄は、KJの心の奥底を覗き込むように目を見つめる。
「本気かね?」
「本気です。明日、ボクは加計呂麻島から帰ります。でも、どこへ行っても海咲ちゃんを思う気持ちは本物です。海咲ちゃんに思いを直接伝えたいんです!会わせて下さい」
「結婚の次は会わせろかね」
「お願いします!」
「ムリだね。馬鹿げた約束も会わせることも」
KJは懸命になって自分の気持ちを説明した。
「百人一首に恋の歌がたくさんあります。ボクの心は"みをつくし"です」
虎雄は、KJの言葉に興味を引かれたようだった。
「幼い子供のわりには、聡明だな。百人一首のみをつくしかね。誰がそれを教えた。君のお父さんかな?」
「愛人さんです・・・」
「愛人か・・・」虎雄は髭をさわり、小さく頷いた。
KJは昨夜の父・賢治のアドバイスを思いだしながら言う。
「海咲ちゃんもきっとボクを愛してくれると思います」
KJは、肩に背負ったアジャスターケースから、海でKJと遊ぶキラキラした村田の絵を開いて示した。
虎雄が納得したかどうかはわからない。しかし、何か思うところがあったらしく、少しの沈黙の後で言った。
「君はついて来なさい」
そのまま奥の院長室へ入って行った。




