40 徳山虎雄(とくやまとらお)
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中から、ひょっこり顔を出した。変な奴。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
村田(26)東京の芸大から戦時中の画家田中一村に憧れて渡って来た絵描き。
徳山夏海(28)加計呂麻島病院の院長の愛人あいじんとの子。院長夫人が強引に引き取り養女として育てられた。
徳山虎雄(78)加計呂麻島病院の院長
夏海の先導で加計呂麻島病院の裏口から入る。
KJの父・賢治の講演会を横目に見ながら、エロベーターホールへ入り、最上階まで来た。
忍び込むように夏海は、四人を会議室へ引き込んだ。
いよいよ、海咲ちゃんに会える。
KJの緊張は高まった。
一際明るい照明に照らされた部屋がある。"院長室"夏海が、部屋の前まで来ると愛人を振り返った。
「皆さん、ここで待ってて下さい」
そう言って中へ入って行く。
部屋は、重厚な机と皮張りのソファが並び、ピアノでヴェートーベンの"エリーゼのために"が聴こえてくる。
夏海はワザと扉を開けたままにし、あちらとこちらが丸見えになるようにして、机へ鎮座しピアノで心を安らげる男へ耳打ちした。
男はこちらを振り向いた。ちょび髭をくるんと左右に巻き上げた男爵髭の男だ。
男を見ると愛人が深々と頭を下げた。
男爵髭の男をKJは見たことがある。ウティリミズスの滝で見た黒塗りの車の後部座席でスモークの向こうへいた男だ。
あの顔だ!
海咲の祖父で、加計呂麻島病院の院長、徳山虎雄である。
院長は軽く会釈して立ち上がった。ゆっくり歩いて来る。KJは思わず震え、唾を飲み込んだ。院長に、海咲と将来結婚することを許してもらわなくちゃならない。




