33 バカオヤジ!
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
リリィおばぁ(76)愛人カナの島唯一の理解者
愛人が玄関へ出ると賢治が立っていた。
「たまたま、近くまで用事があって、前を通りかかると良い匂いがしてきたものですから、つい、インターフォン押しちゃいました」
「ちょうど良かったみんな今から晩御飯ですよ。一緒にね。どうぞ」
ーー居間。
「チャオ!KJくん、若葉さん。お元気?あはは・・・」
KJは子供ながらも思った。「1ヶ月もぼくたちを捨てて失踪しておいて、何事もなかったように気安くチャオ!だなんてどういう神経してるんだよ」と、
愛人が、自分の隣へどうぞと賢治を座らせ、カレーを差し出した。
KJは、複雑な心境だ。まったく悪びれもせずひょうひょうとしたお父さんはなんだ。あんなに恋しかったお母さんとお父さんが目の前に並んでいるじゃないか。ずーっと望んでいた光景がそこにある。
けれど、この無責任なオヤジ!のせいで愛おしい海咲ちゃんと明日には引き裂かれる。
KJの心情を知ってか知らずか賢治は、スプーンを角煮へ落としながら、
「ほぉ、これは肉が黒豚の角煮ですか?美味ですな」
「みんなで晩御飯を囲むのも今夜が最後になりますから、腕によりをかけました」
「え?今夜が最後?」
と、若葉が言った。
賢治がひょうひょうと、経口爽やかに、
「明日の晩餐は、加計呂麻病院で公演やったあと院長邸でごちそうになるんだ」
KJ、若葉、一瞬フリーズ!
「なんや?固まって??」
なんと賢治はたまたま気まぐれに帰って来て、KJが海咲と会える最後のチャンスを持ち込んだのだ。
つづく




