32 黒豚の角煮カレー
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
リリィおばぁ(76)愛人の島唯一の理解者
愛人は、圧力鍋へ薩摩の黒豚の三段バラ肉のブロック、生姜のスライス、ネギの青い部分を放り込む。
「リリィおばぁ豚肉は脂身と赤身が半々だよね?」
「そうだよ」
鍋へ、日本酒、黒砂糖、醤油、鰹と昆布の出汁を入れ蓋をする。
さっと、別の火口で、ざっくり大切りのニンジン、玉ねぎ、ごろごろジャガイモを鍋にかけカレーを作る。
ピーっと、圧力鍋から蒸気が上がる。愛人は少し置いて肉に竹串を刺す。
肉抜きで仕上げたカレーへ贅沢に、トロトロの黒豚の角煮を放り込む。
「出来上がった。KJくん、若葉ちゃん、リリィおばぁ、さぁ食べて」
ーー一時の団欒。
若葉、カレーに絡めた豚肉の角煮を口へはこぶ。
「角煮。口へ入れたらとけるようにトロットロ」
KJが角煮を口へはこぶ。
「お肉が、う~ん、あまあ~い!」
愛人、我が子を見るように微笑を浮かべKJを見つめて、
「元気出た?」
「・・・うん」
「加計呂麻島は今日、明日、2日間で最後だからね」
加計呂麻島滞在あと1日!
KJはびっくりして、隣の若葉を肘でつつく。
「本当なん?ぼくたち、明日が加計呂麻島最後や言うの?」
「そうよ。奄美大島発ー伊丹空港の飛行機は奄美大島から12:05分に出発するわ。加計呂麻島を朝イチで船で渡らないといけないから、加計呂麻島は明日が最後ね」
この時ばかりは、父・賢治のちゃっかり用意周到な性格を恨んだ。
だが、台風でもない限り飛行機は定刻通りに出発する。
なんと、言うことだろう。海咲ちゃんとはこれでお仕舞いなのだ。このまま永遠に離ればなれになってしまう。
めまいがするように、目の前が真っ暗だった。海咲ちゃんの笑顔が遠退いて行く。
ピンポーン!
インターフォンが鳴った。
「ごめんください」
と聞き覚えのある声が玄関から聞こえてきた。
つづく




