30 夢の中
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
照りつける太陽が静かにマリンブルーの海へ沈んだ。
「KJくん、若葉ちゃん。今日は、私がリリィおばぁに代わってスグにゴハンにするからね」
ビーチのライフセービングの仕事から帰った愛人がそう声をかけた。
プレゼントを渡せなかったKJは、あの後、どこをどう歩いて来たのか、嘉入集落をさすらって、諸鈍のリリィおばぁの家へ帰ったのか覚えていない。気づいたら布団の中へ居たのだ。
ショックのせいだろうか?朝食以外は口にしていないのに、お腹はすいていなかった。ぐったりと転がっているうちに、意識がまどろみ眠りが訪れた。
夢の中で、KJは海咲へのプレゼントの絵を抱え有頂天だった。
プレゼントの絵を渡した瞬間、目の前の海咲は、あの怖いお婆様へ変わって、プレゼントの絵を取り上げ、隠して黒塗りの車へ乗ってしまった。後部座席のウインドーが下がり、
「さあて、お前の海咲はどこへ行ったかな?」
KJは必死になって車を追いかける。嘉入集落の、風避けの植木がおおいかぶさるように行く手を阻む。KJはどうしても前進出来ない。
「お前の海咲はどこへ行ったかな?」
遠くで、お婆様の声がこだまする。その手にはプレゼントの絵が・・・。
「返せ!返せ!」
必死に叫ぶ自分の声に驚いて、目を覚ます。
何度かそんな事を繰り返すうちに、日は暮れた。若葉に揺り起こされた時、空に月が登っていた。




