29 ウティリミズヌの滝
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。父・賢治の手紙で夏休みの間、奄美大島へ来ている。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。KJの保護者。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。愛人の娘。今は、祖父母である加計呂麻病院の院長夫婦が無理矢理引き取っている。
村田(26)東京の芸大からやってきた。日本のゴーギャンと呼ばれた画家、田中一村へ憧れてやってきた青年。
台風避けの石垣と垣植の嘉入集落を走りぬけKJは、ウティリミズヌの滝で手をすすぐ麦わらの少女見つけた。
海咲だ!
「海咲ちゃん!」
聞こえてないのかも知れない。たぶん、距離がまだあるから聞こえないだろう。しかし、KJは呼んだ。
手紙読んだよ。キミへのプレゼント持ってきたよ。
ウティリミズヌの滝の海咲はKJへ気づかない。
「海咲ちゃーん!」
KJは、急ぎすぎて転びそうになりながら声のかぎり叫んだ。
そんな、KJの願いを遮るように、海咲と二人の間に黒塗りの車が停まった。
車の後部座席には、昨日見たお婆様。
さっと、運転手が、海咲を促して、お婆様のいる後部座席へ案内する。
「待ってよ!プレゼント持ってきたんだよ。渡したいんだ!」
KJは願いよ届けとアジャスターケースから絵を取りだし海咲の乗る走り出した車へ向かって絵を見せた。
走り去る黒塗りの車ーー。
駆けても、駆けても、KJの足では海咲との距離は引き離されるのだった。
ウティリミズヌの滝の描写はフィクションです。映像的に画像を抜いてつくれば可能ですが、実際には、滝で手をすすいだりは、むずかしいロケーションです。




