13 海咲(ミサキ)ちゃんーーッ!
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
海咲(8)徳浜ビーチで出会った女の子。
「海咲ミサキィィィーー!」
ビーチに甲高かんだかい声が響いた。
何事かと見ると、ビーチへ向かって走ってくる黒い人影。
「お婆様だわ!」
海咲の顔が蒼白になった。
「海咲!戻ってらっしゃい!」
海咲のお婆様は叫びながらなおも駆けてくる。
「(寂しそうに)KJ、もう行かなくちゃ・・・」
海咲は小さくつぶやくと浜へ上がった。
お婆様は、海咲が近くに来ると、その手首をギュッと握った。
まるでそうしないと、どこかへ飛び去ってしまうと思っているようだ。そして、お婆様は海のテントまで連れてって、Tシャツを剥ぎ取ると、キッとKJを睨みつけた。
鬼だ。
しかし、KJはその怖い鬼婆の顔が見えてなかった。拐われるようにして海咲が連れ去られるのを見守る人々も目に入らない。
傍らに駆けよってくる若葉ーー。
KJはただ海咲だけを見ていた。
「海咲ちゃんーーッ!」
遠ざかる海咲に向かって、名を叫んだ。
海咲はお婆様の腕の中で、じっとKJを見つめ返していたーー。




