6 古仁屋港から
KJ=宮里賢太(7)小学生でありながらサングラスをかけた町の問題児。
宮里賢治(36)KJの父、売れない作家。失踪中。
花巻若葉(18)KJの叔母、賢治の亡くなった妻、涼子の妹で、押し掛け女房のような事をしている。
愛人(32)奄美大島で観光ガイドをしている。賢治の亡くなった妻・涼子に瓜二つ。
奄美大島ーー鹿児島県の離島。古くは、薩摩藩の支配下にあり、サトウキビの栽培と、糸を先に染めて縦糸、横糸、計算通りに織りあげる大島紬と、沖縄とは違う薩摩藩の流れを汲む独自の文化を形成した。
大戦後、一時、沖縄と同じく、アメリカの統治下におかれた。
1953年(昭和28年)12月25日クリスマス。沖縄に先駆けて本土復帰した歴史を持つーー。
奄美大島、古仁屋港ーー日没。
海へ太陽が沈んで行く。
港へ路線バスが入って来る。
後部座席で愛人を挟んでKJは母へ、若葉は姉へ甘えるように愛人の肩へ頭をのせ寄り添って眠っている。
愛人、KJ、若葉に優しく耳元へ声をかける。
「起きて、ここからタクシーで、加計呂麻島へ渡るわ」
若葉、目を覚まして、
「・・・加計呂麻島?」
「奄美大島よりさらに、離島の加計呂麻島が旅の目的地」
「泊まりはホテルか、旅館ですか?」
「ごめんなさい。島には、ペンションや民宿しかないわ。今回は、宮里先生の指示で、わたしのおばぁの家へ泊まってもらうわ」
若葉は先にバスから降りて、港をキョロキョロと、
「港にタクシー一台もありませんね」
「タクシーそうね~今日は・・・」
と、愛人、港を指差して"でいご丸"を見つける。
「おじさんお待たせ」
愛人、KJと若葉の荷物を持って、海上タクシーへ乗り込む。
若葉、小ぶりの上に古い船体を見て不安で、
「船ですか?」
船長が、
「お嬢ちゃんと僕もいらっしゃい。スグ出るよ」
愛人、
「おじさんの船はポンコツに見えるけどよく走るわよ」
「愛人ちゃん。ポンコツそりゃないよ」
KJ、"ポンコツ"の響きにある種のロマンを感じて、愛人に借りた麦ワラをかぶり船へ飛び乗る。
「僕は海賊王になる男だ!」
仕方ない。と、若葉も乗り込む。
船長は、ロープと、橋を外し日暮れの海へ走りだした。
つづく。




