第十五話 貴族殺し
学園編第十五話。
懐かしのあの人が登場?
貴族殺し?
今回は少しばかり雑になってしまったかもしれませんが、いってみよー!
昨日のカイゼルとの試合を終えて、思ったことが1つある。カイゼルは俺が思ってた以上に良いヤツかもしれない。常に周りに気をかけてるし、貴族なのに亜人にも積極的に声をかけてる。
俺は席に座っていたカイゼルに声をかけた。
「お前って、高いほうだよな?」
「何が?」
「階級」
「あぁ、そうだね」
「亜人は嫌いじゃねぇのか?」
「うん、嫌いじゃないよ。亜人だって生きてるんだ。人と同じく、平等に接しなきゃね」
「…そっか、それを聞けて安心したわ」
顔だけじゃなく、性格までイケメンとはな。昔、三白眼で顔つきが怖いと言われた俺としては、羨ましいと思うね。…今も三白眼で顔つき怖いらしいけどな……。
1時限目の鐘が鳴った。
―――午前中の授業が終わり、昼休み。
腹が減り、食堂に向かう。
レストは居ないし、レイもどっかに行った。カイゼルの周りには相変わらずの人の輪が絶えない。
一緒に飯を食べるヤツも居なく、廊下を1人で歩いていると、見覚えのあるクリーム色の髪の女子が歩いていた。
「お、ルキナー」
俺はルキナに駆け寄る。
向こうも俺に気づいたみたいで手を挙げた。
「あ、ガルド君。久しぶり」
「おう、久しぶり」
「どうしたの?」
「一緒に飯食う相手が居なくてさー…。独り空しく食堂へ向ってるところに、たまたま歩いてた顔見知りを見つけて声をかけただけだよ。ルキナは?」
「私もだよ。ご飯食べる相手が居なくてね。…友達作るのが、少し苦手で…」
「へぇー…、意外だな」
「ふぇ…? そう…かな?」
「ふぇ…?」って可愛いなオイ。
ぶっちゃけ、ルキナは明るい性格だし、ルックスもかなり良い。
なのに、何で友達が出来ねぇんだ…?
「うーん…」
「ガルド君…?」
「あぁ、いや、何でもない」
「そう? あ、そのー…、話は変わるんだけどぉ…」
「ん?」
ルキナが何やらモジモジとし始めた。
え、何で急にモジモジしてんだ!? 何かコッチまで恥ずかしいし、緊張するんだけど!!
「一緒に…ご飯食べない?」
ルキナの言葉はとりとめのない言葉だった。
―――数分後。
「ん〜…美味しいぃ……」
美味そうに焼いたサーモルの身を頬張るルキナ。
サーモルとは、鮭に似た魚だ。習性まで似ており、川を上ってタマゴを産むことで知られている。安い上に美味いということで庶民にはポピュラーな魚だ。
ルキナは器用に箸を使い、身をほぐして食べている。
「ガルド君のも美味しそうだね」
「ブルルボアか?」
ブルルボアは角の生えた猪型の魔物だ。ブルルボアの肉はクセが強く、好みがハッキリと分かれる。亜人は好んで食べるそう。小さい頃から食べてたから好物の1つだが、食べれないという龍人族も少なからずいるらしい。
「クセが強いからな…。オススメはしねぇぞ?」
「そうなの?」
「あぁ」
「…食べてみてもいい?」
「え? 食べるのかお前?」
「食べてみたい!」
ルキナが身を乗り出して主張してきた。
てか、顔が近い近い。
「…後悔はすんなよ? ほら」
「うん、ありがと。では、いただきます…!」
切り分けたブルルボアの肉を箸で掴み、口に運ぶ。
そして、一口。
味を楽しむように、確かめるように咀嚼する。
少しして呑み込む。
「…………」
ルキナは黙っている。
「だ、大丈夫か?」
「…ぉ」
「…ぉ?」
「美味しい!」
「そ、そうか」
「もっと貰ってもいい? 私の焼きサーモルあげるから! というか交換しよ!」
「お、おう…」
結局勢いに押され、ルキナの焼きサーモルを食べる。
塩が少し効いており、白米と一緒に食べたいと思う味つけだ。無論、美味い。
…コレ、さっきまでルキナが食べてたヤツなんだよなぁ……。って、変な事を考えてんじゃねぇよ! ただの変態じゃねぇか!
落ち着け、落ち着け俺ェ……! こういう時は素数を考えればいいんだ。えーと…。アレ………? 素数って何だ!!?
「ガルド君、ガルド君」
「お、おう…。どうした?」
「ご飯、美味しいね」
ルキナが楽しそうにえへへ、と笑う。
まぁ、でも…。今はルキナの楽しそうな笑顔が見れただけで十分か。
結果オーライってヤツだな。
―――数十分後、食べ終わった食器を片付けて、ルキナと一緒に教室に戻ろうとすると…、
「オイ! そこの亜人!」
「あ?」
1人の貴族が廊下に立っていた。
亜人を嫌う貴族は多い。それ故、どうしても反射的に身構えてしまう。
「亜人の分際で……! 僕の前を横切ろうとは!」
「レイにやられた貴族か…、めんどくせぇ……。横切って悪かったな。それじゃ」
その場からさっさと立ち去ろうとするも、
「な…! その謝り方は何だ? 育ちがなってないようだな!? 無礼で野蛮な爬虫類めが!」
「あ…?」
さすがの俺もイラッとした。
確かに、龍人族は龍に似た特徴を持っている。それ故に、龍を神として崇める龍人族も居るくらいだ。
集落のほとんども龍を崇めている。いくら転生者とはいえ、俺もその龍人族だ。その一言には黙ってはいられない。
1歩前へ踏み出す。
「ガルド君、喧嘩腰はダメだよ! ごめんなさい、彼に悪気はないんです!」
すかさずルキナが仲裁に入り、俺の身体とエミールの身体に触る。が、
「触るな!!」
エミールがルキナの顔を叩く。
いや、殴るに近かった。
「キャ!?」
本気で叩いたらしく、ルキナは勢いで倒れる。
「おい…」
「何だ? 爬虫類」
「お前、今何した?」
「その女に触られたからな。少し罰を与えた」
「相手は女子だろ」
「知ったことない。所詮は平民、我々貴族になど到底及ばぬ存在だ。そんな事も分からないのか? 爬虫類」
「あからさまに権力を見せつけてるのか」
「ふん、見せしめ代わり…とでも言うか」
「お前…」
「?」
「…でらムカつくな」
左足を退く。
エミールは不思議がってこちらを見るが気にもならなかった。
「…硬化」
そう呟き、右腕を硬化させる。
左足を踏み込む。
踏み込みと同時に右腕を振りかぶる。
「なっ!?」
ようやく俺の行動の意味が分かったらしいが、もう遅い。
俺は問答無用でエミールの左頬に拳を叩き込む。
「お前みたいな貴族が! 俺は一番、嫌いなんだよォォオッ!!」
「ぶふぅっ!?」
エミールは軽く吹き飛び、転がる。
壁にぶつかり、ぐったりとした状態で止まる。気絶しているだけで息はまだあるようだ。死なれたら後々めんどくせぇ。
【称号:〔貴族殺し〕を獲得しました。この称号によるステータス補正はありません】
世界の声か…。久しぶりに聞いたな。
随分と物騒な称号貰っちったなぁ…。
いや、今はそんな事よりも、だ。
「ルキナ、大丈夫か?」
「うん、あの貴族の人は…?」
「気絶してる」
「ガルド君…。ゴメンね…」
「謝んな、お前は悪くねぇよ。悪いのは完全に俺だ」
「…怒られるよ、きっと」
「怒られたら謝るさ。頭擦り付けてな」
「ホントに…ゴメン」
「気にすんなよ。あ、立てるか?」
ルキナが立つのを手伝う。
ルキナを立たせた後に保健室へ連れていく。ついでにクソ貴族も担いで保健室へ運ぶ。
…確実に怒られるな、コレ。
ルキナは保健室でカンタンな手当てをしてもらい、教室に戻った。エミールはベッドの上で気絶したままだ。
そして、今俺は学園長室に居た。
まぁ、そりゃあ怒られるわな。
学園長が重々しく口を開く。
「全く…やってくれたな、少年…。君は誰を殴ったか分かっているか?」
「エミール=フォン=アルカトラ…でしたっけ」
「あぁ、彼の家、アルカトラ家はかなり大きな力を持っている家だ。学園内は貴族の権力を制限はしているが…。全く、さすがギルバの息子だな」
「父ちゃんを知ってるんですか?」
「あぁ、ギルバもここの出身だからな」
「学園長…一体いく…」
「何か言ったか?」
「いえ、何でもないです」
危ねぇ…、学園長からの殺気が尋常じゃなかった…。今後は気をつけよう。
「昔ギルバも1度、貴族を殴っている。しかし、アレは不可抗力としか言いようがなかったがな」
「そうなんすか…。父ちゃん何やってんだよ…」
「君が言えたモノではないだろう。罰として今日1日、私の仕事を手伝ってもらう」
「…え?」
「どうしたのだ? そんな意外そうな顔をして」
「罰にしては軽くないですか?」
「少年、私の重労働を甘くみるなよ」
そう言った学園長は羽根ペンにインクを付けて紙に何かを書き始めた。
少しして書き終わったのか、羽根ペンを戻し、紙を4つ折りにする。
「彼女の元へ、飛びなさい」
すると、手紙が宙に浮き、IV組の方へ飛んで行った。
「シャルル先生への連絡はこれでいいだろう。さて、まずは何をしてもらおうか」
「一応、言っときますけど…俺、力仕事ぐらいしか出来ませんよ?」
「ふふ、本当に似ているな。それじゃぁ、そこの資料を第一資料室に持って行ってもらおうか。場所はここを出て左だ。空いてるところに置いてくるだけで構わない」
「了解っす。…って、思ってた以上に重いな…」
資料の入った箱を抱え、学園長室を出る。
廊下はやはり静かだ。とは言っても、ここの廊下に教室はない。あるのは観葉植物のみ。
「…ここか」
しばらくして第一資料室に着く。
両手が塞がってはいるものの、尻尾でドアを開ける。
ドアを開け、中に入ろうとした俺は驚いた。
制服姿の女子が資料室に居たからだ。
気配なんて微塵も感じなかった。
制服の色からして先輩…、2年生か…。
「ここに何をしに来た?」
高圧的な声音、それでいて凛としている。
長い黒髪を簡単に結んでいる。目は赤く、真っ直ぐに俺を見ている。
「学園長に頼まれて資料を持ってきたんですよ」
「学園長に?」
「そうですけど?」
「…怪しいな。学園長が1年生に頼みごとをするとは」
「…いや、疑われる要素あります?」
「勘違いするな。疑ってはいない。怪しんでいるんだ」
「いや同じだろそれ!」
「…ふむ。学園長から頼まれたと嘘をつき、資料室に忍び込む。そして資料を盗む計画だったようだが…、そうはさせんぞ!」
うわー、めんどくさい人に関わっちゃったなぁ…。
「そろそろ資料置きたいんで…、もういいですか?」
「動くなよ? 動いたら容赦しないからな」
「後輩相手に殺意むき出しかよ!? 大人げねぇなこの先輩!」
「む? 今、せ…、先輩と言ったか?」
「え、あー、はい。言いましたね」
「そ、そうか…! やはりいい響きだな…、先輩ィ…!」
何か…、急に喜びを噛み締め始めたぞこの先輩。
よっぽど嬉しかったのか、小声で「先輩、先輩かぁ…。先輩〜…♪」って喜んでる。喜び方可愛いなオイ。
「私のことを、せ、せせせ先輩と呼ぶという事は、君は後輩か?」
「そうですけど…?」
「そ、そうか。コホン、疑って悪かったな、後輩君」
「やっぱ、疑ってたんだ…」
狼狽えていたかと思ったら、咳払いをし、胸を張って「私が先輩だ」と言わんばかりだ。
「あぁ、自己紹介がまだだったな。私はアルシア」
「俺はガルドです。そういえば先輩は何してたんですか?」
「私は授業で使う資料を探していたんだ」
「あぁ、なるほど。…って、ヤバイ! 早くしないと学園長に怒られる…!」
「そうか、引き止めてしまってすまないな」
「いえ、それじゃ!」
俺は資料の箱を置き、第一資料室を後にした。
その後も馬車馬のように働かされた俺は既にヘトヘトだった。日はもう沈み、辺りは暗い。
それでも今日は少し、
「…気持ち良く寝れそうだな」
月が少しばかり大きく見えた。
父親の過去を知ったガルド。
そして、アルシアという名の先輩。
雑になってしまって申し訳なく思いますが…、次回もお楽しみに!




