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パーティーは賑やかに行われた。
みんな恭の料理を残さず食べたし、その後さらに杜芳が大量に買い込んできた、このパーティーに合わせて呼ぶならば、スイーツをそれぞれ味見をし合いながらすべて食べてしまった。
そして午後11時半過ぎ、何か映画を見ようということになり、みんなのリクエストをメモして恭と杜芳が近所のレンタルショップに向かった。
「恭も明るい子だけど、昔とちがって少し大人しくなったわ。でも、アズサは相変わらずね。」
茉里が食器を拭きながら、まるで近所の子供たちを世話したあとのような言い方をした。それを隣で聞いていた都姫は吹き出して、危うく大皿を割りそうになってしまった。
「杜芳くん、外見が女の子っぽいの変わらないね。」
都姫が懐かしそうに微笑みながら言った。
「まあね。あの子小さいときから赤毛だし、クセっ毛だから。指の先とか綺麗だし、身体もますます締まって薄くなっちゃったみたい。だからよけいじゃない?」
「美人だから良いじゃない。」
そう言いながら、都姫は恭の笑い顔を思い出す。
杜芳と恭は、学生のときから少女漫画に出てきそうな美少年だった。茉里も、さばさばした性格に美貌を兼ね備えている。
みんな明るくて良い子だ。私は場違いだな。と、いつも都姫は思っていた。鏡をみると、いつも自分の顔めがけて、鏡が割れてしまうくらいのパンチをいれたいという衝動にかられた。
「恭くんと何か喋った?」
茉里が食器棚に皿を並べながら言った。都姫が少しの間考えるような顔をする。
「モンブランを食べてたとき…」
「モンブラン?ケーキの?」
都姫が頷いた。しかし、また沈黙が流れる。茉里は辛抱強く待った。
「恭が、オレンジクリームと生クリームの入ったシューを分けてくれた。それで、おいしいって言ったら、よかったって…」
茉里はなぁんだあと肩を落とし、食器拭きを続行した。進展無しか…とも呟いた。
私は、今はじめて茉里に嘘をついた。そう考えただけで都姫の鼓動が激しくなった。本当は、杜芳と茉里がお互いのケーキについて評価しあっている隙に、恭がシュークリームを手渡しながら、そっと彼女の形の良い耳の元で囁いたのだ。
『今日会えて、嬉しかったよ。』と。
片づけが終わり、茉里と都姫が、来週から茉里がメインモデルを努める雑誌について意見交換をしていると、男子二名が帰宅してきた。
「は〜い、ただいまから映画観賞会を開催致しま〜す!」
杜芳が言うと、みんな拍手をした。この家にある唯一のテレビはかなり大きい。ビデオをセットし終え、恭が電気のスイッチとリモコンのスイッチを押した。
4人はソファ組みとクッションとシーツを敷き詰めたフローリング組みに別れた。フローリング組みは茉里と杜芳、ソファ組は必然的に都姫と恭になった。
映画が始まったとたん、テレビからチカチカと放たれる光のなかに、映画を見るときのあの何とも言えない緊張感が生まれた。闇と電気の音が広がる。
都姫はさり気なく、気づかれない様に横を見た。少しぼやけた恭の横顔、首の太さ、胡座を組んだ長い両足。それらすべてが彼女を不安に追い込んだ。
今こうしている時間は、今だけだ。これが終わったその瞬間に、華やかで何も遠慮のいらない学生時代の雰囲気は跡形も無く消え去ってしまうだろう。そして、二人は元の24歳、バツニの独身に戻るのだ。
都姫は映画に視線を戻した。涙が零れそうになって、体育座りをして顔半分を隠した。




