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Lip Cream  作者: 蒼惟 宙
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もうすぐ都姫が来る…。

恭は青野菜と鶏肉を炒めながら、台所の壁に掛かっている時計を何度も見ていた。リビングのテーブルでは、アズサと佐倉崎が準備を着々と進めている。

「五縞、遅いな。」

アズサが独り言のように言った。佐倉崎がそうねえと言いながら、テーブルクロスの皺を伸ばす。

「あの子、時間にルーズな方じゃないのに。」

「そういえばさ、昔この4人で映画行ったとき、あいつ待ち合わせの20分前にきて、雨の中でずっと待ってたよな。水色の傘さして。」

アズサの言葉に、恭はその頃を思い出した。

高校三年生の夏休み、恭が都姫に告白し、二人は付き合い始めた。それからどこに行くときでも、待ち合わせをすると都姫は必ず約束の20分前に指定場所に到着し、恭を待っていた。それは、猛暑であろうが、激しい通り雨が来ようが、しんしんと雪が降っていようが、関係なかった。

『どうして20分も前に?もっと遅くて良いんだよ。』

いつか恭がそう言った時、都姫は少し驚いたような顔をしてから、彼女のパッチリと大きな睫毛の長い目を細め、首を微かに傾げた。それが彼女の微笑むときのクセだった。

『私、人を待つ間ほかの人を見ているのが好きなの。いろんな人を見てるとね、自分は一人じゃないんだなって安心するの。』


料理をすべて大皿に盛りつけ、小皿をテーブルにセットしていると、インターホンが鳴り響いた。佐倉崎が小走りに玄関へと向かい、ドアを開けた音がした。

「遅いぞ、都姫。」

そんな事を言っている佐倉崎の声が聞こえた。恭は口から心臓が飛び出しそうになるほど激しく動揺していた。都姫に会うのは、2ヶ月半ほど前の公園以来となる。

「おう、五縞。久しぶり。」

アズサの言葉で恭が顔を上げると、そこには膝丈の紺色のコートを着てジーパンを履いた都姫が立っていた。

恭は、その瞬間、何か感動のようなものを覚えた。あぁ…都姫だ、と。安心感のようなものが心を包んだ。何も変わらない、清潔な化粧をしない顔。

「こんばんは」

彼女は目を細め、微かに首を傾げた。

「こんばんは」

恭もぎこちなく挨拶を返す。

「お腹空いちゃったわ。ね、ご飯にしましょ。」

ルンルンという言葉がぴったり当てはまる口調で、佐倉崎が、コートを脱いだ都姫を指定の場所に着席させた。それは、佐倉崎の左隣、恭の目の前だった。

「今日はワインで乾杯しよう。」

そう言って音頭を取ったのは、アズサだった。都姫も微かに笑みを浮かべてワイングラスを持ち上げた。


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