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「五縞、コピー終わってる。」
相丸颯太が都姫の肩を軽く叩くと、彼女は目を見開いて10cmほど上にある彼の顔を見上げた。
「え?あぁ、ありがと。」
都姫は慌ててコピーした原稿を集め、機械の上で整えた。そんな彼女を見ながら、颯太はほんの少し哀しい目をして微笑んだ。都姫がそれに気がつくはずも無い。
「今日は様子が変だね。」
彼の問いかけに、都姫はぎくっとした。
『今日の夜7時半、クオールマンションだからね。』
今朝の電話で茉里から何度も時刻と場所を告げられた。都姫はその突然の誘いに唖然とした。
初めはスイーツパーティーという甘い言葉に、行く行くと元気良く頷いた。しかしその後に続いた場所に、彼女はしばらく声が出なかった。クオールマンションは、恭と都姫が暮らした場所だ。そして、今も恭がそこに住んでいる。
「?どうした?」
黙ってしまった都姫に、颯太が再度声をかけた。
「な、何でもないよ。」
都姫は努めて明るく彼に言ってから、急いでコピー室を出た。
若くして何本ものドラマや映画に出演している人気女優のコメントをまとめながら、都姫は今日のパーティーに行こうかどうか悩んでいた。
でも、と、心の中で微笑む。スイーツパーティーなんて、茉里らしいわ。
高校二年生になったばかりの春、都姫は突然、杜芳の家に呼ばれた。都姫は学校帰りに真っ直ぐ彼の家に向かった。もちろん、それがスイーツパーティーだと知って行ったのだ。しかし、そこには杜芳と鞠以外に、杜芳の親友の瀬朶恭がいた。それが、都姫と恭が初めて出会った日だった。
茉里とアズサが仕組んだのだと、彼らは後になってから二人に言った。茉里と杜芳は幼なじみで、小学校中学校と別々だったが、高校が偶然一緒になったと、前に都姫は茉里から聞いた。
『私が都姫の、アズサが恭くんの話をする度に、あの二人はきっと出会う運命にあるんだって、アズサと言ってたの。だから会わせたのよ。』と、茉里がそのパーティーの帰り道、とても満足そうに言っていたのを都姫は鮮明に記憶している。
本当に出会う運命だったのだろうか…。
都姫の中で、後悔したことはないけれど、疑問に思うことは何度もあった。
「五縞さん、いつも仕事が早くて感心するわ。」
いつのまに来たのか、彼女の背後から編集長が手元を覗いていた。都姫も自分の手元に焦点を合わせると、すでに原稿が書き終わっていた。読み直しをしてみたが、間違いがなかったので、彼女の今日の仕事は終わった。
パーティー…行ってみようかな。
都姫は腕時計を確認して呟いてから、駅へと足を進めた。立ち並ぶビルの隙間から赤い夕日が地上の全てを染めていた。そこに迫って来ているグレイに近い藍色の空には、薄っぺらい半月が貼り付いていた。




