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「佐倉崎〜!」
芳杜が手を挙げて呼ぶと、彼女は驚いたように眼を輝かせ、それから笑顔で彼に駆け寄った。
「どうしたの、アズサ。仕事は?」
「今度の企画の打ち合わせが近くであったから、寄ってみた。ちゃんと仕事してるかなと思って。」
ちゃっとしてるよっ。と言って、佐倉崎は軽く頬を膨らませた。アズサは少し笑ってから、彼女に今から予定がないかを訊いた。
「うん。今日はね、ファッションサマーフェスタっていうのがあそこの会場であって、今終わったところ。」
「昨日電話で言ってたね。上手くいった?」
「もちろんよ。」
佐倉崎が笑みを浮かべると、芳杜も微笑んだ。
二人は雑貨店やレストランなどの店が並ぶ通りに出て、オープンテラスのあるカフェに入った。
「今日は見せたいものがあるんだ。」
テラス席に座って注文をし終わってから、芳杜は持っていたカバンに手をいれ、真っ白な封筒を取り出した。それは、イギリスからの手紙だった。
「わあっ!!」
佐倉崎が手を叩いて、歓喜の声をあげた。芳杜は「俺もまだ読んでないんだ」と言って、彼女に封筒を手渡した。
「私が読んでいいの?」
佐倉崎が驚いたように言うと、彼はにっこりと笑って「どうぞ」と言った。
慎重に封をあけた。中には、小さな花の絵が散りばめられた、白く清潔な感じのする便箋が三枚入っていた。そこには、見慣れた達筆な文字が並んでいた。
「都姫が書いたんだね。」
二人で便箋を見て微笑みあい、佐倉崎はそれを声に出して読んだ。
『DEAR茉里、芳杜くん
お元気ですか?
ずっと手紙が出せなくてゴメンね。こっちでは分らないことだらけで、恭のお母さんに手伝ってもらいながらいろいろと忙しくしていました。
私と恭がイギリスに来てからもう一年半も経つなんて、信じられません。時が経つのは早いです。
茉里、この間は誕生日プレゼントありがとう。大切にします。お皿とかカップとか、すごく可愛くて使うのがもったいないです。
芳杜くん、もうすぐお誕生日だね!おめでとう!プレゼントを送ったので、楽しみにしていて下さい。
もう少しして落ち着いたら、日本に遊びに行こうと計画しています。その時はぜひ二人に会いたいです。
それから、私たちの結婚式は来年の春に決まりました。式はこちらで挙げたいと思います。そのことは、また改めて連絡するね。
では、二人とも体に気を付けて、元気でね。
FROM恭、都姫
追伸:恭がこの間、やっぱり都姫と同じだったって佐倉崎に言っておいてって言ってたんだけど…。何が同じなの?』
「リップクリームだよ。」
佐倉崎がそう言って、微笑んだ。そして不思議そうに彼女を見る芳杜の顔を見て、晴れ渡った夏の綺麗すぎる空を見上げた。
向こうの空にも、あの白い雲は浮かんでいるのだろうか…




