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Lip Cream  作者: 蒼惟 宙
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明日で1月が終わる、と、カレンダーを見て都姫はぼんやりと考えた。

いつも月末になると寂しい気持ちになった。過ぎ行く時を感じてか、それとも月末という名のつく数日そのものが不安になるからか。

子供のときは後者だった。なぜか月末には、形は違っていても、比較的よく不幸があった。近所に住むおじさんやおばあさんが事故や寿命で亡くなったり、愛犬が車にはねられてしまったり、両親が別居することが決まったり。

しかし大人になってから、具体的には20歳になった頃からは前者となった。終わると言う言葉に、とてつもなく大きな絶望のようなものを感じるのだ。「大袈裟ねえ」と茉里は笑うが、都姫にはそれこそが重要で、安易に今まで過ごしてきた日々を見送ってしまったりしてはいけないのだと思っていた。

だが、今年初の月末は、そんな絶望を受け入れている暇はなかった。

俺の言ったこと、考えておいて欲しい。

あの日、恭が帰ってから颯太から電話がかかってきた。都姫はその言葉に応えられなかった。

私は彼になんて言ってあげればよかったのだろう。

頭の中にはそればかりが浮かぶ。茉里にも杜芳にも、もちろん恭にも言えないことだ。それは分っている。茉里は「恭くんとはどうするの。」と都姫を説得しようとするだろうし、杜芳は「五縞が恭に対して気持ちの整理ができてるなら。」と肩を叩いてくれるかもしれない。恭は、「都姫の気持ちが一番大切だよ。ゆっくり考えたら良いさ。」とゆったり微笑むだろう。

こんなふうに先回りして人の行動や発言を予測してしまうのは、都姫の条件反射的習慣だった。

こんなこと、馬鹿げている。

都姫は足の短いテーブルに右肘を置き、頭を支えた。いつから人の全ての前に先回りしていこうとするようになったのだろうか。しかし、この問題での都姫の『気持ち』において、さらに『恭』が関わってくる。それは事実だ。

私は、どうしたらいい………?


翌日、都姫は病院に行くことになっていたので、タクシー会社に電話を入れた。

タクシーのシート等は発する独特な臭いが都姫は苦手だ。ただでさえ乗り物に弱いのに、とても我慢できない。窓の外を見て、何とか乗り切る。

しかし、恭の運転する車だけには酔わなかった。恭が運転するからという理由が正しいのかどうかは分らないが、とにかく都姫は、彼の運転する車の助手席では気が楽だった。

病院で検査をすべて終えて、都姫は、帰りは電車に乗ろうと思い立ち、駅の方へと足を進めた。途中、ファミリーレストランがあった。都姫は昼ご飯を食べていなかったので、看板に誘われ、自動ドアをくぐった。

「いらっしゃいませ」

若い男の子が出て来て都姫を席へと案内した。男の子の店員なんて珍しいなと思いながら、都姫はメニューを開き、紅茶とグラタンを注文をした。

あたりに何気なく視線を移す。休日ということもあって、家族連れも所々に見受けられた。

家族という名称のつく団体を目にすると、都姫は胸が痛んだ。

都姫の両親は共働きだった。なので、都姫はほとんどの時間を一人で過ごしているような子供だった。近所に友達はいなかった。友達、という信用を置かなければならない存在を作るのはどうしても嫌なのだ。

どうして赤の他人を信用などできただろうか。自分の両親でさえもそうできないというのに。

母はよく浮気をした。幼かった都姫にも分るほど明らかだった。父は生真面目で働き者だったが、出世を重ね、家族のことなどどうでもいいという人間になった。やがて離婚して父は再婚をし、都姫はその父についていった。それしか選択肢が無かったのだ。母は自分から離婚届を押し付け、家を出たのだから。

しかし、新しい母親は都姫を受けていれてはくれず、父の態度も変わらなかった。結局、都姫にとっては同じ事だったのだ。

都姫をずっと支え続けてくれたのは、茉里たちだ。中学生になって、親しく話しかけてくる茉里に友達を作らない理由を告白すると、彼女はしばらく考え込んで、「私、死んでもあなたを守る。」と、何の躊躇いも無く宣言した。そして、有言実行した。死にはしなかったが。

杜芳も恭も、いつしか都姫にとってなくてはならない存在となっていた。しかし、彼女はまだ微妙に彼らと距離をとってしまうところがある。それは自覚していた。

ふと外を見ると、吹雪いていた。それもかなり強く。

今日で1月が終わる。

都姫は傘を持ってこなかったと後悔しながら、やはり絶望を味わった。


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