採点AI
AIとはもうお馴染みになっている人工知能のことである。
今やコンピュータプログラムは計算だけでなく、いろいろな判断ができ、
さらに感情まで持つことができるという。
まあ、感情と言ってもいろいなケースをデータベースして、
比較しているだけである。
しかし実は、人間もそうだ。
小さな頃からのいろいろな経験を脳に蓄積して感情を形成しているのだ。
太田教授はT大学数学科教授でAIの第一人者だった。
教授のAIは7次元変位型マトリクスを用いた独自のアルゴリズムだった。
教授は端末に向かい、渋い顔をしてモニターを見つめていた。
「教授、次は真美ちゃんですよ」
講師の吉原は教授に声をかけた。
麻野真美はフィギュアスケート選手で今回のオリンピックの金メダル候補である。
太田教授研究室の全員で教授室にあるテレビで観戦していた。
教授は時々、テレビを見るが、ずっとモニターを睨んでいる。
麻野真美のフリー演技が始まった。
彼女はショートプログラムでトップに立っている。
『ミスなく演技をこなせれば、金メダルは確実』と解説者は絶叫していた。
高くジャンプした。
トリプルアクセル、成功。
高速スピン、バランス。
4回転ジャンプが決まった
最後のポーズが決まり演技を終了した。
採点結果が出た。
麻野選手は両手で顔を覆い、崩れ落ちた。
わずか0.1点差で2位だった。
地元選手の金メダルが確定して会場は沸き上がっていた。
アーっと研究室のみんなが声を上げた。
みんながため息をついて肩を落とした。
解説者はジャンプが回転不足と判断されたと嘆いた。
「完璧なジャンプだろう」
講師の吉原は叫んだ。
素人目には完璧なジャンプだった。
「採点が怪しいなあ」
小太りの男子学生が批判の声を上げた。
「今後は技術点はコンピューターで判定すべきですよね」
女子学生も同意した。
「いや芸術点も判断できるんじゃないかな」
眼鏡を指で押さえて学生が言った。
テレビでは麻野選手の演技のスローモーションが再生されている。
『ここのひねりが足りません』
解説者が嘆いた。
教授は顔をくっと上げ、テレビを見つめた
「これだ。今度は採点をAI化する」
教授は宣言した。
3ヶ月後、AIプログラムが完成した。
教授がAIプログラムの2週間で基本設計した。
それをオブジェクト化し、講師や学生たちが実際のプログラミングを行った。
学生たちはプログラムがオブジェクト化されているため、
どんなプログラムか全体を把握できなかった。
教授はそれぞれのオブジェクトをマージしてテストを行った。
見つめていた学生たちは息を飲んでいた。
結果がモニターに表示された。
『宮沢 4回ひねり』
学生たちは首をひねった。
『橋本 3回ひねり』
教授は満足げに頷いたが、学生たちはまた首をひねった。
「どうやって演技の映像を入力するんですか?」
小太りの学生が教授に質問した。
「映像?」
今度は逆に教授が首をひねった。
「スケートの演技を判定するAIプログラムじゃないんですか?」
眼鏡の学生が言った。
「スケート?そんなの判定できるわけないだろう」
教授は笑いながら言った。
勘違いの原因に気付いたようだ。
「これはショートショートの面白さを判定するプログラムだ」
「ショートショート?」
全員が揃って声を上げた。
「オリンピックを見て決めたんじゃないんですか」
小太りの学生は言った。
「いや、あの時趣味で書いていたショートショートを推敲していたんだ」
教授はスケートを採点するAIではなく、ショートショートを判定するプログラムを開発したのだった。
『さきら天悟 題名:AI採点 2回ひねり』
日順位 45位